【特別企画】社長対談

「日本の中小企業には力がある!」
中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏 Vol.3(全3回) 2023.12.20

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中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏にお話をうかがう第3回。最終回の今回は、石澤さんと中国の関わり、日本企業にとっての中国市場について、海外から見た日本市場の魅力、そして最後に皆様へのメッセージをうかがいます。

【特別企画】社長対談 ゲスト石澤義治(いしざわよしはる)

役職:中小企業庁 事業環境部 財務課 総括補佐
学位:中国 清華大学 国際関係学 修士

2009年に経済産業省に入省。主に、成長戦略の策定、企業統合を円滑に進めるための法改正、TPP交渉、新エネ政策、コンテンツ産業政策などのポストを歴任。
現在、中小企業庁にて、中小企業の事業承継、M&Aや中小企業税制などの業務を担当。
また、在広州日本国総領事館にて、経済領事として日中ビジネス協力などに携わっていた。

石澤義治さん
  1. Vol.1「中小企業の成長戦略を後押しする国の施策」中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏Vol.1
  2. Vol.2「中小企業の海外展開」中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏Vol.2
  3. Vol.3「日本の中小企業には力がある!」中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏Vol.3

祖父の代に遡る中国との関わり

ー 須毛原

この辺でちょっと話題を転換させていただきます。

元々石澤さんを存じ上げたのは、私のビジネスパートナーが、当時広州領事館にいらっしゃった石澤さんにお世話になったところからです。 ここからは石澤さんと中国の関わり、中国についてどのような思いがおありなのかお聞かせいただけますか。

ー 石澤

話をすると長くなりますが、私の祖父がいわゆる旧満州、今の黒竜江省開拓団として家族全員で中国に渡り、その後中国残留孤児となりました。私はその3代目ということですが、中学校1年生までずっと中国にいました。その後厚労省の引き上げプロジェクトで一家全員日本に帰ってきました。1999年だったと思います。

13歳で日本語をあいうえおから勉強してそこから日本の大学に進み経産省へ入省しました。 その後北京の清華大学に留学し、修士号を取り、そのまま外務省に出向という形で3年間総領事館に勤務しました。その時に中国の南側の経済の最先端というか、日本よりもさらに進んでいるIoTの分野などを見聞きしました。

ー 須毛原

私は2004年から2015年まで上海、2017年から2019年まで北京にいましたが、石澤さんが中国にいらっしゃった時期は中国が著しく成長した時期ですね。 今から3年3か月前、当社を設立した際に、最初のセミナーに登壇いただいて、その時のお話では、広州時代に100社ぐらいの中国のスタートアップを日本企業に紹介されたとのことでしたが。

ー 石澤

200社くらいだと思います。ひたすら回りました。

ー 須毛原

中国の成長著しいスタートアップを日本企業に紹介したら面白そうだと思う人は少なくないと思いますが、実際に石澤さんのように200社やっていた方はまずいないと思いますよ。

ー 石澤

面白かったんです。すごく単純に思ったのは、このスタートアップの技術と日本企業をくっつけると面白そうだなと単純に思いました。 うまくお繋ぎできたケースもありましたし、実際にビジネスになったケースもありますが、そこまで至らないケースが実はほとんどだったというのが少し心残りではあります。

日本企業にとっての中国市場とは

ー 須毛原

本当に素晴らしい活動だと思いますし、そういった活動が常態となればいいと思います。中国の先端企業や地域を訪問することがイベントではなく、本当にビジネスとして腰を据えた交流になることを私は願っています。 石澤さんと中国との関わりや今までのご経験を踏まえて、日本企業にとって中国市場をどのように捉えていったらいいのか、少し漠然としていますがご意見をお聞かせください。

ー 石澤

そうですね、まず全体としては経済安全保障の文脈は非常に大事なことになってきていると思います。国益も当然ながら最優先にしなくてはいけないと。これは国の方針であって、日本企業も多分気にするところだと思います。これについては心の中に留めておくということは大切だと思います。

それから、中国マーケットのいろいろなリスクなどが報道されていることもあり、不安に思われる方もいらっしゃると思いますが、ただ、それはごく一部のものだと思っていて、普通に中国に駐在されている方、あるいは向こうと実際に取引をされている方、実際問題、今でも中国は日本の最大の輸出貿易国であり、たくさん取引をされている中で、おそらくわかっている方は見えてくる事実や物事が違うと思うので、そこは冷静に見ておいた方がいいと思っています。

ある意味でチャンスのあるマーケットである以上は、リスクはあって当然で、リスクのないマーケットにチャンスは絶対ないので、そこは直視すべきだと思っています。それを踏まえた上で、中国マーケットをどう見るかですが、これは多分、言うまでもないのですが、未来含めておそらく世界最大の単一のマーケットであるし、非常に変化が早いマーケットであるので、そういう意味では、チャレンジをされたりとか変化を求めたり、世界に通用したいといったチャレンジ精神を持っている起業家にとっては、私は最適なマーケットなのではないかと思っています。単に儲けるというよりも、そういう見方もできるかなと思っています。

昔はどちらかというとコストの安い生産拠点という位置づけでしたが、いよいよそういう状況ではなくなってきているということで、本当に会社をグローバルにしたいのであれば、中国マーケットは無視できないところだと私は思っています。

もう一つ言うと、BtoCとBtoBを分けるときに、BtoCはすごく大きなチャンスがあって、おそらく日本のものであれば、まだまだ成長する、あるいは勝ち、受けるポテンシャルは高いと思います。しかし、BtoBとなると、多分かなり苦戦はするのではないかなと思っていて、様々な分野において、中国は確実に競争相手になってきているので、何でもかんでも勝てるというところが少なくなってきていると思います。仮に進出しようとした場合、自社の強みは何なのかとか、あるいは補完できるものが何なのかということを事細かに分析した上でやらないとすごく難しいと思います。それは中国マーケットの難しさとか、文化とかそういうこと以前の問題として、ここにきて分野によっては中国の方が日本より競争力が高い部分が少なからずあるので、そういう意味で、中国マーケットをしっかり直視し、ファクトを押さえた上で挑戦すべきだと思います。

ー 須毛原

おっしゃる通りだと思います。メディアの発信にもいろいろ課題があるということを私は常々感じています。ビジネスをしていく上では必ずビジネスリスクが発生しますがそれは競争があるからで、ある意味フェアなものだと思います。それ以外のリスク、例えばビジネス慣習ではないところでありえない損失を被るとか、そのあたりのことは実は中国はすごく整備されてきていると思っています。

カントリーリスク、例えば台湾有事があったらどうするんだと、それはもう誰もわからない話ですし、そこを言い出すとそれこそロシアとアメリカなど本当に話がややこしくなってしまいます。一方で本当はリスクではないかもしれないのに過大にリスクと認識されていることがたくさんあり、例えば最近の反スパイ法の改正も確かによくわからないから不安だ、というのはあると思います。しかし、不安だから普通の営業行為で情報を取りに行かないといったように、ある意味中国ビジネスに関わっている人たちに言い訳を与えているようなところもあると思います。例えば他所の会社に行って無許可で写真を撮れば怒られるのはどの国でも当たり前ですし、それは普通なことです。だから私は過度にメディアが煽りすぎだなと感じています。日本でも普通やらないことを中国でやって、その危険性について言われるということは、中国社会のリスクを誇張しているような感じがしてなりません。

また、市場の規模が大きいということはありますが、その規模にも意義はありますが、グローバル市場そのものであるということ。どんな製品もグローバル市場で勝たないと駄目です。それが実はビジネスルールです。だからテスラも中国で頑張っているわけで、グローバル市場で勝てない商品は小さな市場でも駄目なのですよね。その辺が企業の方にうまく伝わればいいなと思っています。それに加えて、政府や行政が民間、特に中小企業で情報や知見が足りていない方に情報を提供していくということが必要なのではないかと思います。

ー 石澤

本当におっしゃる通りだと思います。

海外企業から見た日本市場の魅力

ー 須毛原

それでは逆に、海外企業にとって、日本市場の魅力とはどのようなものでしょうか。

ー 石澤

私は中国で非常に多くのスタートアップと関わってきましたが、彼らがよく言う日本マーケットのよさ、日本のマーケットに何を求めているか、それは、日本には賃金が安くて優秀で真面目な人材がすごく多いということと、すぐ近くで部品、部材、しかもハイクオリティなものが安く手に入る、ということです。日本でしっかりとした人材や質の良い部材部品を確保することによって1ランク上の製品開発ができるということです。

彼らはここを足掛かりにして世界に出ることを考えています。日本で事業展開することによって得る日本のブランド価値も彼らにとっては魅力があり、グローバルに成長していく際に、それは大きな武器になると考えています。

さらに、日本はいい意味でも悪い意味でも適温な競争環境なんですね。そう簡単に死なないという。成長までの間のバッファが結構長い。中国だったら、ちょっと失敗すると即死なので、その意味でも中国のスタートアップにとって、日本はすごく面白いマーケットであるし、これからも重要視するマーケットであると思います。 私はそのニーズを活用し、向こうの面白い技術と日本企業のリソースがうまくドッキングできると思っています。もちろん経済安全保障面などをしっかり配慮しつつ、日本にとっていいものを取り入れて、一緒に世界に出ていくようなそういう形が取れると思っています。今日(2023年11月17日)、岸田首相と習近平総書記が戦略的互恵関係を再確認されたというニュースが出ていましたが、経済安全保障をもちろん大前提に置きつつ、経済の面においてもいわゆる戦略的互恵関係を築くという意味において、中国企業にとって日本のマーケットの魅力があるうちにそれをしっかり取り込んで共に成長していくということはすごく重要かなと思います。

ー 須毛原

日本の経済をよくするために、海外企業に日本に来てもらうというのは、雇用も増えるし悪いことはないと思いますが、特にその中で中国企業についてネガティブなものはないでしょうか。

ー 石澤

そこは全くないと思います。もちろん日本に投資する際に、これは中国企業に限らず外為法という法律があり、審査を受けてやりますが、そこで中国企業だからと言って止められたりすることはありません。

ー 須毛原

私が多くの日本企業と接している中で、中国企業に対して漠然とあまりよいイメージを抱いていない人は少なくないですね。一方で、私が接している中国企業の人たちは人たちで、日本企業は保守的だとか、決断まで時間がかかるといった不満を口々にします。私はそこにはお互いの誤解やコミュニケーション不足があると思っています。単に中国企業だという理由だけで日本企業が敬遠することはなく、中国企業がその商品の技術的、機能的、コスト的優位性をきちんと伝えることが出来れば日本企業も真面目に話を聞いてくれます。中国企業は自分達の努力が足りていないことに起因している問題に対して「日本企業の保守性」ということに理由を見つけてしまいがちですね。

ー 石澤

経済安全保障はどの国にも通じる話であって、日本からすると、中国であろうとアメリカであろうとどの国であろうと、日本の国益を損害するような物事は絶対駄目なので、そこをしっかり固持し、しっかり守ると。その上でまた別の文脈で、経済は一つの国では成り立たないので協力もしていくということだと思います。 国際環境は今、複雑化しリスクも高くなっていますが、デリスクしながら、サプライチェーンの再構築も含めてきちんとやるべきことはやるということだと思います。ただ、正常な経済取引、貿易関係、投資関係を害することは、それは日本にとっていいことはないのでそこはしっかり線引きをするべきだとは思います。

日本の中小企業には力がある!

ー 須毛原

経済の再生が叫ばれている日本。そしてその99.7%を占める中小企業ですが、当社も日本の中小企業のグローバル化を今後もサポートしていきたいと考えています。 それでは、その中小企業施策のど真ん中におられる石澤さんから、読者の皆様へ向けてメッセージをお願いいたします。

ー 石澤

私自身、中小企業政策にはまだ1年ちょっとしか関わってきていませんが、ものすごく感じているのは、中小企業にもすごい技術や、いい製品、良いサービスがあって、他方で足りないのは、やはりビジネスを展開するときのノウハウ、資金、情報、こういうところに足りないものがあるということです。

中小企業が成長していくためには、ここの足りない部分をどうやって補完するかだと思います。

足りない部分を補完する方法は二つあると思っていて、一つは、そのリソースを補完してあげられるプレイヤー、例えば民間や公的な組織がリソースをドッキングしてあげられるような支援体制エコシステムを構築する必要があると思っています。

今、試験的にやっているのが、これから事業承継をする後継者候補たちが承継した後に新しいことやろうとする時に、既にある経営資源をベースに何ができるかを考えるという活動「跡継ぎ甲子園」というイベントをやっています。 そこで出てきた方は、基本的に経営資源を持っていますが、例えばPRとかブランディングとか、いろいろなリソースを持っていない場合がままあります。それを周りから補完してあげられるようなエコシステムを各地方に作っている最中です。

ー 須毛原

それは素晴らしいですね。 中小企業にはいろいろな経営資源がありますから、それをどう活かしていくかですよね。

ー 石澤

さらに、中小企業の周りをうまくエコシステムで固めてあげて集団化すると、相当の力を持てるとも思っています。働き方の多様化やビジネスのあり方の多様化を背景に、中小企業をグループ化することにも可能性があると思います。

「跡継ぎ甲子園」は来年3月に全国5ヶ所に広げますし、その後10ヶ所にして今後全国区にしていく予定です。跡継ぎの皆さんには「自分たちが99%の日本を支えるんだ」という気概を持っていただければ中小企業をとりまく環境も変わってくると思います。

それからもう一つ、海外へ進出するとき、特に中国かもしれませんが、現地政府とのパイプがすごく重要だと思います。そこに至るまで1足飛びに行けない場合には、現地の領事館やジェトロなどを使うべきだと思います。私が経済領事をしていた時にすごく言われたのは、「総領事館、大使館は声を掛けにくい。」ということです。

ー 須毛原

そうですね。私は上海にいた11年間で一度も領事館には行きませんでした。その後、北京駐在時に北京の大使館の方々には大変お世話になりましたし、瀋陽領事館、上海領事館、広州領事館にお邪魔させていただいた際もとてもフレンドリーなご対応を頂きました。そういったことを一般の民間企業の方は知らないですよね。

ー 石澤

領事館や大使館はパイプ役です。その時は何もなくても、何か問題が起きた時に緊急対応をしてもらえます。その部分は大きいと思います。

ー 須毛原

中小企業が海外に進出する際は、政府がフルにサポートしていただけるのであれば、非常に心強いと思います。

今後も、手厚いサポートをよろしくお願いいたします。 本日は、お忙しい中、長時間にわたり貴重なお話をいただきありがとうございました。

対談を終えて

日本経済の発展には、全企業数の99.7%、雇用の70%を支える中小企業の成長が不可欠です。

「スタートアップ」が注目され、日本の成長にはこれらの育成が重要とされていますが、実際には多くのスタートアップでは人材、資金、ネットワーク、信頼などが不足しています。優れた技術を持ち、投資を受けても、大きな成長には時間が必要ですし、実際、グローバル市場で成功している日本のスタートアップはほとんどありません。

一方で、中小企業には“成長が難しい”というイメージがあるかもしれませんが、この対談で取り上げたように経営を引き継いだ方々の中には意欲的な方も多くいらっしゃいます。

この点で、石澤さんのお仕事は、日本経済発展の最前線にあると思います。

日本の中小企業から、日本版GAFAMやテスラ、エヌビディアのような企業が生まれることを願ってやみません。私も微力ながら、その動きをサポートできればと考えています。

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