【特別企画】社長対談

「中小企業の成長戦略を後押しする国の施策」
中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏 Vol.1(全3回) 2023.12.06

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株式会社SUGENA代表須毛原 勲が多彩なゲストと様々なテーマで語りあう、対談企画第3回のゲストには、中小企業庁事業環境部財務課総括補佐 石澤義治氏をお招きしてお話をうかがいます。

【特別企画】社長対談 ゲスト石澤義治(いしざわよしはる)

役職:中小企業庁 事業環境部 財務課 総括補佐
学位:中国 清華大学 国際関係学 修士

2009年に経済産業省に入省。主に、成長戦略の策定、企業統合を円滑に進めるための法改正、TPP交渉、新エネ政策、コンテンツ産業政策などのポストを歴任。
現在、中小企業庁にて、中小企業の事業承継、M&Aや中小企業税制などの業務を担当。
また、在広州日本国総領事館にて、経済領事として日中ビジネス協力などに携わっていた。

石澤義治さん
  1. Vol.1「中小企業の成長戦略を後押しする国の施策」中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏Vol.1
  2. Vol.2「中小企業の海外展開」中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏Vol.2
  3. Vol.3「日本の中小企業には力がある!」中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏Vol.3

ー 須毛原

『社長対談』今回のゲストは、中小企業庁事業環境部財務課総括補佐 石澤義治氏をお迎えしました。

岸田首相は先の臨時国会で、「経済を最優先にする」と述べ、日本経済の根幹に中小企業の成長があると強調しました。

日本国内の企業の約99.7%が中小企業であり、中小企業の成長は国の経済成長にとって不可欠です。本日は、政府がどのように中小企業の成長を支援しているか、中小企業庁の取り組みなどについてお聞きしたいと思います。 また石澤さんは、北京での留学、広州での領事ご経験他、広範に亘って中国との関わりをお持ちでいらっしゃいます。それら貴重なご経験や、ご経験に基づいた中国ビジネスに関するご意見も是非お聞かせいただければと思います。

中小企業の成長戦略を後押しする国の施策

ー 須毛原

まず、石澤さんが現在中小企業庁においてどのような業務を担当されていらっしゃるか、具体的な職務内容、また、政府として、中小企業庁として中小企業に対してどのような支援をされているかということについてお教えいただけますか。

ー 石澤

去年の9月から、中小企業庁事業環境部財務課というところで総括補佐というポジションにおり、1年ちょっと経ちました。いろいろなことをやっていますが、すごく大きく言うと二つで、一つは事業承継です。

現在、日本の経営者の年齢ピークがほぼ70歳に近く、70歳以上の経営者が実は全体の3割を占めています。

そうすると何が起きるかというと、経営資源を次の世代に引き継いでいかなくてはならないという時に事業承継という問題が出てきています。事業承継もひと昔と比べるとだいぶ変わってきていて、昔であれば親族の中で、例えば息子さんや娘さんに引き継ぐといった、いわゆる親族内承継がよくありましたが、この10年ぐらいだと思いますが、親族の中に後継者がいらっしゃらないという場合には、例えば外の第三者で思いを同じくするような方に引き継ぐ、いわゆる中小のM&A、といった形が結構増えてきています。

中小企業庁としては、この事業承継において、親族内承継と、それからいわゆるM&A第三者承継、それらを支援するさまざまな施策を講じていまして、私はその施策の策定、執行を担当しています。

それからもう一つは、これはどの国もそうですが、中小企業はやはり大企業と比べると担税能力が低いので、成長していく上で、税制面において優遇が必要とされる部分がありますので、中小企業税制はたくさんあり、この中小企業税制全般を所管し、取りまとめをしています。

その中でも大半に関しては、その全体のマネージメントだけをやっているわけではなく、実際に、例えば延長、拡充、新設、あるいは廃止を含めて、我々は最前線に立って要求をする立場です。財務省との折衝や、税はやはり最後は与党の税調で議論することが重要で、政治回りの様々な調整など、そういったこともやっています。

この二つが仕事の大半を占めていますが、それに加えて、中小企業をこれから日本としてどう盛り上げていくかということ。ご存じの通り日本企業の99%は中小企業であり、雇用の7割を中小企業が占めているという中において、中小企業の成長なくして地域経済、日本経済の成長も難しい。

この3年間のコロナ環境下ではどちらかいうと、底抜けをしないようにセーフティネットを張ってきて、ゼロゼロ融資や持続化給付金で何とかコロナを乗り切ろうとしてきました。3年経ってコロナの危機は一定程度去ってはいますが、他方で物価高やエネルギー危機、原油高があって、その中で賃上げもしなくてはいけないと。そうすると、中小企業が単に現状維持ではなくて、成長していく必要があり、成長していくためには自分から変わらなくてはいけないですし、新しいマーケットを開拓したり、新しい技術で新しいプロダクトや新しいサービスを生み出したり、様々な挑戦をしなくてはいけない。その挑戦を中小企業庁として支援するという、ここは実は大きなベクトルになっています。今まではコロナの対策をし、とりあえず現状維持だと。しかしこれからはポストコロナでいろいろな社会的要請、しかも賃上げ、物価対策という中において中小企業が成長するためのチャレンジを我々がいろいろな施策を通じて支援していかなくてはならないと考えており、これを今後中長期的な課題としてしっかりやっていく方針です。 事業承継を契機に経営者が交代し、そこが変わる潮目でありチャンスであり、ここを捉えてさまざまな施策を通じて側面で支援していく。中小企業庁全体としても事業承継を単なる経営資源の継続ではなく成長への一つの契機と捉え、しっかりと施策を打ち込んでいくというのは、これからやるべき非常に大きなことかなと思っています。

ー 須毛原

私は企業承継に関してはあまり詳しくありませんが、承継した時に税制的な優遇などもあるのでしょうか。

ー 石澤

そうですね。主に二つあって一つはまず親族内承継の場合、相続税や生前贈与すると贈与税がかかります。これは最高税率が50%を超えてきます。中小企業は未上場がほとんどですが株式を償却するというときに、この株式に対しては未上場だが株式評価をすればこれぐらいの価値ですねという、ここに税金が課されます。承継する際にこの株式そのものは発行してはいないが受け取る個人として税金を負担しなくてはならず、これは非常に大きな負担となります。その税の問題は実は結構昔からあって、ここを徹底的に支援しようということで2018年に特例事業承継税制というものができ、一言で言うと事業承継のこの断面においては税金がゼロになる。ただこれは、税を免除しているわけではなく、猶予をする。事業を継続している限りこの税を納めなくていい。子から孫へとどんどん引き継いでいくと、そこの税金は猶予から免除に変わってずっと税金かからないということになります。 これには1代で5年の事業継続が必須条件となっています。

ー 須毛原

向かっている方向は素晴らしいと思いますが、抜け道を考える人、例えば名前だけ残して、税金を優遇してもらうといったことは起こらないのでしょうか。要は事業継続の概念とはどういうことですか。

ー 石澤

事業として毎年報告をしなくてはなりません。この税制の適用は、国として認定した後に税務署に申請し成立します。その後事業報告できちんと事業をやっていないということがわかれば取り消して税金を徴収されることになります。

ここまでが、いわゆる親族内承継でもう一つは第三者に売る場合。実は売る場合はあまり問題がなく、税金については分離課税になっているので20%しかかかりません。

むしろ買う側の問題があります。事業を買う時に、資金を工面するための融資制度。例えば制度融資といって日本政策金融公庫からの融資。それから、ある会社の株式を取得する際にその7割までを準備金として積み立てて、積み立てた分を損金算入ができる。ただこれは5年間だけ損金算入して5年後には均等で益金として取り戻すのですが、5年間はこの部分のキャッシュが生まれるのでそれを使って設備投資するといったようなことができます。

そういった税制の他にもさまざまな施策はあります。

例えば、M&Aをする際にはマッチングが重要になってくるので仲介フィーがかかります。中小企業にとっては、その仲介フィーが負担になる場合がありますので、国としてその仲介費用の半分、3分の2を補助するような補助金があります。また、承継した後に新しいことをやりましょうという際、例えば販路開拓のための費用、あるいは設備投資への補助金、そういったものもあります。そういった中小企業の事業を、円滑にかつ意味のある形で行っていただくための予算や、税、法律などいろいろな施策を講じています。 更に最近の面白い取り組みとして、地域を長く支えているような企業が後継者のいない中小企業を子会社化、グループ化し、一緒に成長していこうという取り組みも増えてきています。そういった地方での取り組みを国がある程度お墨付きを与えつつメリットも与えつつ、他方で、雇用や賃上げの部分などをしっかり配慮しなさいという、その双方をバランスするような、そういった取り組みを広げていきたいとも思っています。

ー 須毛原

そうですね。岸田首相が、所信表明で、「経済、経済、経済」とおっしゃっていましたが、そんな中、最近トヨタがすごい決算の発表をしたように、大企業はそこそこ頑張っているようにも見えます。問題は、全企業の99.7%を占め、雇用の70%を支えている中小企業がこれからどうなるか。それに加えて、中小企業×地方だと私は思っています。 中小企業の成長への道筋ができれば、その中から、ひと時代前のホンダとかソニーとかそういった会社が出てくる可能性があるのではないかと私は期待しています。

中小企業の成長を後押しするための国による様々な施策。中小企業側が常にアンテナを張り、企業ごとのニーズに従って有効活用していくことが大切です。同時に、「わかりにくい」「手続きが煩雑」「敷居が高い」と思われがちなそれらについて、「わかりやすく、手続きしやすい」制度設計や、周知などが求められているとも思います。

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