自動車半導体不足の表と裏

自動車半導体不足の表と裏 2021.08.10 スタッフレポート by 沖虎令

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 今年に入り半導体不足が頻繁に報道され、特に「たった1-2ドルのICが無いために数万ドルの自動車が出荷できない。」などど、自動車産業への影響が身近な例としてよく取り上げられている。

 米国のコンサルタント会社アリックスパートナーズによると、半導体不足により、今年全世界で自動車の生産が390万台減ると予想している。新型コロナウイルスや半導体不足の影響で、ここ2年の自動車生産、販売は異常な数値となっているため、2019年を例に取ると、この年全世界の自動車販売台数は9027万台(マークライン発表より)。390万台はこの4%強で、2020年の日産自動車の総販売台数405万台(日産自動車公表値)に匹敵する。

 なぜこんなことになったのか。実は表と裏のある話。

1.表(おもて)の説明:

 新型コロナウイルス流行により、2020年後半、大体10月頃まで自動車メーカーは販売不振だった。世界各地でロックダウンが施行され、当時は2021年も販売は回復しない、と各社とも考え、部品の発注計画数量を大幅に減らした。完成車の製造は、実際は自動車メーカーが鋼材やネジや電線やICを買ってきて全部自分で組み立てているわけではない。ヘッドライト、エンジン制御モジュール、ドア、始動モーターなど、ユニット部品を下請け先から買ってきて組み立てている。半導体を内蔵するユニット部品はデンソー、ボッシュ、パナソニック、など電装メーカーが供給元。彼らは自動車メーカーの予測計画に従い、半導体メーカーに対して2021年の発注量を減らした。しかし、予想に反して2020年終盤になり感染が落ち着いた地域(中国や一部先進国)からリバウンド需要が発生。半導体は生産リードタイムが長く、且つ同時期に在宅経済好調によりPCや家電が爆発的に売れ、半導体メーカーは能力が一杯で増産できず、自動車用半導体不足となった。また、半導体の製造はブランド企業の自社工場ではなく、主にTSMC、UMCという台湾の製造委託先メーカー(ウエファファンドリ)で行っており、調整が効かなかった。

2.裏の説明:

 自動車は高額商品で、生産が遅れたり、停止したりすると莫大なロスが出る。1台数百万円だから、100台も止めると単純計算で数億円の機会損失になる。しかも、大手自動車メーカーはJust In Time(日本ではカンバン方式ともいわれる)、という、自社で在庫を持たない生産方式を取っている。そのため、部品サプライヤーは損失の賠償請求を避けるべく、自動車用半導体を優先して作り、自社または流通経路に在庫を持ち、部品切れにならないようにする。

 実際に納期遅れで賠償金を払う契約をしていたり、支払ったりした例はほとんどない。それほど万全の支援をしているからで、過去の部品の納期遅れは大地震や大雪といった不可抗力が原因だった。

 この背景には、大手自動車メーカーの自国内や、欧州のように域内に部品メーカーがあることがある。トヨタ、日産、ホンダに対して日本の半導体メーカーは逆らえない。自動車半導体大手は、STMicro(スイス)、Infineon(ドイツ)、TI(米国)、NXP(オランダ)、On Semiconductor(米国)と欧米にあるので同様にGM、フォルクスワーゲンに対して各社ともほぼ言うなりになってきた。

 しかし、今回の不足で明るみに出たのは、最終的に製造しているのは台湾の会社で、彼らに自動車会社、自動車用半導体の威光が全く通じなかったという事態。台湾メーカーから見たら、PC向けもスマホ向けも自動車向けも同じで、あからさまにいえば儲かる製品を優先して造りたい。販売計画予想量を落とした後、急に増産しろという。しかも自動車向けは通常薄利でやりたくない。

 自動車会社はいままで王様として振舞えたのが相手にされず、慌てても手の打ちようがない。威力があるはずの損害賠償の脅しは、自らの見通しの甘さが原因で、そもそもそのような契約は台湾メーカーとの間存在しない。

 このように、今回の半導体不足で明らかになったのは、いままで産業生態系で頂点にあるかのように見えていた自動車メーカーの無力さ。これまで意のままに供給を左右することに慣れていた各自動車会社はこの事態に手の打ちようがなく、減産、生産停止に追い込まれ、且つ、賠償金などは取れていない。

 今回の自動車半導体不足に対し、各国政府が腰を上げたのは、企業同士の交渉では打開できなかったためで、これがひいては日本、欧米が半導体工場を自国内に再度建てようとしている原因になっている。

 それと同時に、そもそもいままでの自動車メーカーの部品に対するやり方、在庫を持たない、最優先で納入させる、しかも薄利、というビジネスモデル自体が正しいのか、という問いかけがなされ始めている。従来、言うなりになっていた部品メーカーは地位が低すぎたのでは、という部品メーカー側からの反発が出始めており、欧州の半導体サプライヤーからもこういう指摘が出ている。

 折しも、現在、石油を燃やす内燃機関車から電気自動車への急速な転換が進んでおり、電気自動車は部品のうち半導体など電子部品が占める割合が高い。これも部品メーカーと自動車メーカーの力関係が変わる要因になると言われている。

by 沖虎令

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