社長エッセイ

社長の日曜日 vol.70 中秋の名月 2024.09.19 社長エッセイ by 須毛原勲

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 9月も半ばを過ぎたが、依然として暑さが続いている。週末には東京で35度を記録し、猛暑日となった。本格的な秋の訪れはいつになるのだろうか。

 9月17日は中秋の名月だった。WeChatに届いた中国の友人たちからのメッセージで、その日が中秋の名月であることに気づかされる。

「祝全家中秋快乐!阖家安康!万事顺遂!」(ご家族全員に中秋節のお祝いを!皆様が健康で、すべてが順調に進みますように)

 日本では「十五夜」として親しまれ、月見をしながら団子やススキを供えて秋の実りに感謝する風習は、元々中国から伝わったものである。幼い頃、親に言われて近所の農業高校の田んぼ脇に生えていたススキを取りに行き、縁側に飾ったりした思い出がある。中国では「中秋節」として家族が集まり、月餅を食べながら再会を祝う習慣があり、この風習は現在も大切に受け継がれている。中国に駐在していた頃は、この時期になると月餅を持って販売代理店に挨拶に行くのが恒例だった。月餅をもらうことも多かったが、その強烈な甘さや中に入っていた卵の黄身が日本の月餅とは少し違い、慣れるまで時間がかかった。気軽に食べ続けると、すぐに体重が増えたものだ。

 先週、中国の友人が来日し、東京近郊の温泉へ一緒に旅行する機会があった。二日間の旅であったが、その間に様々な話を交わした。中国の政治や経済について、また事業の大半を娘に引き継いだものの、彼自身がまだ事業への情熱を失っていないことを語っていた。彼とは、彼の娘が英国留学から帰国した際や結婚、さらには子ども(彼の初孫)が生まれたとき、彼が深圳で大きな家を買ったとき等々、彼の人生の節目で共に時間を過ごしてきた。私が北京にいた時期、彼は北京大学でEMBAを学んでおり、彼の一人暮らしのアパートで同級生たちと共に、彼が作った火鍋を囲み白酒を飲んだことが懐かしい。

 私が初めて訪れた中国の都市が西安だと話すと、彼の口から阿倍仲麻呂の名前が出てきた。さらに、李白が阿倍仲麻呂のために詠んだ詩を淀みなく口にした時には驚かされた。彼は、阿倍仲麻呂の中国名が「晁衡」(チャオヘン、日本語読みでは「ちょうこう」)であることを、誇らしげに語っていた。

 「天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも」という阿倍仲麻呂の有名な和歌がある。この歌が中秋の名月に詠まれたという記録はないが、彼が中国の地で見上げた月は、故郷、奈良の空に浮かんでいた同じ月であろうと、帰ることができなかった故郷を思って詠んだ歌である。

 確かに、両国間には少なからず困難な課題があるが、根底に流れる文化の源は同じであり、心の奥底で繋がる部分があると信じている。季節の節目に、こうして共に月を見上げる時、私たちはきっと同じ月の光のもとで同じ未来を願うことができるはずである。

 9月16日は「敬老の日」。総務省統計局が「敬老の日」を迎えるに当たって、統計からみた我が国の 高齢者のすがたについて発表した資料によると、日本の総人口は前年より59万人減少したが、65歳以上の高齢者は2万人増加し、3625万人と過去最多となった。内訳は男性が1572万人、女性が2053万人である。65歳以上が総人口に占める割合は前年より0.2ポイント上昇し29.3%に達し、これは世界200の国と地域の中で最も高い割合である。一方、65歳以上の就業者数も20年連続で増加し、2023年には914万人と過去最多となった。65歳以上の就業者が就業者総数に占める割合は13.5%に達しており、約7人に1人が65歳以上という状況である。さらに、65歳以上の年齢階級別の就業率もいずれも過去最高を記録しており、日本の65歳以上の就業率は主要国の中でも特に高い水準にある。また、65歳以上の役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は、全ての年齢階級で前年に比べ上昇しており、高齢者の労働市場における非正規雇用の増加が顕著である。特に「医療,福祉」分野では、65歳以上の就業者が10年前の約2.4倍に増加しており、高齢者の就業機会が広がっていることが伺える。

 2023年の合計特殊出生率(※)は約1.26人であり、この数値は人口維持に必要な2.1人を大きく下回っている。この少子化が続けば、2050年には総人口が約9,700万人にまで減少する見込みであり、その後も減少が続く。西暦2500年には、人口が13万人になるとする推計も存在するが、これは現在の出生率と人口に基づくものであり、誇張ではない。

 イーロン・マスクが日本の少子高齢化に関してTwitterで発言したのは、2022年5月のことだ。「日本がこのままの出生率を維持するならば、最終的には存在しなくなってしまうだろう。これは世界にとって大きな損失だ。」この発言は、日本の人口減少と高齢化の問題に対する懸念を示したもので、多くの反響を呼んだ。彼の発言は日本国内でも大きな注目を集め、少子化対策の重要性が改めて議論された。

 さまざまな課題が日本には存在しているが、少子高齢化は最も深刻な問題の一つである。現在、自民党の総裁選が行われている中で、この問題に言及しているのは上川陽子外相のみである。

 中国でも少子高齢化の問題は日増しに深刻化しており、社会全体に新たな課題が浮上している。昨年、中国とタイの高齢化社会および介護施設の現状について調査を行った際、いくつかの介護施設を訪問し、この問題が日本だけでなく中国やタイでも共通していることを実感した。介護施設に入れる高齢者は限られた人たちであり、核家族化の進行により多くの高齢者が一人暮らしを強いられている。配偶者に先立たれたり、都会で働く子供とは離れて地方で独居生活する高齢者も多い。

 私が朝のジョギングの際に立ち寄る公園でラジオ体操に参加する高齢者たちは、健康維持だけでなく、社会とのつながりを求めて集まっている。挨拶を交わし、前日の出来事やテレビの話題などで会話を交わすことが、ラジオ体操で身体を鍛えることと同じくらい大切な目的になっているのだ。介護が必要となる前の段階においても、「生きがい」や「社会との関わり」、さらには「学び」「働き」「教える機会」を求める声が多く聞かれる。その上で、身体の自由が次第に失われた際に支援する仕組みが求められていると感じる。

 中秋の名月を眺めながら、未来の日本と中国の高齢化社会について思いを巡らせた。

※特殊出生率(合計特殊出生率)とは、1人の女性が一生の間に産む子どもの平均数を示す指標である。通常は15歳から49歳までの女性の年齢ごとの出生率を元に計算される。この数値が2.1程度であれば、人口が自然に維持されるとされるが、日本では2023年の特殊出生率が約1.26人となっており、少子化が進行していることを示している。

9月17日

by 須毛原勲

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