中国人はいま、AIをどう使っているのか:第3部 2026.09.30 中国のリアル

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前回までのあらすじ

第2部では、仕事の現場でAIを使い分ける「エージェント化」や、学習現場での普及と「思考力低下」の懸念を整理しました。最終回となる今回は、AIが感情の領域に踏み込み人々の「友だち」となる過程と、人と道具の境界が消えつつある現状に迫ります。

第3部 AIが「友だち」になるとき ― 人と道具の境界が消える

AIが「友だち」になる

 仕事や学習に加えて、中国の若者のあいだで、さらに注目に値する変化が起きています。AIが一部の人にとって感情の出口となり、ある意味で「友だち」にさえなり始めているのです。

 『中国青年報』の2026年の調査によれば、回答した大学生のうち7割を超える人が、AIと雑談したり悩みを打ち明けたりした経験があり、そのうち23.19%は高頻度の交流者でした。彼らは学習や生活の悩みをAIに尋ねるだけでなく、自分の秘めた思い、感情、人間関係の問題までAIに話しています。

 なぜ若者はAIに打ち明けるのでしょうか。

 ※画像はイメージです。

 52.73%の回答者は、AIは「いつでもオンラインで、真夜中でも話せて、時間に縛られない」からだと答えました。45.61%は、心のなかの話や秘めた感情のなかには「友人には恥ずかしくて言えない」ものがあるからだと答えました。40.14%は、AIは自分を評価しないので「より安全で、対人関係の負担がない」からだと答えました。34.92%は、負の感情を友人に伝えて、周囲に迷惑をかけたくないからだと答えました。28.27%は、AIが辛抱強く聞いてくれて、話を遮ったり、適当にあしらったりしないことを評価していました。さらに16.15%の人は、自分の身の回りには打ち明けるのにふさわしい相手がいない、と率直に答えています。

 これらの数字から分かるのは、AIが感情の領域に入り込めた理由は、それが「面白い」からだけではない、ということです。現実の社会でますます満たされにくくなっている需要を、AIがちょうど満たしてしまったからなのです。

 現実の友人は忙しいこともあれば、うんざりすることもあり、あなたを評価することもあります。現実の伴侶も、あなたの感情が原因で言い争いになるかもしれません。しかしAIは、あなたが午前2時にメッセージを送っても嫌がりませんし、あなたが同じ話を何度繰り返しても、辛抱強さを失うことはありません。

 

 そのためAIは、「先生」「同僚」「友だち」といった複数の役割を、同時に演じ始めています。

 

 ここから、これまであまり真剣に論じられてこなかった問いが生まれます。もしある人が、いつでもオンラインで、いつまでも辛抱強く、しかも自分の好みに合わせて答え方を調整してくれるAIとの対話に長く慣れてしまったら、その人は現実の世界にある、複雑で、予測がつかず、ときには不愉快でさえある人間関係に、なお適応できるのでしょうか。

 関連する調査によれば、33.12%の回答者が、程度の差はあれAIの力を借りて孤独や負の感情を晴らすことがあると答えています。中国のSNSでは、自分と豆包との関係を「熱愛中」と表現し始めるユーザーさえ現れました。

 こうした言い方には、もちろん冗談の成分がはっきり含まれています。しかしそれは同時に、一部のユーザーにとってAIがもはや単なる道具ではなく、ある種の「関係」の属性を帯び始めていることを示してもいます。

 2026年7月に起きた一連のAI製品の機能変更は、この現象をいっそう注目させることになりました。豆包と通義千問が相次いで一部のエージェント機能を調整・停止したあと、AIの伴走機能を長く使ってきたユーザーたちは、はっきりとした喪失感を示しました。すでに1年、2年とAIと交流してきたと語る人がいました。AIを「心のカウンセラー」「気心の知れた友人」、さらにはバーチャルの恋人と見なしていた人もいました。長く存在していたはずのAIが突然使えなくなったとき、一部のユーザーが示した感情の反応は、現実の生活で関係が断たれたときの喪失感に近いものでさえありました。

 この出来事で本当に注目すべきなのは、あるAI製品の機能変更そのものではなく、それが新しい社会現象を露わにしたことです。人間がAIに本物の感情を抱き始めたとき、AIはなお、ふつうのソフトウェアなのでしょうか。

 テクノロジー企業の側から見れば、AIはもちろんアルゴリズムであり、サーバーであり、製品機能にすぎません。しかし毎日AIと言葉を交わしている人にとっては、それはすでに生活の一部になっているかもしれないのです。

 だからこそ、中国社会もAIの擬人化された対話がもたらすリスクに、少しずつ目を向け始めています。2026年7月15日、『人工知能擬人化インタラクションサービス管理暫定弁法』が正式に施行され、AIによる感情的な伴走やバーチャルパートナーといったサービスに関わるリスクが、規制の視野に組み込まれました。

 これは、中国が人とAIの対話を止めたがっているという意味ではありません。むしろ逆に、こうした規制そのものが、AIが新しい段階に入りつつあることを物語っています。AIはもはや生産効率を高めるだけの技術ではなく、人の感情、行動、さらには社会関係にまで影響を与えうる技術になり始めているのです。

AIが変えるのは暮らしだけではなく、人と道具の関係かもしれない

 ここ数十年の技術の歩みを振り返ると、新しい技術がほんとうに普通の人の日常に入るまでには、たいてい長い時間がかかりました。コンピューターは当初、主に科学研究や軍事の領域で使われ、のちに企業のオフィスに入り、それから少しずつ一般家庭に入りました。インターネットも当初は主に情報のやり取りに使われ、のちになってようやく、買い物、決済、娯楽、社交の基盤になりました。

 AIの発展の速度は、明らかに違います。

 生成AIが本当に大衆の視野に入ってから、それが中国の若者の学習の道具となり、働く人の仕事の助手となり、さらには一部の人にとって感情の伴走者となるまでに、わずか数年しかかかりませんでした。

 さらに重要なのは、AIとこれまでのデジタルの道具とのあいだに、きわめてはっきりした違いがあることです。AIは、ユーザーに複雑な操作を覚えることを求めません。プログラミングを学ぶ必要もなければ、複雑なコマンドを覚える必要もなく、ただ「話す」だけでいいのです。

 ※画像はイメージです。

「ちょっと書いておいて」
「彼のこの一言、どういう意味だと思う?」
「今日は気分がよくないんだ」
「この契約書をちょっと見てくれる?」
「この問題、どうして間違ったんだろう?」
「計画をひとつ立ててくれる?」

 これらの言葉は、かつてはすべて人に向けて言うものでした。いまは同じことを、AIに向けて言うこともできます。

 これこそが、AIとこれまでのさまざまなデジタルの道具との最大の違いかもしれません。AIは、「道具」と「相棒」の境界を、少しずつ曖昧にしつつあるのです。

 この流れがさらに進めば、未来のAIはスマートフォンのアプリのなかだけに存在するものではなくなるでしょう。それは自動車、スマートグラス、家電、業務システム、さらには家庭用ロボットのなかに入っていくかもしれません。AIがこうした機器の一部になったとき、人々はもはや、自分が「AIを使っている」とすら感じなくなるでしょう。ちょうど今日の私たちが、自分は「インターネットを使っている」とめったに言わないのと同じように。

 したがって、中国のAI発展の次の段階は、もはや「誰がより強力なモデルを開発できるか」だけではなく、もっと現実的な別の問いになるのかもしれません。人間はいったい、ますます賢くなるAIと、どう付き合っていくべきなのか。

 中国社会にとって、この実験は、すでに始まっています。


<気になる中国語>

  • 倾诉 (qīngsù)
    • 意味:胸の内を打ち明ける、思いを吐き出す
    • 「诉」は訴える。日本語の「相談する」よりも一方通行的で、助言を求めるというより、聞いてもらうこと自体が目的の語です。だからこそ「AIに倾诉する」という組み合わせが成立します。本稿の調査で若者がAIを選んだ理由が「評価されない」「遮られない」だったことを思えば、AIは助言者としてではなく、受け皿として選ばれている。この一語が本稿の第4章を要約しています。
  • 追问(zhuīwèn)
    • 意味:重ねて問う、突っ込んで聞き返す
    • 「追」は追いかける。本稿が検索エンジンとAIの決定的な差として挙げたのがこの語です。中国語には「不好意思追问」(気まずくて重ねて聞けない)という言い方があり、教室で手を挙げられない生徒の心理そのものを指します。AIの本質的な功績は正解を出すことではなく、この「追问のコスト」をゼロにしたことだ、というのが本稿の含意です。
  • 社交负担(shèjiāo fùdān)
    • 意味:人付き合いの負担
    • 近年の若者言葉として定着した表現です。関連語に「社恐」(社交恐懼症の略、人見知り)、その逆の「社牛」(コミュ力が異常に高い人)があり、いずれも2020年代前半のネット流行語から一般語に昇格しました。ここでの「负担」は嫌悪ではなく疲労を指すのがポイントで、人間関係が嫌いなのではなく、消耗するから避ける。AIが選ばれる理由の核心を一語で言い当てています。
  • 敷衍(fūyǎn)
    • 意味:適当にあしらう、お茶を濁す
    • 「敷衍了事」(いい加減に済ませる)の形でよく使われる、古くからある語です。調査で回答者がAIを評価した理由が「打断(話を遮らない)」と「不敷衍(適当にあしらわない)」だったのは示唆的で、AIに求められているのは答えの正しさより、態度の誠実さだということになります。人間の友人が敷衍してしまうのは悪意ではなく、有限だからです。
  • 智能体(zhìnéngtǐ)
    • 意味:AIエージェント
    • 英語 agent の訳語ですが、「体」がつくことで機能ではなく主体、人格を備えた存在という語感が生まれています。7月15日に豆包と通義千問が一斉停止したのは、ユーザーが自ら作った智能体でした。停止時のユーザーの反応が機能の喪失ではなく別れに近いものだったことは、この訳語の語感と無縁ではないでしょう。なお豆包はユーザーを同社の「猫箱」アプリへ誘導しており、伴走機能そのものが消えたわけではありません。
  • 拟人化(nǐrénhuà)
    • 意味:擬人化
    • 日本語と同じ漢字ですが、中国では2026年、法令用語になりました。『人工智能拟人化互动服务管理暂行办法』(4月10日公布、7月15日施行)です。自然人の人格特徴・思考様式・コミュニケーションスタイルを模倣する「持続的な感情インタラクション」を対象とし、知識Q&A、カスタマーサポート、業務アシスタント、学習教育は適用外と明記されています。つまり中国は「便利なAI」と「情のあるAI」を、法令上はっきり線引きしたわけです。

  • 【番外】搭子(dāzi)
    • 意味:〜だけの相棒、〜仲間
    • 本文には出てきませんが、本稿を読むうえで欠かせない一語です。「饭搭子」(ご飯だけ一緒に食べる相手)、「旅游搭子」(旅行だけ一緒に行く相手)のように使い、深い友情ではなく特定の場面だけを共有する軽い関係を指します。2023年頃から爆発的に広まりました。そして2026年8月、人民日報系の記事はAIを「聊天搭子」(おしゃべり仲間)と呼んでいます。友人でもなく道具でもない中間の関係を、中国語はすでに一語で持っていた。AIがそこに滑り込んだのは、偶然ではないのかもしれません。

【SUGENA CEO 雑感】

 日本でも生成AIの利用は着実に広がっています。しかし中国の現場を見ていて私が感じるのは、普及率の差ではなく、普及の「深さ」の差です。月間4億9,900万人、1人あたり月92.7回、183分。これはもう業務改善の数字ではありません。生活習慣の数字です。

 本稿で最も重い事実は、7月15日という日付だと思います。『擬人化インタラクション暫定弁法』が施行されたその日に、豆包と通義千問はユーザー自作エージェントを一斉に停止しました。中国はAIが人の感情に入り込むことを、産業の問題ではなく社会の問題として扱い始めた、ということです。日本はまだその手前で、業務効率を論じています。

 私たちが隣国から学ぶべきは、モデルの性能ではなく、問いを立てる速さのほうかもしれません。

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