社長エッセイ

社長の日曜日 vol.5 清華大学顧問委員会を通じて見る米中関係の現状 2023.05.01 社長エッセイ by 須毛原勲

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 米中関係は新聞報道等を見る限り良好とは言えない状況が続いている。

 このような状況下、中国の名門、清華大学の経済管理学院顧問委員会のメンバーがどのような構成になっているかを調べてみた。

 2022年12月1日時点の清華大学の顧問委員会の委員は全部で63名(対2020年比4名減)。米国から34名(同4名増)、中国13名(同5名減)、ドイツ(4名、同1名増)。日本1名(同1名減)。(出典: 清華大学のホームページ)

 米中関係が緊張していると言われる中、清華大学の経済管理学院顧問委員会のメンバーに占める米国関係者は増えている。

 そもそも、清華大学経済管理学院顧問委員会とはどういう趣旨で設立された組織なのか。

 『2000年10月、清華大学経済管理学院顧問委員会が、初代学部長の朱镕基教授(第5代国務院総理)の積極的な推進により設立された。2000年10月6日、第1回会合が開催され、 初代学部長の朱镕基が演説を行った。

 スピーチの要点は以下の通り。

1.顧問委員会は、世界的に有名な多国籍企業の会長、社長、国際的に有名な学者で構成されており、その質は世界的に著名な大学の経営学部の中でも抜きんでている。

2.委員会の目的は、清華大学経済管理学院と国内外の有名な企業や経営学部との結びつきを強化し、経営学部をうまく運営すること。

3.顧問委員会を通じて、清華大学経済管理学院は、成功した企業経営経験を学び、世界の優れた経営学部の教育内容、方法、手段を学び、常に顧問委員会から経済管理学院の運営に関する助言を受けることができるということ。

 そして、朱镕基教授(設立当時)はこう続けた。

 中国経済は構造調整と改革の深化の重大な時期にあり、外界への開放は新たな段階に入るだろう。 改革、開放、経済発展の課題は壮大で困難なものであり、これらのタスクを達成する鍵は、才能と高品質の技術、管理、リーダーシップである。 したがって、教育レベルを向上させ、良い人材を育成し、誘致することは、我々が直面している重要かつ緊急の課題です。

清華大学経済管理学院は、教員のレベルを高め、学術研究を強化し、国内企業との密接な関係を維持しながら、国際協力を一層強化しなければならないと朱镕基教授は強調した。』(出典:百度百科、原文より著者翻訳。)

 清華大学経済管理学院の顧問委員会が設立されて、今年で23年目となるが、顧問委員会のメンバーを見ると23年経った今でも設立時の趣旨は変わっていないように思える。

 2019年に顧問委員会の主席(Chairman)に選定されたApple CEOのティム・クック(Tim Cook)氏は現在も主席を務めている。主席の任期は3年ということなので、2022年に2期目に入ったことになる。ティム・クック氏が主席を継続しただけでなく、米国からのメンバーは総勢34名で、委員会のメンバー総数64名の半分以上を米国が占めている。昨今の米中の緊張関係を鑑みると、多少は米国からのメンバーが見直されることもありえるのかなと思ったが、全くそのようなことはなく、米国の経営者・大学等から学ぶことがあれば、学ぶべきという考え方は継続していることになる。

 主席(Chairman)にTim Cook氏、名誉委員(Honorary members)元米国務長官、元ゴールドマン・サックス元会長兼CEOのHenry M. Paulson, Jr.氏(継続)とウオールマートの元CEOのH. Lee Scott, Jr.氏(継続)。

 委員(メンバー)も錚々たるメンバーが名を連ねている。

  General Motors CompanyのMay T.Barra氏。(継続)

  Dell TechnologiesのMichael Dell氏(継続)

  MicrosoftのSatya Madella氏(継続)

  TeslaとSpace XのCEOのElon Musk氏(継続)

  Meta(元Facebook)のMark Zuckerberg氏(継続)※(中国ではFacebook使用禁止)

 米国からは、他にも、著名なコンサルティング会社、大学からも錚々たる人たちがメンバーになっている。JPモルガン、ゴールドマン・サックス、Breyer Capital, BalckRock、KKR、Blackstone、マッキンゼー、エール大学、MITスローン大学、スタンフォード大学、ハーバード大学ビジネススクール等々。

 日本からはソフトバンクの孫正義氏のみ。2020年当時はソニー元会長の出井伸之氏がメンバーであったが、出井氏が2022年6月に逝去されたあと、日本からのメンバーの追加はなかったことになる。

 ドイツからは4名。シーメンス、メルセデス・ベンツ、BMWとSAPからそれぞれ1名。

 自動車業界からのメンバーで言うと、米国からはGMとテスラの2社がメンバー。イーロン・マスク氏は2019年からメンバーになっている。テスラが上海にギガファクトリーを設立した時期と重なる。ドイツからはメルセデス・ベンツとBMWの2社。

 米中関係においては、政治的な緊張が続く一方で、経済界のリーダーたちが相互に学び合い、協力し続けていることが、清華大学経済管理学院顧問委員会のメンバー構成から明らかである。この事実は、国際ビジネスの観点から見ると、両国間の関係にはまだ柔軟性と協力の余地があることを示している。

 また、清華大学経済管理学院顧問委員会のメンバー構成からは、中国が今後の経済発展において、特に技術革新や新興産業に焦点を当てていることがわかる。例えば、テスラのイーロン・マスク氏がメンバーに選ばれていることは、中国が電気自動車産業や持続可能なエネルギーの分野に関心を持っていることを示している。

 さらに、米国企業のトップリーダーや著名な大学からのメンバーが多数参加していることは、中国が経済発展のために世界最高水準の知識や経験を取り入れる姿勢を維持していることを示していると同時に、これらの米国企業のリーダーや大学関係者がメンバーを引き受けていることは、彼らも中国市場の重要性を認識し、中国の経済発展に寄与したいという意思を示していると言える。

 3月27日、中国の北京にてChina Development Forumの年次総会が開催されティム・クック氏が参加。中国の王文濤商務相はティム・クック氏と会談し、同社の中国での発展について意見交換と大きく報じられた。

 また、今年3月末から4月にかけては、イーロン・マスク氏の母親のMaye Musk氏が出版本の宣伝を兼ねて中国各地(武漢、広州、厦門、成都等)を訪問し、Twitterに中国への賛辞をアップし続けた。

 米中関係の複雑さや今後の展開については、「いろいろな見方がある」と言うことを念頭に置く必要はありそうだ。

4月28日記    (2021年9月掲載https://sugena.co.jp/president_report/post-1383/改稿)

by 須毛原勲

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