中小企業庁 事業環境部財務課 総括補佐 石澤義治氏にお話をうかがう第2回。
今回は、中小企業の海外展開についてお話を進めていきます。
【特別企画】社長対談 ゲスト石澤義治(いしざわよしはる)
役職:中小企業庁 事業環境部 財務課 総括補佐
学位:中国 清華大学 国際関係学 修士
2009年に経済産業省に入省。主に、成長戦略の策定、企業統合を円滑に進めるための法改正、TPP交渉、新エネ政策、コンテンツ産業政策などのポストを歴任。
現在、中小企業庁にて、中小企業の事業承継、M&Aや中小企業税制などの業務を担当。
また、在広州日本国総領事館にて、経済領事として日中ビジネス協力などに携わっていた。
中小企業の海外展開に対する支援
ー 須毛原
私は海外事業歴が長いこともあり、現職では日本の中小企業の海外進出のお手伝いもさせていただいています。 ここからは、日本の中小企業の海外展開についてお聞きしたいと思います。
ー 石澤
中小企業の海外展開比率は1割、2割です。その1割、2割の方々において、現在の円安はいい方に振れていると思います。
国内で頑張っていくこともすごく重要ですし、海外で頑張れる企業をより増やしていくという取り組みもすごく重要だと思います。実際中小企業白書を見ていただければわかるように、海外に挑戦している中小企業の利益率や生産性は高いです。マーケットも大きいし、全体の生産性が上がっていくので当然利益も上がっていきますが、ただそれは残念ながら全体の1割、2割しかないと。 中小企業と大企業の一番の違いは、リソースです。そのリソース不足の状態にもかかわらず海外で戦うことは国内マーケットの何倍も難しいので、国内でさえリソースが足りないのに、海外に挑戦するリソースがあるとは到底思えないということになります。
ー 須毛原
私は海外の方が長いですが、国内は国内で難しいところもあります。例えば日本特有の人間関係とか、問屋制度のようなものとか、しきたりとか。それに比べて、海外には海外の難しさがあって、それは、質が違う難しさなのですが、実は、海外でビジネスをやってみると実は意外と合理的なんです。でも、 やったことがないと、ものすごく大変に見えてしまいますね。
ー 石澤
そうですね。ある程度のことがわかるまでのハードルが高い。
そのような中で、我々は円安が全て悪いとは思っておらず、円安を追い風に業績を伸ばしているような企業もありますし、もうご存知だと思いますが、「新規輸出1万者支援プログラム」というものもあります。
(注)『新規輸出1万者支援プログラム』とは
2022年12月16日から、経済産業省、中小企業庁、ジェトロ及び中小機構が一体となり、全国の商工会・商工会議所等とも協力しながら、実施している支援プログラム。
主な目的は①新たに輸出に挑戦する事業者の掘り起こし ②専門家による事前の輸出相談 ③輸出用の商品開発や売込みにかかる費用への補助 ④輸出商社とのマッチングやECサイト出展への支援 などを一気通貫で実施すること。
「新規輸出1万者支援プログラム」は、中小企業には足りないリソースを補完します。人、情報、資金、といったいろいろなものを補填しながら、海外に挑戦しましょう、1万者やりましょうということを大々的に打ち上げて、ジェトロさんや民間のお力も借りてやっていくというものです。 海外はマーケットが大きいので例えば初めは越境ECを使ってとか、海外展開はいろいろなステージがありますからいきなり難しいことをやる必要はないので、マーケットもまず簡単なマーケットからというように、中小企業庁としても、中小企業の成長の一つのツールとして海外があると思いますし、それを我々としても円安の良い側面も借りながら、しっかり支援していきます。そこのポイントはやはりリソースの補完と思っています。
ー 須毛原
「新規輸出1万者支援プログラム」は2022年12月開始からほぼ1年が経過した中で、何社くらいがこのプログラムに参加されているのでしょうか? また、どのような業種の方が多くて、どのような国への輸出を目指されているのでしょうか。
ー 石澤
直接の担当ではありませんが、プログラムの名前のとおり、それに相当する事業者の登録があり、それに対し支援を行ってきたと聞いています。具体的には、10月時点で登録1.2万者超、輸出実現800者超の支援規模になっています。業種は、やはり製造業、食品関係が多いようですね。
ー 須毛原
中国に対する印象があまり良くない状況の中で、やはり、中国への輸出は皆さん敬遠されるのでしょうか。
ー 石澤
そういったことはありません。中国は巨大な消費マーケットがあるので、中小企業にとっても魅力的な販路先です。実際、多くの中小企業がこのプログラムを通じて、中国への輸出を実現しています。経済安全保障とは関係ない部分で過敏に反応・萎縮する必要は全くないと思います。
ー 須毛原
経産省やジェトロが中心となって、2016年頃から「新輸出大国コンソーシアム」というプログラムも展開されていると思いますが、2022年から新たに「新規輸出1万者支援プログラム」が開始されたということは、「新輸出大国コンソーシアム」ではカバーしきれない課題があったと言うことなのでしょうか。そもそも、対象者や目的が異なるのでしょうか。 また、中小企業は、両方のプログラムに同時に申し込みすることが出来るのでしょうか?
ー 石澤
「新規輸出1万者支援プログラム」は、2022年12月に始まったものです。これは、急速に進んだ円安を輸出のチャンスと捉え、中小企業の海外進出を促進するものです。多くの中小企業・小規模事業者は、輸出に高いハードルを感じています。こうした課題をクリアするために、経済産業省、中小企業庁、ジェトロ及び中小機構が一体となり、全国の商工会・商工会議所等と連携し、 輸出を考える事業者の方への「総合窓口」、「課題整理」、「最適な施策提案」のスキームを構築することで、「新たに」輸出に挑戦する中堅・中小企業を掘り起こし、輸出をより身近に感じていただくための施策とご理解いただければと思います。
なお、「新輸出大国コンソーシアム」は以前からあったもので、1万者プログラムにおける提案施策のひとつ、という位置づけです。「新輸出大国コンソーシアム」では、自社による直接輸出を検討する場合に、専門家による伴走支援や商談のアレンジ等の支援を提供しています。 そういう意味では、両方の支援を受けられますし、「新規輸出1万者支援プログラム」に登録した上で、様々な輸出策を検討する中で、「新輸出大国コンソーシアム」の支援を受けることも可能です。
※1「新規輸出1万者支援プログラム」
※2「新輸出大国コンソーシアム」
企業の海外展開には、企業自体の体力(商品・人・資金・ノウハウなど)が不可欠です。中小企業では、それらの足りない部分を行政など外部に補ってもらうというというのも、一つの選択肢だと思います。
次回は、石澤さんと中国との関わり、さらに中小企業の皆さんへのメッセージなどをおうかがいします。