『ロボット研究は「究極の人間学」- 人に寄り添うフィジカルAIの未来』
「憧れから始まりロボット研究の最前線へ」
新・社長対談第4回 早稲田大学理工学術院教授 菅野 重樹 氏 Vol.1(全6回)
2026.09.01

菅野重樹 (Shigeki Sugano)
1981年早稲田大学理工学部機械工学科卒業。修士、博士課程を経て1986年早稲田大学助手。専任講師、助教授を経て1998年より教授。工学博士。
現在、早稲田大学理工学術院創造理工学部総合機械工学科教授。2014~2020年早稲田大学理工学術院創造理工学部長兼研究科長。2020~2024年早稲田大学理工学術院長。2025年より早稲田大学次世代ロボット研究機構機構長。人共存ロボット、機械における心の発生などの研究に従事。
2017年文部科学大臣表彰科学技術賞。2024年立石賞。2017年計測自動制御学会会長。
2023~2024年日本ロボット学会会長。
2026年よりバイオメカニズム学会会長。
IEEE、日本機械学会、計測自動制御学会、日本ロボット学会のフェロー。

- Vol.1「憧れから始まりロボット研究の最前線へ。」
- Vol.2「ロボット研究は究極の人間学。“人を支援するロボット”を追い続ける。」(2026年9月8日公開予定)
- Vol.3「人と共存できるロボットの本質は“人に合わせる”こと。AIRECの“E”に込められた意味」(2026年9月15日公開予定)
- Vol.4「ロボットに心は生まれるのか。『鉄腕アトム』に見る日本文化とロボットの親和性」(2026年9月29日公開予定)
- Vol.5「生成AIの急速な進化と、フィジカルAIの未来。」(2026年10月6日公開予定)
- Vol.6「“家族のようなロボット”は万国共通ではない。グローバルスタンダードの追求と2050年への展望」(2026年10月13日公開予定)
ー 須毛原
『新・社長対談』第4回目のゲストは、早稲田大学理工学術院教授の菅野重樹先生をお迎えしました。
菅野先生は加藤一郎研究室に始まる早稲田大学のヒューマノイド研究の系譜を受け継ぎ、内閣府が統括する「ムーンショット型研究開発制度」のプロジェクトマネージャーとして「一人に一台一生寄り添うスマートロボット」AIREC(アイレック)の研究開発プロジェクトを率いて来られました。2025年の大阪・関西万博では、AIRECが人に靴下を履かせ、洗濯物をたたむ姿を見せ、来場した約15,000人が「人に寄り添うロボット」を体感しました。
最近、“フィジカルAI”とういう言葉がにわかに脚光を浴びていますが、早稲田大学大学の加藤研究室が世界初の本格的なヒューマノイドロボット、WABOT(ワボット)を開発したのは1973年。その系譜を引き継ぎ、ロボット研究の最前線に立ち続けていらっしゃる菅野先生に是非とも直接お話を伺いたい、という想いから対談が実現しました。
対談では、菅野先生の研究者としての思想と信念について深堀りしていきます。
ものづくりが大好きな少年時代。WABOTに惹かれ研究室へ
ー 須毛原
私は昭和36年生まれで、まさに鉄腕アトムや鉄人28号に「はまっていた」世代です。菅野先生は昭和33年生まれとお聞きしていますが、先生がロボットに惹かれた初めの記憶というのは、いつ頃になるのでしょうか。

ー 菅野
もともとものづくりが好きで、小学生の頃だとLEGOブロックで思いっきり遊んでいました。中学に入ると、科学技術好きの仲間ができて、そういう中でロボットは割と話題になっていて。私が中学2年の年、1973年に加藤一郎先生がWABOT(※)を発表されて、新聞に出たわけです。
(※)WABOT:早稲田大学の加藤一郎教授のチームが製作した、世界初の人間の形に似せたヒューマノイドロボット。
当然、インターネットも何もない時代ですから、ニュースは全部新聞、あるいはテレビです。私は新聞を目にしました。それが仲間内で話題になって。当時、詳しいことは当然わかってはいませんでしたが、加藤一郎先生が早稲田で、東工大(東京工業大学)、今の科学大(東京科学大学)の森政弘先生、その2人の先生が結構有名だったんです。加藤先生がまさに人に近いロボットを作られていて、森政弘先生はちょっと変わった、生物の特徴を模倣するようなものや指の動きなどもやられていて、少しアプローチが違う。いずれにしても、当時日本でロボットというと、その2人の先生でした。面白いじゃないですか、ロボットって。
ー 須毛原
ワクワクしますよね。
ー 菅野
仲間内でもそういうのはすごく人気で。そのもう少し後かな、例えば『宇宙戦艦ヤマト』などが出て、近未来的な映像が印象的で。それから『2001年宇宙の旅』の映画、あれも小学校の時だったと思いますが、哲学的すぎて、私は単に頭が痛くなっただけだったんですけれど。そういう最先端のところは面白いなというのがあって。将来ロボットのような最先端の技術をやりたいなと。どちらかというと化学や理論よりは、ものづくり的な未来を追いかけるといった感じで。中学の頃の話です。
ー 須毛原
一貫してその夢を追い求められて、素晴らしいですね。
AI×ものづくり大国日本の可能性

ー 須毛原
先日NVIDIA(エヌビディア)のジェンスン・フアンCEO(Jen-Hsun Huang)が来日しました。国家プロジェクトでFRONTia(フロンティア)が始動して、日本政府としてAIの頭脳となる基盤モデルに5年で1兆円を投じるという話がありました。
今の日本が置かれている状況、ある種の熱狂の中で、日本の勝ち筋というのはどこにあるとお考えですか。
ー 菅野
日本はそれなりにものづくり的なところのスキルは揃っていると思います。単にAIではなくて。私は「フィジカルAI」という表現は実はあまり好きではないんです。ロボットとか自動車とか、具体的にモノと結びついている、モノがあってそこにAIが入る。その部分では日本は十分強みはあると思いますが、単独でAIと捉えるとやはりアメリカのほうが、AmazonにしてもGoogleにしてもNVIDIAにしても、企業が抑えていますよね。
もともとそういう意味ではWindowsだってアメリカですし、すべて基本の部分、特に情報系に関してはアメリカが先行していて、中国でもないし、日本でもない。もちろん半導体で日本は結構進んでいたというのはあるかもしれませんが、結局基本となるOSの部分はやはりアメリカですよね。そういう情報系で、それが今AIになっているわけですが、そこの部分で日本が強みを握るのは、私は難しいと思っています。事実、この何十年の流れでは、やっぱりアメリカ主導であることは確かなんです。
ただそこにモノが結びつく、モノがあってそこにAIが入ることの強みというのは、物をしっかりと作れる日本においては大きいと思うんですよね。
ー 須毛原
私も日本の持つものづくりの力はまだまだ捨てたものではないと、地場産業の海外展開支援の事業のなかで日々感じています。
その力を+AIの世界でどう生かしていくか、そこに日本の勝ち筋があるのではないでしょうか。
幼少期からのものづくりへの興味から、早稲田大学におけるヒューマノイドロボット研究の最前線へと歩みを進めた菅野教授。その後約半世紀にわたってその道を極めて来られたことに深い敬意を表します。先生のその歩みは、後進の研究者や技術者にとって大きな指針となっているに違いありません。
次回は、ロボット研究を「究極の人間学」と定義する菅野教授の思想に触れ、なぜ今、人に寄り添うロボットが必要なのか、産業用ロボットとの違いに迫ります。
次回
「ロボット研究は究極の人間学。“人を支援するロボット”を追い続ける。」新・社長対談第4回 早稲田大学理工学術院教授 菅野 重樹 氏 Vol.2(2026年9月8日公開予定)