社長エッセイ

社長の日曜日 vol.2  ハナミズキの季節に 2023.04.10 社長エッセイ by 須毛原勲

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  毎朝、神田川沿いをジョギングしている。

  桜はすっかり新緑に変わってしまった。満開の桜もとても綺麗だが、この季節の新緑が好きだ。朝の日差しに照らされてエネルギーに満ちあふれている。桜が散った今、花水木が開き始めている。花水木は一青窈の”ハナミズキ”という歌が流行ったので知る人も多いが、実は私自身はこの曲が流行った2004年頃には殆ど聴いたことがなかった。自分がシンガポールから上海に異動し、多忙を極めていた時期でもあった。1998年から2003年までシンガポールに6年、そのまま上海に赴任して11年。合計17年間、日本の流行などに非常に疎くなってしまっていた。今でもテレビを見ていて当時のことで知らないということが少なくない。海外駐在員あるあるかもしれない。

  先日、中国駐在時代の部下と夕食を共にした。当時彼は中国企業との合弁会社に副総経理として出向していた。合弁会社での複雑な立場の彼に、ずいぶんと苦労をかけたなという気持ちが久しぶりに会って蘇ってきた。会うのは実に6年振り。手土産に53度の白酒を持ってきてくれた。お酒を携行して出張に行くのは思うよりも煩わしい。スーツケースの中に入れると割れてしまうかもしれないのでハンドキャリーせざるを得ない。その気持ちが嬉しい。思い出話をすることは殆どなく、彼が現在日本の代表を務めている会社と何か一緒にビジネスが出来るかもしれないということで盛り上がった。日本で働いている中国人と話をする機会は少なくないが、彼のような中国人には殆ど会えていない。彼は日本への留学経験が無いにもかかわらず、日本語の発音に訛りが殆ど無い上に語彙選びも適切、ロジックの構築も分かりやすく、それでいて尊敬や謙譲の気持ちを込めて話をする。私がそれを褒めると、彼は在職中の会社の日本本社の皆さんのお陰で自分の日本語が上達したと感謝の言葉を述べていた。残念ながら私がいた会社は彼のような人物に相応しいチャレンジの機会を与えることが出来なかった。ビジネスパートナーという新しい関係で、私たちが狙うべき領域は脱炭素、新エネルギー関連。環境関連は半導体などのような経済安全保障的な問題は殆どない。日本と中国の双方にとってwin-winとなれるような事業を生み出せればと思う。再度、ビジネスの話をする約束をして別れた。

  別の日には、当社が戦略的パートナーシップを締結している深圳のアクセラレータiMakerbaseの丁総経理らと浅草で会食した。会食の時間まで少し余裕があったので雷門から仲見世を通って浅草寺に参拝した。地下鉄の浅草駅のホームでも人が相当多かったが、雷門の前は観光客であふれていた。レンタルの着物を着てスマホで写真を撮っている観光客。明らかに人出が戻ってきている。政府は5日、中国からの入国者への新型コロナウイルスの水際対策を緩和した。コロナ禍前2019年におよそ3188万人いた訪日外国人のうち、中国からの渡航者は3割を占め、国別・地域別では断トツ一位だった。水際対策の緩和に依り、中国人が以前のように日本に訪れるようになれば国内経済は必ず良くなるだろう。

  因みに、会食の場所は浅草国際通り本店の今半。個室で和服を召されたお店の方が丁寧に対応してくれるので海外からのお客様の時は安心して使えるお店。浅草という場所もそうだし、日本の神戸牛が食べられるということで外国人のお客さんも少なくなく、外国人の扱いには慣れている様子。最後に外国人向けのお土産も頂いた。

 iMakerbaseの丁総経理と曾副総経理と淄博支店(山東省の中心に位置する都市、人口300万人、春秋戦国時代の国家斉の首都があった都市。)のスタッフの三人との会食。丁総経理と曾副総経理とはオンラインでは毎月話をしていたが、リアルで会うのは今回が初めて。思っていたよりも小柄だなと思った以外はオンラインでの時の印象と殆ど変わらなかった。淄博支店のスタッフは、山東省の青島の大学で日本語専攻。今回の出張が彼女の初めての日本とのこと。初めて訪れた日本は、どこに行っても凄く清潔だと感動していた。

 彼らはスタートアップ向けのインキュベーション事業、アクセラレータ事業を展開している。広東省の深圳に本部を構え、スタートアップ支援拠点が深圳に2カ所、広東省では順徳市(白物家電、空調、工業用ロボット事業の美的の本社がある場所)に1カ所。江蘇省の無錫市に1カ所。山東省の淄博市に1カ所。合計5カ所の拠点を持っている。深圳のものづくりのエコシステム、サプライチェーンを活用して、スタートアップのものづくり、コスト作りの支援と投資家からの支援提供、各拠点が位置する都市の政府機関との協業による支援などを展開している。

 当社と彼らとの提携で目指すのは日本のスタートアップの深圳のエコシステムを活用してのものづくり、コスト作り支援と中国進出支援。これまで相当数の日本のスタートアップにアプローチしてきたが、なかなかビジネスには繋がっていない。正直、深圳のエコシステムの活用は、理屈では理解出来るが、スタートアップは製品の開発段階を既に終えており、いかにコスト競争力があったとしてもゼロからそのシステムを活用して商品を再開発することはハードルが高い。更に、グローバル展開は考えてはいるが、まだその段階にないというスタートアップが殆どであり、且つその最初の市場として中国を考えているスタートアップは非常に少ない。多くのスタートアップがまずは日本国内での成功を目指そうとしている。資源が限られているスタートアップにとって、そうせざるを得ない状況であることも想像に難くない。

  一方、米国のスタートアップは最初からグローバル展開を目指したものづくり、ビジネスモデル作りを目指している。中国でも戦える商品を作り、中国で事業展開ができれば、国内でも十分な競争力を身につけることに繋がるはずだ。

 同時に我々は、iMakerbaseが支援している中国のスタートアップの日本進出の支援もしている。米中関係が緊張している今、中国企業にとってのグローバル展開として日本市場を第一の候補と考える企業は増えてきている。前述の通り、コロナ禍以前、中国からの日本へのインバウンドは年間約1000万人近くに達していて、日本に観光で来たことがある中国人も少なくなく、日本に対して良い印象を持っている中国人は多い。

  この2年間、数々の海外スタートアップの日本進出を支援してきたが、多くの課題も浮き彫りになってきている。上手くいかないスタートアップにはそれなりの傾向と理由があり、上手くいきつつあるスタートアップには成功するための同じような特性がある。

 我々は、コロナ禍の状況で会えない間にも多くのことを学んでいる。これまでの経験を踏まえて、今後お互いに行き来できるようになりつつある今、何をしていくべきか。

 気がついたら、2時間半。お酒を一滴も飲まず、ずっとビジネスの話をしていた。

 そう、中国人は必ずお酒を飲むというのは誤解。飲まない人は少なくない。

 翌日、深圳に戻った丁総経理から長いメッセージがWeChatで送られてきた。

2023年4月9日記

by 須毛原勲

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