社長エッセイ

社長の日曜日 vol.43 不適切にもほどがある! 2024.02.13 社長エッセイ by 須毛原勲

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 立春を過ぎた2月5日、東京は大雪に見舞われた。翌日にかけて雨混じりになり、思ったより早く雪は融けたが、それでもところどころ凍って足元が危なく、再開したジョギングはおっかなびっくりの歩調になってしまった。公園のベンチには誰が作ったのかムーミンの雪像が立っており、朝日に照らされ、風格のある姿が微笑ましかった。ムーミンは「トロール(架空のいきもの)」である。そのとおりに、翌日にはどこかへ跡形もなく消えてしまった。

 2月10日は旧暦の正月に当たり、中国では17日まで春節の8連休が設けられている。春節には、中国人の多くの友人たちからWeChatで祝賀のメッセージが届く。深圳で物流会社を経営する同い年の友人からは、「可能过段时间去东京!非常想见你!一起喝酒吧!」(しばらくしたら東京に行けるかもしれない!本当に会いたい!一緒にお酒を飲もう!)というメッセージ。また、北京時代に親しくなった卓球の元オリンピックチャンピオンからも、「我今年有可能去日本。如果我去了日本,我们就见面吧。」(今年は日本に行く可能性があります。行ったら会いましょう。)という連絡があった。春節をきっかけにしたこれらの交流は楽しいものである。

 中国政府によると、今年の春節では延べ90億人が移動すると予想されている。90億人という数字を聞くと凄いなと思うが、自家用車を除いた旅客数は全体の2割にあたる延べ18億人と、2023年春運時より3億人少ない計算らしい。

※「春運」とは、中国における春節前後の大規模な移動の期間を指す。

 今年は中国の不景気の影響で、海外に出かける人は思ったほど多くないようだ。在上海日本総領事館によると「大型連休前に日本行きのビザの申請が増える傾向は変わらないが、(申請数は)19年と比べると半分程度」という。人気の目的地は近場のアジアのようだ。中堅旅行会社の同程旅行の調べでは、中国人観光客の旅行ビザを免除するタイの首都バンコクが春運期間中トップだった。2位クアラルンプール、3位ソウルで、日本では、7位に東京、9位に大阪がランクインしているくらいである。日本向けの観光客がなかなか増えない理由は、中国の景気低迷による節約志向に加えて、日本渡航にはビザが必要なことも影響していると思う。実際、東京で生活していて、電車の中とか街中とかで中国語を耳にする機会はコロナ前に比較すると少ないように感じる。中国人観光客が本格的に日本に戻ってくるにはもう少し時間がかかりそうだ。

 さて、TBSで放送中の宮藤官九郎脚本のドラマ「不適切にもほどがある!」を楽しく視聴している。阿部サダヲが演じる主人公が1986年から2024年にタイムスリップする物語である。各話にはサブタイトルが付いていて、第一話は「頑張れって言っちゃダメですか?」、第二話は「一人で抱えちゃダメですか?」、第三話は「可愛いって言っちゃダメですか?」。宮藤官九郎は週刊文春連載中のエッセイで、このドラマが山田太一の「ふぞろいの林檎たち」のオマージュ、あるいはパクリであると述べている。1986年はバブル絶頂期で、当時のシーンはその時代のディテールまで忠実に再現されており、オンタイムで経験した自分には懐かしく、昨今の「コンプラ」重視の世の中を斜めに見る切り口も我々年代には思うところが多い。

 1986年は、私が社会人2年目を迎えた年である。配属された部署は若いチームで、常に笑いに包まれていた。当時はパソコンが一人一台の時代ではなく、新製品のラップトップを数人で共有していた。メールは存在せず、メッセージは手書きでファックスで送り、ファックスが普及していない地域へは、テレックスを用いた打電が行われていた。今では、テレックスという言葉を知る若者はほとんどいないだろう。夜、残業している先輩がテレックスのテープを首に掛け、格好良く見えたことを覚えている。残業は日常的で、夕食は社食で済ませ、日付が変わるころまで会社にいて終電に駆け込むことも珍しくなかった。隅田川の花火を芝浦の職場ビルから眺めたことは、良い思い出である。仕事は結構ハードだったが、若かったこともあり、それがまた楽しい時間だった。今となっては、不適切にもほどがある!ことばかりだが。

 ここに来て、また「政治と金」の問題が取りざたされている。

 NHKの報道によると、東京地検特捜部の捜査で、自民党の安倍派、二階派、岸田派が、おととしまでの5年間で合わせて9億7000万円余りのパーティー収入を政治資金収支報告書に記載していなかったことが明らかになっている。これを受けて、各派閥がおととしまでの3年分の収支報告書を訂正した結果、安倍派と二階派の当時の所属議員などの団体に合わせて4億9259万円の寄付が追加されたことがわかっている。残りの金額は「翌年への繰越額」として記載されたと見られる。2022年分でも過少記載が確認されており、不適切な記載が常態化しているとみられる。特に、安倍派は議員がノルマを上回って販売した分を議員側に還流しながら、派閥側も議員側も収支報告書に記載していなかった疑いがあり、二階派にも同様の不適切な処理が見られる。これは国民には見えない裏金作りとして批判されている。

 政治資金規正法は、政治活動が国民の監視と批判の下で行われることを目的としている。派閥から議員に資金が渡ることはあるが、その流れを透明にすることが法の趣旨だ。不記載や虚偽記入は、公民権が停止される重罪である。

 最大派閥「安倍派」(清和政策研究会)の「5人衆」の一人だった萩生田光一前政調会長は、2018年から5年間で清和政策研究会(安倍派)から2728万円の資金還流があり、政治資金報告書に不記載だったことを記者会見で明らかにした。カネは事務所の引き出しに入れてあったという。何千万という現金を事務所の引き出しに入れっぱなしにするなど、普通では考えられない。それが本当だとして、そのような現金が急に必要になることに備えて、ということであれば、逆にそれは一体どういった使途を想定しているのだろうか。

 不記載や虚偽記載という問題も問題ではあるが、それ以上に、それによって生み出した裏金の使い途が問題である。いったい、何のためにそれだけのカネを使ったり隠し持ったりしていたのだろうか?私たち国民はこちらに対してもっと大きな声で怒りをぶつけるべきである。

 萩生田氏は、「多大な政治不信を招いてしまったことを心からおわび申し上げる」と陳謝したが、「詳細まで把握していなかった」「私的なものに使うことはなかった」と釈明し、未使用分1897万円を「安倍派に寄付する形で返納する」とした。しかし、もらっていながら「バレたので派閥に返します」では国民は納得しないだろう。しかも萩生田氏は『未使用分』のみの返納である。

 文藝春秋3月号の特集で、萩生田氏は懲りずに「政治にはとにかくカネがかかる」と主張している。

 不適切にもほどがある!

2月11日記

by 須毛原勲

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