社長エッセイ

社長の日曜日 vol.48 沈丁花の香り 2024.03.18 社長エッセイ by 須毛原勲

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 「沈丁花の花が咲き始めたわよ」と妻が教えてくれた。

 もうそんな季節か、と思いながらジョギング中に気をつけてみると、なるほどあちこちに咲いている。春の沈丁花、初夏のクチナシ、秋の金木犀は、日本の三大香木といわれていて、その季節になるとジョギングの際にどこからかふわりと香ることがある。

 沈丁花の甘い香りが好きだ。秋に咲く金木犀の香りは、季節が秋から冬に変わることを知らせるためか、どことなく寂しげな香りに感じられるが、沈丁花の香りは春の訪れを感じさせ、朝にその香りを嗅ぐと楽しい一日が始まりそうな気がしてくる。それなのに、今年は沈丁花が咲き始めていることに気が付かなかった。理由は花粉症である。還暦とともに花粉症デビューをした私だが、今年は本当に酷い。花粉症歴が長い家族の姿を何十年も横目で見てきたが、こんなにつらいとは。

 ともあれ、あと一週間ほどで東京では桜も咲き始めるだろう。マスクをして痒い目をこすりながら楽しむことになりそうだ。

 漫画家の鳥山明氏が今月1日に逝去されたことが8日に報道され、その訃報が世界中を駆け巡った。鳥山明氏の代表作は、言わずとしれた「Dr. スランプ」と「ドラゴンボール」で、いずれも週刊少年ジャンプに掲載されていた。「Dr. スランプ」が1980年から1989年、「ドラゴンボール」が1984年から1995年、私が大学生から社会人になった頃に掲載されていて、私自身は週刊少年ジャンプを卒業し、「モーニング」(わたせせいぞう氏が「ハートカクテル」でデビュー)や柴門ふみ氏の「P.S.元気です、俊平」が連載されていた「週間ヤングマガジン」を読む方向に移っていた。そのため、鳥山明氏の漫画に深く触れる機会は無かったが、今回の訃報を受けて鳥山明氏のその存在の大きさを再認識した。

 中国外交部(外務省)は8日の定例記者会見で、毛寧報道官が鳥山明氏の死去に関する質問に答えた。毛寧報道官は、「鳥山明氏の死去に深い哀悼の意を表する。鳥山氏のご家族に心よりお見舞いを申し上げる。鳥山氏は有名な漫画家であり、その作品は中国でも非常に人気がある。中国のたくさんのネットユーザーも鳥山氏の死去に哀悼の意を表していることに私は注目している。日本のより多くの識者が今後も中日文化交流と両国の友好事業に積極的に関わることを期待し、確信もしている。」と述べた。(「人民網日本語版」2024年3月9日より引用。)

 日本のアニメとゲームは世界中で受け入れられているが、中国の若者たちの中でもその魅力に夢中になっている人は少なくない。日本に留学に来ている人たちで、日本語をアニメで学んだという人も多い。私の友人のお嬢さんもその一人で、日本に留学する前に東京で食事をする機会があったのだが、初めて日本に来た、すべてアニメを見て勉強したというその子の日本語は日本人の若者と遜色ないくらいに上手かった。

 日本のアニメ文化を世界レベルにまで引き上げてくれたひとり、偉大な漫画家、鳥山明氏に合掌。

 さて、先週発表された米アカデミー賞で、宮崎駿、原作・脚本・監督の「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション賞を受賞。山崎貴、VFX・脚本・監督による「ゴジラ-1.0」が視覚効果賞を受賞。日本中が沸いた。

 御年83歳の宮崎駿氏の創造意欲には敬意を表さざるを得ない。83歳にして、新しいアニメを創り、それが米アカデミー賞を受賞してしまうのである。心より尊敬してやまない。「ゴジラ-1.0」の視覚効果賞の受賞ももの凄いことである。視覚効果賞のこれまでの受賞作品は、「スター・ウォーズ」、「エイリアン」、「E.T.」、「インディ・ジョーンズ」、「ターミネーター2」、「タイタニック」、「ロード・オブ・ザ・リング」、「キング・コング」、「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ/チェスト」、「アバター」などなど。錚々たる作品である。

 余談であるが、日本最初のカラー長編アニメ映画は中国の四大民間説話のひとつ「白蛇伝」を題材にした作品である。宮崎駿氏はこのアニメを観たことがアニメを志したきっかけになったと述べている。2010年、私が上海駐在中、わたせせいぞうさんの漫画により広告キャンペーンを展開したのだが、シリーズ最後の物語は「白蛇伝」を現在に置き換えたハッピーエンドの壮大なラブストーリーだった。

 中国で宮崎駿氏がいかに慕われているかの例を一つ。中国でとある政府向け入札案件を交渉している際、受注の条件として、ある政府の役人から、「宮崎駿氏に会わせてくれないか」と唐突に言われたことがある。無論そんなアレンジが出来るはずもなく、そのせいかどうか分からないが、その案件は失注してしまった。

 昨年、「THE FIRST SLAM DUNK」が中国で爆発的にヒットし、中国には熱狂的なファンも多い。あるお客様を日本に招待したときに、「どこか、行きたいところは?」と聞いたら、「江ノ電の踏切」と言われた。アニメの世界では、新海誠氏の作品も大人気である。最近では、安藤サクラさん主演の映画「100円の恋」が中国で「热辣滚烫」(Rè là gǔntàng)(英語タイトル: 「YOLO」You only live once.)として公開されて大ヒットしているらしい。

 韓国では、大谷翔平選手が入団したドジャースとダルビッシュ有選手が所属するパドレスとがMLBの公式開幕戦をすることになっている。韓国でも大谷翔平選手は熱烈に歓迎され、韓国のメディアも一斉に好意的な反応を報じている。

 先日、50年以上前から世界の舞台で活躍し続けて来られた小澤征爾氏の偉業に触れたが、日本のアニメも、映画も、スポーツも、国境や国籍を越えて輝いている。

3月17日記

by 須毛原勲

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