新たに打ち出された中国の「ゆとり教育政策」について

新たに打ち出された中国の「ゆとり教育政策」について 2021.09.01 スタッフレポート by 赵琪(@北京)

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“双減政策”は「鸡娃」の良薬になりますか? 意訳:中国の“ゆとり教育政策”は、子供たちを救えるのか?)

※「鸡娃」(Jī wá)の直訳はひよこ(チキンベイビー)、鸡はにわとり、娃は子供、合わせて“ひよこ”の意味。中国ではこどもの教育に熱心な人たちの意味” (訳者追記)

※ “双減政策”は中国のゆとり教育とも翻訳され報道されています。(訳者追記)

 7月24日、中国共産党中央委員会総局と国務院総局は、「義務教育段階における学生の宿題の負担と放課後の学習塾での学習の負担の更なる軽減に関する意見」を公表し、各地域の各部門に対し誠実に実施するよう求める通知を出しました。この結果、特に資本が大量に流入している関連業種において、上場企業の株価が急落したため、社会の多方面で大きな混乱を招いています。 

この「双减政策」とは? 

なぜこれほど大きな影響があるのでしょうか? 

まず、中国の基礎教育の現状を見てみましょう。 

 中国の子どもたちは、通常6歳から学校に通い始め、小学校で6年、中学校で3年間勉強します。 9年間は国が教育に責任を持ち、所謂9年間の義務教育と呼ばれています。 その後、高校か専門学校(3年) を選択できます。 高校に通うことを選んだ子供たちは、「高考(Gāokǎo)」(大学入試統一試験)を経て、大学入試に合格し、その後大学の学部に入学し、専攻に応じて通常4から5年で学士号を取得し、その後、修士号及び博士号を取得するか働くかを選択することができます。 専門学校の学生は、卒業後、働き始めるか、大学に入学するための試験の合格を目指したり、学部の学位を取得したい場合は更に2年間勉強する必要があり、条件を満たす人は学士号を取得することができます。

 このプロセスは問題が無いようにも見えますが、様々な理由から、多くの親たちが子どもたちのより良い未来のために、子どもたちが「高考(Gāokǎo)」(大学入試統一試験)で良い成績を収めてよりよい大学に入学することが出来るようになることを希望しています。大学入試は子どもの人生に影響を与える 最も重要な節目となっています。そのため、大学入試の為には、高校、中学校、さらには小学校まで遡って競争が激化してしまうのです。多くの親たちは、彼らの子どもが大学入試でより良い成績を収め、良い大学に入学するという究極の目標を達成するために、より質の高い中学校に入学させ、より優秀な教師がいる学校に通うことができるようになることを目指します。更に、幼稚園でさえも、より質の高い幼稚園を選択するようになりました。 この過程において、通常の学校教育だけでは子どもに対する親の期待を満たすのに不十分であるとして、通常の学校での教育を補う目的での民間学習塾への依存が急激に高まって行ったのです。

 当初はそれほどの規模はありませんでしたが、こうした民間学習塾の市場へ多くの資本が流入し、規模が拡大し、更にインターネットの普及がその追い風になりました。 この時点での“教育”は、もはや人間の為の真の”教育“ではなく、資本市場の論理によって、”教育”市場が膨張していったものと言えます。「再穷不能穷教育,再苦不能苦孩子」(どんなに貧しくとも、子供への教育に貧しくなってはいけない。あなたの生活が苦しくとも、子供に苦しみを与えてはいけない。)というフレーズは、1970年から80年代に至る所で使われていました。この言葉は、今日、親の誰しもが抱く子どもの教育に対しての不安につけいる”マーケティング的な言葉”へと変貌を遂げてしまいました。

 この間、政府は教育を改革し、様々な政策、提案、指導を行って来ていますが、基本的には学校内に重点が置かれているため、学校教育は着実に改善されているものの、学校の外の民間学習塾は乱立し、どんどん市場が広がっていきました。最もつらいのは、もちろん健やかに成長すべき子どもたちであり、膨大な学校の宿題や終わりのない補習で子どもたちが本来楽しむべき自由な時間や青春を奪われてしまっているのです。 親は “子どもたちに教育を与えなければならないという焦りの気持ち”と “民間学習塾にかかる膨大な費用”という 二重のプレッシャーに苦しみながらも、子どもを日々異なる学習塾に通わせています。 更に、新型コロナウイルスの蔓延によって急速に進んだオンライン教育のお陰で、民間学習塾業界の発展に拍車がかかりました。

 好未来、猿辅导、作业帮、VIP Kid、企鹅辅导、清北网校、高途课堂、一起作业、51talk、掌门1对1などなど、2020年は、オンライン教育が爆発的に進んだ一年であり、大規模な資本の流入、広告の洪水、事業主の急増により、業界はかつてないスピードで急速に拡大していきました。 そして、こうしたオンライン教育の現場で、約束したことが実行されない、過剰な前払いが必要だ等という問題や、更には教師の質の問題等に関するクレームが引きも切らない状況になってしまっていたのです。

 このような状況下で出された今回の”双減政策“は、中身が伴わない空っぽのものでも、突然出されたようなものではなく、政府が継続的に状況を把握し、実際の状況に応じて教育を絶えず調整している継続的な施策のひとつであることが理解できます。

 実際、”双減政策“は、主に子供たちの宿題の負担を軽減し、学習塾での勉強の負担を軽減すること(「二重削減政策」とも呼ばれる)を目標としており、特に義務教育段階の生徒を対象としていますが、実際には、3歳から6歳までの未就学児(幼稚園児)と高校生に対する教育についても言及しています。 民間学習塾の市場セグメントでは、K12(KはKindergarten、12は12年生、高校に相当するため、K12は幼稚園から高校までの教育) と呼んでいます。 

 今回の”双減政策“が以前と異なるのは、対象となる8つの分野の30項目が、非常に詳細に記載されていることです。

 宿題の課題の設計、分量、科目間の調整から、修正の説明まで、詳細かつ明確な指導概要を提供し、更には、放課後、親が仕事を終えるまでの時間についても、その時間の使い方について、学校がどのように支援する義務を負うのか等、具体的かつ包括的な計画を提供しています。 実際、これはまた、親が子供を指導する問題や、子供が早く学校を終えて帰宅するにも関わらず親の帰宅が遅くなる場合にはどのように調整するかという長年の問題を、国家政策の観点から完全に解決を促す内容になっています。 

 学習塾については、政府の13の部門が共同で承認しています。子供達の視力を保護するために、各クラスの授業時間について明確な説明をしました。 これは、利益の追求を主な目的とする校外学習機関、特に既に上場している企業に致命的な影響を与えています。一連の教育・補助機関は、どのように変革するかを考える必要があります。 これらの企業にとっては短期的には痛みは避けらませんが、長期的には教育システム全体にとって良いとも言えます。

 同時に“双減政策”は、学校間の教育資源のバランスをとるための具体的な方法、および高校の入試改革、より具体的な評価方法、具体的な内容を提案しています。 9つのパイロット都市※にて「1年以内に効果的に削減し、3年間で大きな成果を挙げる」という目標が明確に示されました。

※北京市、上海市、瀋陽市(遼寧省)、広州市(広東省)、成都市(四川省)、鄭州市(河南省)、長治市(山西省)、威海市(山東省)、南通市(江蘇省)以上9都市がパイロット都市として選定され、且つ、以上の9都市を含まないその他の省は少なくとも一つのパイロット都市を選定しなければならない。

 おしなべて、この“双減政策”は、広範で包括的な内容をカバーしており、且つ、内容は非常に詳細で、現状の問題の解決に確実に繋がるような内容になっていると言えます。

 私は、K12の子どもを抱えている何人かの友人に今回の”双減政策”についての意見を聞いてみました。彼らの意見は、「短期的には大きくは変わらないだろう」と思っているようですが、一部の親は今回の変革で子供の教育について、不安を感じているとも言っています。それだけ、多くの人が民間学習塾に依存している証でもあります。 一方この政策から“希望の兆し”を感じている親もいます。長期的には、K12の子供たちが過度の宿題と学習塾での勉強から解放されるだけでなく、親も、精神的、経済的側面から開放される可能性があります。その結果、長期的には社会全体にプラスの影響を与えることができる可能性があると思っている親もいます。

 最後に、興味深い言葉を引用して私のレポートを終えたいと思います。

『破而后立,晓喻新生。』

 破壊され、後に、立ち上がる。それは、夜明けであり新たな誕生を意味します。

“双減政策”の意見については、中華人民共和国中央人民政府のホームページhttp://www.gov.cn/zhengce/zuixin.htmを参照。

中共中央办公厅 国务院办公厅印发《关于进一步减轻义务教育阶段学生作业负担和校外培训负担的意见》 2021年7月24日 19:04(中国時間)発表

翻訳 by 夏目遥

by 赵琪(@北京)

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