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中国半導体業界 脱海外発の動き ー RISC-V 2021.09.15 スタッフレポート by 沖虎令

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 2020年9月、「ソフトバンクがアーム(Arm)をエヌビディア(Nvidia)に売却。」と大きく報道された。アームもエヌビディアも、一般の人々が直接触れることの少ない半導体に関係するIT企業だが、ソフトバンクは243億ポンド(約3.3兆円)で買収し、400億ドル(約4.2兆円)で売却する、という額が桁外れで話題となった。

 日本で時価総額4兆円の企業はセブン&アイ、みずほグループ、三井物産あたりになる。そのアーム社はコンピュータの基本設計といわれるアーキテクチャー(設計構造)を開発する会社。アーキテクチャーはいわば構造で、組立て方、接続方法、指令方法などの規格体系。ICの設計は、決まった受け皿の上に設計者が必要な機能を載せていくイメージ。

 同社は、主に半導体企業にライセンス供与して収入を得る、英国起源の会社である。といってもやはり、なんだそれは、と普通思うだろう。

 例えば、スマートフォンの中核で司令塔に当たるプロセッサーは、iPhoneもアンドロイドもほとんどがアームのアーキテクチャーを採用している。主な理由は、アームの特徴である低電力消費にある。スマートフォン最大の弱点で、いつまでたっても抜本的に解決されない課題は電池。現在主流のリチウムイオン電池を搭載した例えばiPhoneも、ほぼ毎日充電しないといけない。そのためとにかく消費電力が低いことが求められる。

 スマートフォンだけでなく、電池駆動する製品、PC、タブレットにも採用され、最近ではアップルがインテルのアーキテクチャーからアームに変更してゆく、ということも話題になった。環境負荷軽減のために節電指向になっている家電やゲームにも使われている。

 アームのビジネスモデルは、アームアーキテクチャーを使って半導体会社が設計したICの生産数に応じてライセンス料を払うもの。1個製造されればそのたびに収入が発生する、という大変堅実なビジネスだが、当然その金に見合ったメリットが無いと使ってもらえないわけで、この分野でアームの製品は優れているため、ほぼ寡占状態にある。

 IC企業の生産数が飯のタネなので、アーム日本法人の主な仕事は、各企業を監査して生産数を確認すること。厳しい、うるさい、ことでは定評がある。

 

 当然、中国のIC企業も多くがアームを採用している。寡占しているということは、それだけ豊富な機能、用途別の製品があり、開発済みのパーツ(IP)を提供するサードパーティもあり、設計しやすく、完成品に定評があるからだ。

 しかし、中国はアームから離れようという動きをみせている。

 その理由は。

 まず、中国は従来から知的財産の価値に対する意識が低かった。端的にいえば、かつては映画、音楽からWindowsのOSまで、コピー、海賊版が当たり前のように使われていた。ソフトウェアをカスタム化する時の開発費にも対価を払いたくない、という意識が今でもある。

 良いICを開発し、売れれば売れるだけライセンス料をアームに払わねばならない、という状況は中国企業にとり納得できないものである。実際、中国でのライセンス料は日本などより安い、といわれている。

 別の観点からの理由として、ここ数年の米国主導の西側諸国の対中国ハイテク規制がある。英国企業であるアームに牛耳られていると、ある日急に利用できなくなる可能性もある。ソフトバンクの子会社ならまだしも、米国企業エヌビディアに買収されるとなるとますます警戒せざるを得ない。

 日本でも報道されているように、2020年6月、アーム本社主導でアーム中国のCEOを解任したが、CEOは辞任を拒否。その後アーム中国が、本社が任命した新幹部を提訴するなど、収拾の兆しが無い。アーム中国は、アーム本社49%、中国系資本51%と、紛争が起きやすい資本構成であり、CEOの背後で中国資本、更には中国政府も後押ししているとみられる。

 中国がアームから離れる手段として、ここ数年RISC-V(リスク・ファイブ)というオープンアーキテクチャを推進している。RISC-Vは、2010年カリフォルニア大学バークレー校が発表したISA(命令セットアーキテクチャ)が発祥の、米国発の技術。

 特徴はオープンソース、つまり、ライセンス料が無料、という点で、これが中国を引き付けた。実用性が高いため、多くの企業や個人がボランティア的に必要なオペレーションシステムやソフトなどを開発し、幅広い製品に応用できるようになっている。

 2018年「中国RISC-V産業連盟」(http://www.crvic.org/sy) が発足した。ここにはアリババ、ファーウエイはじめ地場のICを設計する企業や、中国科学院、北京大学、清華大学、上海光津大学、浙江大学と半導体分野で有力な研究所、教育機関も加わっている。

 現在、RISC-Vは実質中国が主導しており、2020年には本部にあたる「RISC-V Foundation」が米国からスイスに移転した。地政学上のリスクを避けるため、と説明している。

 このような、中国の脱海外の動きは各分野で見られる。ファーウエイは米国による制裁のためにスマートフォンのOS、アンドロイドの使用が止められ、その対抗策として独自のOS「鴻蒙(Harmony)」を開発し、中国内でコンソーシアムを結成して普及を図っている。鴻蒙はスマートフォンではまだ仲間を広げられていないが、家電では採用する企業が出てきている。これも当然無料のオープンなOSである。

 現時点でRISC-Vも鴻蒙も、参加している日本企業はあるが、製品化への目立った動きはない。今後はこういった中国発の技術への対応を注視する必要があるだろう。

by 沖虎令

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