スタッフエッセイ

弱いAIが強くなるのか?ー「強いAIと弱いAI」 2021.09.17 スタッフエッセイ by 劉若一

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 人工知能について、「強いAIと弱いAI」という言葉を聞いたことありますでしょうか?   

「弱いAI」は人間ほどの高い知能を持たず、特定の問題解決や推論だけを行う人工知能です。「弱い」がつきますが、残念ながら今現在世の中に存在する人工知能技術はすべて「弱いAI」です。囲碁で人間に勝ったAlphaGoも、世界中に普及しつつある顔認証も、それぞれの専門領域で人間以上のパフォーマンスを発揮していますが、専門領域外のことは一切できません。

  一方、「強いAI」は、人間に近い知能を持ち、人間の仕事をこなせ、幅広い知識や自意識まで持つようなコンピュータです。A.I.、エイリアン、ターミネーターなど、数え切れないほどのSF作品が描写したように、「強いAI」は明らかに人間ではないものの、人間とさほど変わらないか人間以上の知能を持ったりします。多くの人が持つAIに対するイメージはこちらに近いのではないでしょうか?

  冒頭で、「世の中に存在する人工知能技術はすべて弱いAI」と述べましたが、なぜ人間が「強いAI」を未だに作ることができていないのでしょうか?私の意見として、「人工知能」の言葉通り、人間の知能を人工で再現する必要があるが、知能の正体は何か未だに謎のままだからです。

  人間の知能はとても複雑です。

「赤信号で止まる」のように、我々が過去の経験や知識で判断して行動することも知能です。「空を飛ぶ牛」と言われたら、存在しないとわかりつつもおそらく誰でも脳内にそのイメージが浮かぶでしょう。これも知能です。

  上記のような言葉で説明できる知能もあれば、言葉で説明できない、あるいは専門家の説明では腑に落ちないような知能もあります。例えば、仕事に集中すべきところなのに、ついついスマートフォンを見てしまいますよね。「集中力が足りん!」と一言で済ませたいところですが、集中力の本質は何で、仕事に集中しているのになぜ「スマートフォンを見よう」という考えが生まれるのか。こんな現象も立派な知能で、古今東西多くのアイデアがこのような雑念から生まれたのではないでしょうか。

  強いAIを作るための正攻法は、人間の知能を正しく理解することではないでしょうか?広辞苑に記載されている「知能」の言葉自体に対する説明ではなく、再現するためにはより細部まで理解する必要があります。昔から脳科学者も心理学者も哲学者もさまざまな方法で解き明かそうとしてきましたが、人間の知能の正体は何か、未だに謎のままです。

  正攻法以外のアプローチもあります。例えば「脳モデルのシミュレーション」という考え方があります。

  Deep Learning(深層学習)では人間の脳神経回路をモデルとした「ニューラルネットワーク」を使って学習するということをご存知だと思います。

  それを拡大して、人間の脳神経の完全なネットワークのマップを得て、個々の神経細胞(ニューロン)をコンピュータプログラムによってシミュレートし、さらにこれらの神経細胞に何らかの通信手段を与えれば、脳の知性を再現できるのではないか。この手法は知能の仕組みを完全に解明しなくてもよく、ミクロレベルで神経細胞の働きを再現することで脳全体を再現するという素晴らしい考え方です。

  ところが、脳モデルのシミュレーションには100EFLOPSの処理性能(100EFLOPS:浮動小数点演算1秒間に10,000京回。参考に、スーパーコンピュータの「京」は1秒間1京回)を持つコンピュータが必要とされています。

  したがって、強いAIを作るための正攻法も、脳モデルシミュレーションのような別のアプローチも、まだまだ先が遠いと言わざるを得ません。(※)

  ところで、人間の知能を持つ「強いAI」はまだまだ未来の話ですが、「弱いAI」と「強いAI」の中間があるのでしょうか?この問題の捉え方は人それぞれですが、私は異なる種類のアルゴリズムを組み合わせて使うことで、より複雑なことができる、「強くなった弱いAI」が既に存在していると考えています。

  例えば自動運転(特にL4以上)がいい例です。自動運転車の目には、カメラやレーダーなど複数のセンサーを通じて周りの環境や障害物を認識するアルゴリズムが組み込まれています。そして車の頭脳には環境や障害物、行きたい目的地や道路交通法などを総合的に分析して最適な経路を計算するプランニングアルゴリズムが組み込まれています。さらに車の手足には計算された経路をステアリングや駆動力に変換するアルゴリズムが組み込まれています。このように複数のAIアルゴリズムを組み合わせることによって、人間の知能を再現できないものの、人間が行う複雑な運転作業を人間と同レベル(交通ルールを守る意味では人間以上)にできるようになります。

  このように、「弱いAI」を組み合わせることによって「強くなった弱いAI」を作りだせるレベルまでに私たちは到達していると思います。

  例えば、SUGENAが戦略パートナーシップ提携したExtreme Vision社のアルゴリズムモールでは、1000種類ものアルゴリズムを提供しています。これらのアルゴリズムは主にカメラ/写真を使ってモノや顔などを認識・分析するものですが、複数のアルゴリズムを1つのカメラに組み合わせて使うことで、「マスク確認+顔認証+立ち入り禁止エリア侵入検知」のようなオンデマンドな認識ができます。

  「強いAI」を獲得するには、ハード&ソフトの両面で様々な研究・技術開発が必要であり、一朝一夕には到達できないであろうことは想像に難くないところです。そのような現状においては、「強いAI」との隙間を利用者の想像力(人工知能ではない人間の知能)で埋めることによってビジネスを進化させるようなイノベーションを生み出していくこと、我々にはそれができるのではないでしょうか。

(※)余談ですが、Facebookのザッカーバーグ氏やオバマ元大統領も推薦するSF小説『三体』に脳モデルシミュレーションの描写があります。数々の賞を得た小説なので、小説嫌いでなければぜひご一読ください。

by 劉若一

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