久しぶりの海外出張で、数日間日本を離れていた。たった数日の間に、ジョギングコースの神田川沿いの遊歩道に彼岸花が列になって咲いていた。植物の花は、気温や日照時間、生物学的リズムや土壌の状態が組み合わさって毎年同じ時期に咲くことができるらしいが、出張前には芽さえ出ていなかったようなのに、あっという間にアスパラガスのような茎が30-40センチも伸びて、大きな艶やかな花を咲かせている。まさに、お彼岸に合わせたように。
風に乗せられてきた金木犀の香りが一瞬、鼻をくすぐった。秋の訪れは確実により濃くなっている。
先週、シンガポールとバンコクへ出張した。シンガポールは6年振り、バンコクへは実に約10年ぶり。チャンギ空港に着いたら、シンガポール独特の匂いが充満していた。1998年から2003年の6年間、シンガポールを拠点に年間150日くらい海外出張をし、しょっちゅう利用していたチャンギ空港の記憶。なんとも言えない気分になった。
今回の海外出張では円安を実感した。ホテルや食事など、円換算するととても高い。10年前の為替は、USドルが98円、シンガポールドルが78円、タイバーツが3.2円。現在は、それぞれ47%、31%、31%と円安になっている。セントーサ島のゴルフコースの外国人のプレイフィーは900ドル(約9万円)だそうだ。以前は日本人駐在員で賑わっていたが、今は日本人は殆どいないとのこと。駐在員の人たちは、円安で生活するのも大変だろうと思う。いい円安と悪い円安があると言われるが、現在の円安は既に度を超えているような気がする。
現地の人との会話を通じて、コロナ禍を経て仕事の仕方が大きく変わっていることを実感した。コロナ禍の最中に多くの国が在宅勤務を推進し、その勤務形態は今も続いているようだ。基本的に在宅勤務が主流となり、週に2、3回オフィスに出勤する形が一般的。バンコクの中心部の住宅価格は上昇しており、そのため郊外に住む人が増えている。郊外からの自動車通勤者は都市部の渋滞に悩まされていたが、在宅勤務が増えたことで交通渋滞からの解放という恩恵を受けているとのこと。コロナ禍の中で、タイではハーマンミラーなどの高級なワーキングチェアがよく売れていたらしい。パソコンに外付けモニターを追加するなど、自宅での快適な仕事環境を求め、環境が劣るオフィスでの作業を避ける傾向が強まっているようだ。こうした傾向は世界中で同じなのかもしれない。
さて、先週に引き続きEVの話。
先週、中国の新エネルギー車関連のレポート『中国新エネルギー車:2023年上半期総括とTOP20社動向』の発行を情報開示して以来、お陰様で多くのお問い合わせを頂いている。
そもそも、なぜこのレポートを発行するに至ったのか。
中国の新エネルギー車についての情報は、いろいろなメディアで頻繁に取り上げられている。日経新聞を始め、優秀な記者達が情報を収集し、分析しきちんとした記事にして報じられていると感じる。
しかし、記事の頻度やスペースの制限などもあり、それらの記事を読むだけでは中国の新エネルギー車についての現状をきちんと把握することは難しいのではと感じていた。自分自身、読者の立場から、日頃何となくもどかしさを感じていた。
まず、中国の自動車市場のその規模の意味を正確に理解しなければならない。
世界の自動車市場の規模は7,700万台(2022年実績、以下同じく2022年実績ベース)。中国市場は2,434万台(工場出荷ベースは2,686万台、輸出が253万台、国内販売台数は2,334台となる)で世界市場に占める割合は32%。無論、世界最大の市場である。新エネルギー車(EV+PHV)の市場規模を見てみると世界全体で1,000万台。中国は607万台であり、実に61%を占める。
対して日本市場は420万台。世界市場に占める割合は5.5%。新エネルギー車は9.2万台。世界市場に占める割合は0.92%。実に1%にも満たない。
トヨタの中国における販売台数は184万台。トヨタの世界販売は897万台なので、約20%を中国で販売していることになる。因みに、米国もほぼ同じ185万台。お膝元の日本は125万台。トヨタにとって中国が主要市場である事実は歴然である。
中国市場2,434万台のうち、トヨタは184万台、マーケットシェアは7.6%。一方、中国市場における新エネルギー車(EV+PHV)販売台数が607万台に対して、トヨタは17,532台。トヨタの中国における新エネルギー車マーケットシェアは実に0.29%である。17,532台の内、昨年トヨタが満を持して中国で上市したbZ4X(SUV)が7,289台を占める。bZ4Xは販売を押し上げてはいるが、ネット等で見かける市場での評判は正直芳しくない。
自動車産業は、日本経済の根幹そのものである。その自動車産業における日本の優位性が今確実に崩れようとしていることは数字を見れば明白である。
さて、トヨタが、「世界最大の自動車市場」且つ「世界の3分の2を占める新エネルギー車市場」である中国において苦戦をしている事実を知ったとき、次に知るべきなのは、では誰が中国の新エネルギー車市場における勝者なのかということである。
市場の状況はめまぐるしく変わっている。以前、新興EV三社としてもてはやされた蔚来(NIO), 理想(Li-Auto), 小鵬 (XPeng)をいまだに中国のEVのリーダーとして取り上げる記事やセミナー等が散見されるが、事実は大きく変わってしまっている。2023年上半期の販売実績を見ると、理想(Li-Auto)が6位でかろうじてTOP10に入っているが、蔚来(NIO)は12位。小鵬(XPeng)は18位まで落ちている。
去る7月26日、フォルクスワーゲン(Volkswagen)自動車グループは、小鵬(XPeng)に約7億ドルを投資し、小鵬の約4.99%の株式を取得することを発表。さらに、小鵬との電気自動車の共同開発も発表した。このニュースは日本のメディアではあまり大きくは取り上げられていないが、今後、小鵬が大きく地位を挽回する可能性もある。
現在の中国の新エネルギー車TOP20社の顔ぶれは以前とは一変している。
「敵を知り己を知れば又百戦あやうからず」。言わずとしれた『孫子の兵法』の言葉である。広く知られている3C分析においても、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の観点から市場環境を分析すべきと謳われている。
市場環境を正確に捉えることは、あらゆる事業において最も重要、且つ先ずやらなければならないことである。そのために、当社発行の『中国新エネルギー車:2023年上半期総括とTOP20社動向』を是非ご活用ください。
詳細は、こちらから。https://sugena.co.jp/hot/ev-report/(本レポートの発行は終了しました。)
※データの出典は、中国自動車協会及びマークラインズ社。
9月20日記