「幸せを目標に~人生を豊かにする予防医学へ」
新・社長対談第2回 株式会社AI予防医学研究所 代表取締役社長 酒谷 薫先生 Vol.3(全3回) 2026.06.17

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株式会社AI予防医学研究所 代表取締役社長 酒谷 薫先生にお話を伺う第3回。

最終回はAI予防医学研究所のコア技術「AICOG」が生まれたきっかけ、酒谷先生が目指す「幸せを目標にした医学」、そして先生の夢や座右の銘についてお話を伺います。

酒谷 薫先生プロフィール

【学位・資格】
医学博士・工学博士・脳神経外科専門医/ AICOG(※)開発者

【現職】
東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任研究員/医療法人社団醫光会 理事長/(一社)脳とこころの健康科学研究所 理事長

【主な経歴】
米NewYork大学 医学部脳神経外科研究所(助教授)/米Yale大学 医学部神経内科(客員助教授)/中国・北京中日友好医院 脳神経外科 国際協力事業団長期派遣専門家/日本大学医学部 脳神経外科(教授)・工学部(教授)/ベルガモ大学(イタリア) 人間社会科学部、客員教授/東京大学大学院 新領域創成科学研究科(特任教授)


(※)【AICOG(アイコグ)とは】
株式会社AI予防医学研究所が開発した「認知機能健康管理AIサポートシステム」。
健康診断で得られる一般血液検査データを、AI(深層学習)で解析し、認知症や認知機能低下のリスクを推定する技術。
最大の特徴は、MRIやPET、特殊なバイオマーカー検査を必要とせず、通常の健診データだけでリスクを評価できる点。企業の健康診断や自治体健診のデータを活用することで、低コストかつ大規模な認知症リスク評価を、短時間で実現できる。

酒谷薫先生
  1. Vol.1「医学と工学の融合、新たな予防医学の世界へ」
  2. Vol.2「グローバルな経験と医学・工学の融合」
  3. Vol.3「幸せを目標に〜人生を豊かにする予防医学へ」

「AICOG」の誕生:血液データと認知機能の相関を発見

ー 須毛原

酒谷先生が開発されている、医療と工学の融合である「AICOG」で今取り組まれているのは認知症の予防ですが、このテーマに出会ったきっかけはどういったところなんでしょうか。

ー 酒谷

これは本当にある意味偶然なんですよ。先ほどもお話ししたように(vol.2)、私は脳神経の研究者としてストレスの研究をしていたんですよね。光で脳機能を見る、そういう研究をしていたんです。それで、非常勤で勤めていたあるリハビリ病院で、その装置を使って認知症の早期診断ができないかという研究を始めたんです。

光で脳機能を見るっていうのは、血液の流れを見るんですね。貧血があったりするとうまく測定できないとかあるので、お年寄りを対象にしていたこともあって貧血の程度とかを見るために採血したんですよ。その採血の量が貧血を見るためだけだと余るので、肝臓機能や栄養、糖尿病とかがわかる生化学検査もやってよということになって調べたんですよ。それで2年ぐらいかけてデータを集めて、光で脳機能を見る研究もうまくいきました。

その際、統計をやっている先生が、他の血液データも認知機能と相関がありますって言い出したんですよ。例えばアルブミンとか、そういう思いもよらなかったものが相関があると。それで「えっ」と思って。

それでいろいろ論文を調べたら、ちょうどその頃そういう全身性の代謝障害というのが認知症リスクになるということが言われ始めたところだったんです。それで、「それならばこの血液データから予測できないか」ということで、データ科学関係の人と話をして。で、いわゆるディープラーニングをやっている先生と知り合って、結構良い精度で予測できるということがわかったんです。それなら、脳機能を測る特別な装置がなくても、一般の血液検査データだけで予測できるわけですから、ものすごく広まるんじゃないかと思って、それでこの研究を特許を取った上でスタートさせたんです。

ー 須毛原

その時、医学と工学と両方やってらっしゃったってところがやはり肝になったわけですね。

ー 酒谷

それはありますね。僕がとったのは工学の中でも情報工学、システム情報工学っていうところで、まさしくそういうところなので、発想がつながるというか。

ー 須毛原

なるほど。すごいですね。

EBMの先にある「幸せ」を目標とした医学

ー 須毛原

この「AICOG」を通じて、今後この技術の先に酒谷先生がお医者さんとして、どういったことを目指されているのでしょうか。

ー 酒谷

そうですね。よく認知症エコシステムと言いますよね。認知症予防という、一つのサイクルというかエコシステム。これを作るというのがとりあえずの目標ですけれど、僕はもっと大きくそのエコシステムを広げたいんです。特に高齢者の生きがいとか、こう言うと誤解されてしまうかもしれませんが、スピリチュアリティとか。そういう内面的な生きがいを失っている高齢者はすごく多いんです。外来で診ていると、そういう生きがいを失っている人はすごく多くて、結局、認知機能も同じなんですよね。そういう人たちを巻き込んだ、もっと大きなエコシステムというか、幸せを目標にした医学というか。

現代の医療は、いわゆる「エビデンス・ベースド・メディスン(Evidence-Based Medicine)」、EBMって言いますが、科学をベースにした医学、医療でないと意味がないみたいな、科学中心なんですよ。でもそれだけじゃ、やっぱりいけないんですよね。幸せをベースにした医療というか。

ー 須毛原

医学と工学の先に、哲学というか。

ー 酒谷

そうですね、それもやっぱり大事だなと、この頃思いますよね。

ー 須毛原

非常に高い視点で発想されていらっしゃいますね。

ー 酒谷

別の視点からですね。

創薬と予防の連携、そして化粧療法のような介入の可能性

ー 須毛原

医療には、創薬における治療のフロンティアと、AIにおける予防という両輪があります。今、いろいろなところで予防に大きな動きが出ていますが、今後どのように創薬と予防が響き合ってくるとお考えですか。

ー 酒谷

そうですね。広い意味での「介入」だと思うんですよ。薬っていうのは一つの手段であって、いろいろな運動とか、僕たちは一時、化粧すると認知機能を保つという化粧療法の研究をやってたんです、資生堂さんと。

80歳後半ぐらいの人で化粧を施した方と施していない方、3ヶ月経つと差が出るんです。結局化粧して自分の顔を見たり、あるいは褒めてもらったりすると嬉しいんですよ。

ー 須毛原

そういうことも含めて予防を考えるっていうことですか。面白いですね。

ー 酒谷

だから単に、お薬だけじゃないんです。いっぱいあるんですよ。


ー 須毛原

先生は今、認知症予防のための「AICOG」を開発されている立場ですけども、ご自身としては何か認知症にならないようなルーティンとか生活習慣などはありますか。

ー 酒谷

僕はね、体育会系なんですよ。いつもね、朝起きたらすぐに布団の中で腹筋30回、腕立て100回やって。週末は実はね、ボクシングジムに行ってます。

ー 須毛原

わあ、それすごいですね。

ー 酒谷

50歳の時に始めたんですよ。元3階級制覇のチャンピオンのジムが近くにあるんですよ。そこで週末、パーソナルトレーニングに行ってます。

ー 須毛原

なるほど、これは酒谷先生の知られざる一面をお伺いできたという感じです。

「患者を把握する」という医師の使命

ー 須毛原

最後に、大きくお聞きします。先生にとって医学とは、お医者さんとは何ですか。

ー 酒谷

医者を全うするとは、単に患者さんを見るだけじゃなくて、幸せにするとか、そこを目指すことだと思います。

ー 須毛原

単なる病気の治療ではなく、その人の人生をお医者さんとして診る、サポートする、ということですか。

ー 酒谷

僕が若い時に先輩の先生からよく言われたのは、「患者を把握しろ。」ということです。把握するっていうのはすべて知るということなので。

ー 須毛原

どこが病気なのかということではなく、その方の人生とか家族とか、すべてを診るということですか。

ー 酒谷

そうですね。そういうことをしないとダメだと。

ー 須毛原

とても志が高いですね。

AI予防医学研究所の代表取締役として、また1人のお医者さんとして、お会いするたびに酒谷先生は非常にエネルギッシュなのを感じます。今後10年、20年、30年と成し遂げたい夢というのはありますか。

ー 酒谷

実は一昨日、71歳になったんです。僕はね、100歳までいかないといけないと思っていて。今までやってきたことはバラバラに見えるかもしれませんが、僕の中では繋がっていて、繋がりだしているんですよね。だからそれを形にする、先ほど言った広い意味でのエコシステム、高齢者や障害者が幸せに暮らせるようなコミュニティを作りたい、という思いがありますね。

ー 須毛原

非常に崇高な夢ですね。

ー 酒谷

先ほども触れましたが、医学の進むべき道は一つです。全く別のことをしているわけではなく、究極的にはそこに行き着くのだと思っています。

ー 須毛原

そうですね。今、日本の大きな課題は少子高齢化。どんどん高齢者が増えて、高齢者の社会貢献が社会の力にもなりますし、医療費の削減にも影響する。だから国力に直結していると私も感じています。

座右の銘は「明日はどっちだ」

ー 須毛原

先生の座右の銘があれば教えていただけますか。

ー 酒谷

「明日はどっちだ」ですね。あれですよ、『あしたのジョー』。

ー 須毛原

面白いですね!ここで『あしたのジョー』ですか!

ー 酒谷

そうなんですよ。僕らの世代は、須毛原さんよりちょっと上ですよね。あの時代はね、あの漫画がもうバイブルのようになっていて。

ー 須毛原

いや、あれはね、もうかっこよかったですね、燃え尽きるまで。

ー 酒谷

そう、あの燃え尽きるまで、真っ白い灰になるっていうのが、『あしたのジョー』の一つのテーマなんですよね。今でも、そうなりたいと思いますよ。

ー 須毛原

ここで『あしたのジョー』が出てくるとは思わなかったです。意外ですね。

最後に、当社のホームページを読んでくださる方は、地方で事業されている方やこれから海外を目指す方、いろいろな方がいらっしゃいますが、そういう頑張っている方々に、先生から何かメッセージをいただけますでしょうか。

ー 酒谷

そうですね、僕は、生き方には 2種類あると思っていて。
一つは周りからどう見られるかという、いわゆる客観的な生き方。もう一つは自分がどうしたら良いかという主観的な生き方。それのバランスは大切だとは思いますが、やはり主観的な生き方を大事にしてほしいと思います。常に他人の評価を求めるのではなくて、自分がいかに満足するかという生き方。

ー 須毛原

先生のキャリアを見ていると、主観的に生きながら、客観的にも評価され続けてきたという感じがします。

ー 酒谷

結果オーライですよ。主観が先になって、結果評価していただけているのは、非常にありがたいです。

ー 須毛原

まずは主観だと。もちろん客観的なことは、俯瞰して自分を見ないわけではないが、そこを意識しすぎない、と。

ー 酒谷

そうだと思います。

ー 須毛原

今日は長時間ありがとうございました。
酒谷先生の知られざる一面をたくさんお伺いできました。普段、医学に籍を置かれる方に深くお話をお聞きする機会はなかなかありませんので、とても貴重な時間をいただきました。
先生が100歳まで、日本の社会のために頑張っていただけることを心からお祈りして、今日の対談の締めとしたいと思います。本当にありがとうございました。

ー 酒谷

ありがとうございます。

対談を終えて

酒谷先生のお話を伺って、まず胸に残ったのは、圧倒的な熱情をもって走り続けてこられた人生そのものでした。神戸から東京、ニューヨーク、北海道、北京、そしてイタリア・ベルガモへ。医学から工学へ、研究から起業へ。一見ばらばらに見えるその足跡は、「自分が良いと信じる方へ進む」という一本の意志で貫かれていました。

そして何より驚かされたのは、71歳になられた今も、その情熱がいささかも衰えていないことです。「100歳までいかないといけない」と笑いながら、高齢者や障害者が幸せになれるコミュニティづくりという大きな夢を、まるでこれから始めるかのように描いていらっしゃいます。飽くなき情熱で、なお夢を追い続けている――その姿に、私はこの方のエネルギーの秘密に触れた気がしました。

その秘密の一端は、座右の銘にも表れていました。「明日はどっちだ」。お聞きした時、正直驚きました。これは『あしたのジョー』で主人公・矢吹丈を育てたトレーナー、丹下段平の言葉です。

私も子どもの頃に夢中で読んだあの物語の一節が、医学博士・工学博士でいらっしゃる先生の口から飛び出してくるとは、思いもよりませんでした。真っ白な灰になるまで燃え尽きる――あの世代のバイブルだったといわれる物語の精神は、背水の陣で海を渡り、昼は手術・夜は工学部という二刀流に挑み、そして今また起業という新たなリングに立つ先生の生き方に、確かに重なっています。

対談のあと、先生は東京大学のキャンパスを安田講堂まで案内してくださいました。

幾多の青春が燃えたあの講堂と、『あしたのジョー』が世に出た時代は、奇しくも同じ時期に重なります。その前で、先生が自撮りしてくださった1枚の写真――そこに写る笑顔が、本当に素敵です。

研究者の鋭さでも経営者の覚悟でもなく、ただ少年のように楽しげなその表情にこそ、ここまで走り続けてこられた原動力があるように思えました。

先生は最後にこう語られました。

生き方には、周りからどう見られるかという客観的な生き方と、自分がどうしたいかという主観的な生き方の二つがある。大切なのは、主観だ、と。他人の評価を先に置くのではなく、まず自分が良いと信じる方へ一歩を踏み出す――その先に、結果はついてくる。

先生の70余年が、何よりの証です。
そして、「明日はどっちだ」。その問いを胸に抱き続けるかぎり、人はいくつになっても前へ進める。酒谷先生は、そのことを静かに体現しておられました。

社長対談、次回もどうぞご期待ください。

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