社長エッセイ

社長の日曜日 vol.10 さまざまな6月初旬  2023.06.05 社長エッセイ by 須毛原勲

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 台風2号がもたらした線状降水帯による大雨が上がって、今朝は抜けるような初夏の青空だった。

 34年前の今日。1989年の6月4日も日曜日。「6月4日は何の日?」と聞かれたら、1989年に起きた天安門事件を想起する人も少なくないと思う。あれから、34年。

 私にとっての1989年6月4日日曜日。あの日も抜けるような青空だった。その日は私が結婚した日。6月に結婚すると幸せになれるという言い伝えを信じた当時の彼女(現在の妻)のたっての願いで6月の大安吉日に結婚式を挙げた。

 その当時、国際事業部アジア部の東南アジア担当だった私は、毎日とてつもなく忙しい日々を送っていた。あの当時を少し振り返ってみたい。

 34年前と今では仕事の仕方が大きく異なる。当時パソコンは1人1台の時代ではなく、課で2台くらいのパソコンを共有して使っていた。メールは存在せず、紙に文書を手書きし、それをファックスで海外に送っていた。ファックスが届かない、回線状況が良くない国に対しては、テレックスで電文を送っていた。

 テレックスは1文字いくらで料金がかかるため、できるだけ短縮形で表現する必要があった。例えば、Pls(Please)、Tmrw(Tomorrow)、Thx(Thank you)、ASAP(As soon as possible)、FYI(For your information)などである。基本的には英語の短縮形であるが、YRSK(よろしくお願いします)のように、現地の駐在員向けの表現も使われたりしていた。

 現在ではパソコンやスマートフォンが1人1台当たり前の時代である。メールやSNSがコミュニケーションの主流となり、リアルタイムでの情報交換やファイル共有が容易に行えるようになった。さらに、クラウドサービスの普及により、データや文書の保存・共有も簡単になった。紙に文章を書いてファックスで送っていた時代のコミュニケーションと比べると、雲泥の差である。

 それに加えて、最先端のいろいろなツールが出てきている。DeepLの自動翻訳のレベルは非常に高い。これまでのGoogle翻訳とは格段の差。Grammarlyは文章の文法やスタイルを自動的にチェックしてくれる。何かと話題の生成AIも、ChatGPT、GoogleのBard、MicrosoftのBingなど、揃い踏みしてきた様相。それぞれ、一長一短があるが、活用次第で仕事の効率化に役立つ。

 コロナ禍が明けて、対面で人と会うことが可能になった。オンラインでの打ち合わせだけでは得られないことや成し得ないことが、対面でのコミュニケーションには存在する。熱意を伝えたり、他者の気持ちを高めたり、本音を感じ取ったりすることができる。また、相手とのケミストリー的な相性や、仕事をする中で楽しいという感情を共有することも対面の方がはるかに効果的である。

 最先端のツールを最大限活用しつつも、人との対面でのつながりやコミュニケーションを大切にすることで、より広く深い人間関係を構築し仕事を充実させることができるだろう。34年前と今では仕事をする環境は隔世の感があるが、本質的な部分は実はあまり変わらないのかもしれない。

 話は変わって、テスラ創業者イーロン・マスク氏が5月30日から6月1日にかけて、中国の北京と上海を訪問したというニュースが報じられた。この訪問は日経新聞には小さな囲み記事として掲載されただけだったが、海外メディアでは大きく取り上げられた。そして、彼の中国訪問が報じられたその日テスラの株価が大きく上昇した。

 マスク氏の訪中時に面会した主要人物を、日経新聞、ロイター、ブルームバーグなどの報道を基にまとめてみる。

 5月30日には秦剛国務委員兼外相との会談。秦氏は「EVなど新エネルギー車は拡大していく。中国は今後も高水準の対外開放を推進し、テスラを含む外国企業にとって国際的なビジネス環境の整備に尽力する。」と発言。米中関係について「健全で安定した建設的な中国と米国の関係が、両国だけでなく世界に利益をもたらすだろう。」と強調した。

 王文濤商務相との面会では、米中の経済や貿易協力について話し合われた。王氏は「中米両国の経済は深くつながっており、相互尊重などの原則に基づいて経済や貿易の対話と協力を強化すべきだ。」と述べ、マスク氏は新型コロナウイルス禍での上海工場への支援への謝意を示し、中国の発展の活力や潜在力を称賛したという。

 金壮竜工業情報化相との面会では、EVや「新エネルギー車」、「コネクテッドカー」の発展が話題になったと伝えられている。工業情報化省は自動車などの産業政策を担当しており、テスラが「フルセルフドライビング(FSD)」と呼ぶ運転支援機能を中国で導入する意向があるとされ、その説明のために訪問した可能性があるとのこと。

 丁薛祥副首相との面談も行われたものの、面談内容については明らかになっていない。丁氏は共産党中央政治局常務委員会の常務委員7名の内、序列6位で、国務院常務副総理(筆頭副首相)。李強首相の経済運営を補佐。李強首相との面談もアレンジされたとの報道もあるが、確報はない。

 上海市党委員会書記陳吉寧氏と面談。元清華大学学長、北京市長を経て、昨年10月、政治局常務委員に昇格した李強氏の後任として上海市党委員会書記に就任。面談内容は不明。

 加えて、世界最大のバッテリーメーカーである寧徳時代新能源科技(CATL)の曽毓群社長と中華料理のフルコースを堪能したとのこと。

 31日の深夜には上海のテスラのギガファクトリーを訪問し、ハンバーガーとソフトドリンクを差し入れ、従業員に向けてスピーチを行ったと伝えられている。そして、6月1日の11時にプライベートジェット機で米国に向けて旅立ったという。ネットにはGIGAファクトリーのGIGAの文字のプレートを右手で胸に掲げ左腕を高く上げ、従業員達に囲まれたマスク氏の写真がアップされている。

 現地に行き、直接人と会う。マスク氏の行動力は本当にすごい。僅か30数時間の滞在時間でこれだけの要人や関係者と面談したことには驚嘆するしかない。

 マークラインズによれば、2022年の世界の新車販売台数は7950万台で、内、中国は2686台。世界市場の中で中国の占める割合は33.8%、世界最大。米国は1440台。同じく、18.2%。日本は420万台。世界市場の5.3%にすぎない。

 EVの世界販売台数は777万台で、内、中国は503万台。テスラの2022年の世界販売台数は約154万台で、そのうち46%にあたる71万台が中国での販売であり、地元米国の52万台を大きく上回っている。

 トヨタグループの2022年の世界販売台数は988万台で世界シェア12.4%。米国が21%(211万台)、中国が19%(184万台)、日本が19%(191万台)、その他が41%(402万台)となっている。トヨタの中国における総販売台数は184万台であり、テスラの71万台を大きく上回っている。テスラの上海のギガファクトリーの年間生産台数は現在125万台で、これを175万台に拡大させる許可を申請中とのこと。4月9日付の日経新聞電子版の報道によると、「テスラは中国・上海市に大型蓄電池の工場を新設するとのこと。新工場は2023年7〜9月期に着工し、24年4〜6月期に生産を始める。中国国内だけでなく、海外への輸出拠点としても活用する。生産目標は年1万個としており、これは約40ギガ(ギガは10億)ワット時の電力を蓄電できる計算。米カリフォルニア州に持つメガパックの工場と同じ規模になる。テスラがメガパックの大規模工場を米国外につくるのは初めてとみられる。米中対立の影響で、米国企業の一部が中国への投資を再考するなかでも、テスラは中国市場を重視する姿勢を崩していない。」

 一部の米国企業が中国への投資を見直している中でも、依然として中国市場へのマスク氏の関心は揺るがないことが一連の動きから見て取れる。中国という市場の重要性と将来のビジネス環境に対する彼の強い信頼。そしてそれが中国側に伝わっているからこそ、これだけの人たちがマスク氏に会おうとするとも言える。

 中国政府もまた、マスク氏の訪中に重要な意味を見出している。それは、新エネルギー車やコネクテッドカーなど未来の自動車技術の開発に大きな価値を置いている中国にとって、テスラは重要なプレーヤーであり、その存在は中国の自動車産業発展を後押ししているという事実に基づいている。

 イーロン・マスク氏は南アフリカ出身で、PayPalの共同創業者であり、スペースXとテスラの創業者であるとともに、脳内にチップを埋め込む技術を開発するニューラリンクの共同設立者でもある。昨年は、Twitterの買収により世間を賑わせたことは記憶に新しい。自身が南アフリカ出身で、その後カナダを経て米国で事業を展開し成功を収めてきた異文化体験とその多様性に対する理解が、中国という国に対しての理解に繋がっていると考えることも出来るが、それ以上に彼が中国市場を重要視している理由は、中国市場が今後も重要であり続けると信じていることだと思う。

 5月31日の日経新聞朝刊12面の小さな囲み記事として報道されたマスク氏の中国訪問の記事のタイトルは、「マスク氏は米中分断反対」。

 同じく13面には、「米中、国防相会談見送り 米「中国が拒否」制裁巡り溝」の見出し。米中は6月上旬で国防相会談開催の可能性を模索してきたが交渉が決裂に終わったと報じている。マスク氏の記事の2倍以上のスペースを割いて。

6月4日記

by 須毛原勲

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