社長エッセイ

社長の日曜日 vol.11 梅雨入りとコロナ禍明けのビジネスと  2023.06.11 社長エッセイ by 須毛原勲

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 気象庁は8日、関東甲信の梅雨入りを発表した。梅雨の蒸し暑さや傘を持ち歩く煩わしさには辟易とするが、この時期でしか味わえないものもある。

 朝のジョギングコースには今、文字通りいろいろな色の紫陽花が誇らしげに咲いている。地味だが味わいのあるガクアジサイや、ひときわ大きく立派な円錐形の花房がたわわなカシワバアジサイも見かける。今週は早朝ジョギングができないほどの雨の日が数日あった。紫陽花はこの時期の象徴そのものであり、雨後の水滴を纏った美しさには目を引かれるが、なぜか少し憂鬱な気持ちも連れてくる気がする。

 先週、当社で2年間インターンをしていた大学院生が中国・上海に帰国した。彼女は私が上海駐在時代にお世話になった日本料理店の店主のお嬢さんで、お父さんは日本人、お母さんは上海人。彼女の国籍は日本。私は上海に駐在していた11年間のうち約7年間単身赴任生活を送っていたため、彼女のお父さんのお店で夕食をとることもしばしばあった。彼女が北京大学に合格したとの知らせを受けたその日の夜も、私はそのお店で軽く飲みながら夕食をとっていた。その知らせを嬉しそうに話す大将に、お店の常連さんと、「トンビが鷹を生んだ。完全に奥様の遺伝だ。」などと、一緒に喜んだのを覚えている。その後私が北京に駐在していた時には大将はお店を休みにして奥様と一緒に北京を訪れ、当時北京大学の学生だった彼女と4人で食事をしたことも懐かしい思い出だ。

 2年前、久しぶりに大将からWeChatでメッセージが届いた。お嬢さんが東京大学の大学院に合格したとのこと。日本で彼女と再会し、その後夏休みや時間が空いた時に資料の整理などの仕事を手伝ってもらってきた。2年という時間はあっという間に過ぎて、大学院をこの春無事卒業した。

 彼女の2年間はずっとコロナ禍の中での生活だったため、授業もオンライン授業が主であり、友人を作る機会も遊ぶ場所も限られ、かなり制約が多い留学生活だったようだ。コロナ禍でなければ、もっといろいろと経験出来たであろうことが、本人はもちろんだが私もまた残念な思いである。

 彼女が帰国する前日、上野でランチを共にした。上野は上野動物園にパンダがいることもあり、街にパンダ関連のものがあふれている。「日本人ってほんと、パンダ好きだよね。」「中国人もパンダは大好き。」「中国と日本ってあんまり仲良くないけど、パンダは大好きなんですね。」「不思議ですよね。」「可愛いものは可愛いってことでしょ。」

 彼女の日本留学生活がコロナ禍で不自由だったことと同様に、ビジネスの世界もコロナ禍の影響を大いに受けてきた。この3年間、日本企業の海外ビジネスは減速することを余儀なくされてきたが、ここに来て、中国や東南アジア進出を目指す企業様からの問い合わせが増えていることを実感している。世界経済はまだまだ回復に時間がかかるとは言え、昨今の円安の状況もあり、海外への輸出を考えている日本企業が増えてきている。

 日本の社会は少子高齢化が進む中で、人口減少の流れは止めようもない。2004年12月の12,784万人(高齢化率19.6%)をピークに、2030年で11,522万人(同31.8%)、2050年には9,515万人(同39.6%)、2100年には4,771万人(同40.6%)程度。最悪、4,000万人も切ってしまうかもしれない。(以上、国土交通省「国土の長期展望」中間とりまとめ参照。高齢化率は65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合のこと。)

 日本の合計特殊出生率が1.29のまま推移すると、2500年の日本の人口は10万人程度となると試算されるらしい。(「合計特殊出生率」とは、“その年における15~49歳の女性の各年齢別出生率を合計したもの。”)

 5月7日にイーロン・マスクのTwitterが話題なったのは記憶に新しい。

“At the risk of stating the obvious, unless something changes to cause the birth rate to exceed the death rate, Japan will eventually cease to exist. This would be a great loss for the world.”

「当たり前のことを言うが、出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ消滅してしまうだろう。それは、世界にとって大きな損失である。」

 人口は力なり。国力そのものである。人口が減れば、消費が減り、GDPは自ずと減っていく。日本企業の更なる成長の為には、海外進出、グローバル展開は必ず考えるべき課題である。

 去る6月2日にフィリピンにてRCEPが発効された。これで、参加国15ヵ国中14ヵ国で発効されたことになる。残るはミャンマーのみ。

 時間は前後するが、スリランカのラニル・ウィクラマシンハ大統領は5月25日、日経フォーラム第28回「アジアの未来」で講演し、「スリランカは高いレベルの経済自由化を目指し、東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)への加盟を申請する。」と話したと5月26日日経新聞にて報道された。久しぶりにRCEPの報道を目にしたような気がする。

 RCEPとはASEAN10ヵ国と日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの計15ヵ国が参加する「地域的な包括的経済連携協定」であり、2022年1月1日に日本を含む10ヵ国で発効された。世界のGDP、貿易総額、人口の約3割を占める地域の大型協定である。また、日本にとっては初めて経済連携協定を締結する中国、韓国を含めて、日本の貿易額の約5割を占める地域がカバーされる。市場アクセスの改善、知的財産や電子商取引などの幅広い分野のルール整備を通じて、地域における貿易の自由化と投資の促進およびサプライチェーンの効率化を目指しており、自由で公正な経済秩序の構築への貢献が期待される協定である。

 日本にとってのメリットはアジアの大市場へのアクセスの向上。中国との初の経済連携協定であるため、貿易・投資環境の改善が期待される。一方、デメリットは、市場開放により農業等の国内産業に影響が出る可能性がある。ルールがTPPほど高度ではないため、十分なビジネス環境の改善が図れないかもしれないとも言われている。

 

 日本人にはRCEPよりTPPの方が馴染みがあるし、なんとなくTPPは日本にとって素晴らしい協定という印象があるような気がする。TPPはもともと米国を含む12ヵ国(日本、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国、ベトナム)により2016年2月に署名され、日本経済にとって大きなインパクトをもたらす協定の締結として大きな話題となった。その後、2017年に米国が離脱宣言をしてしまい、残った11ヵ国の枠組みで、2018年11月に「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(TPP11協定)として発効された。2016年、安倍首相(当時)が米大統領に就任したばかりのトランプ氏をニューヨークの私邸「トランプタワー」に直接訪ねて、TPP離脱を表明していたトランプ氏の翻意を直接促したのを記憶している方もいるだろう。

 TPPは正式にはCPTPP。Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnershipの略である。今年3月、英国のCPTPP加入の実質妥結が発表された。2023年中の正式署名を目指すという。現在、中国、台湾も加盟申請中である。

 RCEPとCPTPPの大きな違いの一つは、RCEPには中国と韓国が含まれているが、CPTPPには含まれていない点である。そもそも、CPTPPの成立で当時の安倍政権が目指した背景には、貿易拡大だけでなく中国の影響力をそぐ防波堤の役を期待した事情があると言われている。中国が官民一体で周辺国に勢力を広げれば、各国は貿易や資金面で依存を強める。民主体の自由で開かれた市場をめざす資本主義のルールが脇に押しやられ、日本の進出企業にも逆風となる。経済を糸口に中国は政治・軍事面でも影響力を増すだろう。これに対抗するため米国を地域の経済秩序に組み込み、その巨大市場の磁力で仲間作りを進める――。経済と安全保障を融合させた対外政策が、安倍政権下で勢いを増した。(一部、日経新聞電子版より抜粋)米国が抜けた現在、日本がCPTPPで目指していたことと現実とは大きく乖離してしまっている。

 現時点では、経済的な規模から言えば、RCEPの方がはるかに大きい。上述したように、RCEPの対象国15ヵ国合計のGDP、人口ともに世界の約3割を占める。一方、CPTPPは英国を加えても、GDPで15%、人口では7%に過ぎない。CPTPPも中国と台湾が同時加盟すればその規模も様相も大きく変わっていくだろうとはいえ、同時加盟がそんなにすんなりと行くとも思えない。

 

 今は、RCEPという素晴らしい枠組みを積極的に活用していくべきだと思う。

 一方で、どの国に進出してもやらなければならないことは同じように手間がかかる。企業は売ろうとしている商品の該当国での市場規模、競合状況、価格帯等を事前にきちんと把握してからどの国に参入すべきかを慎重に検討すべきである。その選択には先入観を持ち込まず、同じ人、モノ、時間、お金をかけるのであれば、その投資に見合う果実が得られる国への参入を優先すべきだ。

 RCEPの加盟15ヵ国のGDP、人口、1人当たりGDPを以下の通りまとめてみた。ご参考になれば幸甚である。

6月11日記

by 須毛原勲

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