『ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク』2023が5月24日から26日まで東京ビッグサイトで開催された。イベントは、ワイヤレス関連の最先端技術とその研究開発に焦点を当て、特に5G関連製品の展示が目立った。
最終日にはNTT東日本の渡辺氏によるローカル5Gについての基調講演が行われ、その大きな可能性が語られた。しかし、社会実装には時間がかかりそうで、多くの事例がまだ実証実験の段階だと述べられた。渡辺氏曰く、「自動運転が普及すれば、ローカル5Gの重要性は飛躍的に増すでしょう。しかしそれまでの間に、スマート製造(デジタルツイン)、AVGやAMRを活用したスマート倉庫といった分野での活用が本格化し、ローカル5Gの必要性が増していくと予想されます。ローカル5Gと第6世代のWi-Fi6のどちらが優れているかについての議論もありますが、どちらも有利な面と不利な面が存在します。それぞれの選択は状況に応じて行われ、特定の目的と使用環境により使い分けられるべきでしょう。これら2つの技術は、互いに排他的ではなく、将来的には共存していくと考えられます。」
単にローカル5Gを採用することが目的となるような実証実験ではなく、その投資コストに見合った生産性向上、利便性の強化、効率化の推進、費用削減、あるいはエンタテインメントとしての感動を提供するなど、実際に効果を実感できる応用シーンがなければ、本来的なローカル5Gの普及促進は難しいと考えられる。新しい技術の導入とその変革期は必然的に時間を要する。その過程を乗り越え、ビジネスとして成熟させることが可能かどうか。今回のイベントは、これらの問いについて深く考える機会を提供してくれた。
さて、先週のこのブログで世界のユニコーン企業について触れたが、今週は中国のユニコーン企業について考えてみたい。
CB Insightによると、2022年末の世界のユニコーン企業は1206社に達したとのこと。中国は、コロナ禍による厳しい経済環境下においても、ユニコーン企業数が169社に到達した。これは世界のユニコーン企業全体の14.0%を占める。(先週の「社長の日曜日」で170社と記載しましたが、169社の誤りでした。訂正してお詫び申し上げます。)
中国のユニコーン企業のTOP10は以下の通り。
所在地 | 時価総額($B) | 業界 | URL | ||
1 | ByteDance | 北京 | 225.0 | AI | https://www.bytedance.com/zh/ |
2 | SHEIN | 南京 | 100.0 | E-Commerce | https://www.sheincorp.cn/ |
3 | Xiaohongshu | 上海 | 20.0 | E-Commerce | https://www.xiaohongshu.com/ |
4 | Yunfudao | 北京 | 15.5 | Edtech | https://www.yuanqisenlin.com/ |
5 | DJI Innovations | 深圳 | 15.0 | Hardware | https://www.dji.com/ |
6 | Yuanqi Senlin | 北京 | 15.0 | Retail | https://www.yuanqisenlin.com/ |
7 | Bitmain Technologies | 北京 | 12.0 | Hardware | https://www.bitmain.com/ |
8 | Xingsheng Selected | 長沙 | 12.0 | E-Commerce | https://www.xsyxsc.com/ |
9 | ZhongMu Technology | 上海 | 11.4 | Auto&Transportation | https://www.zongmutech.com/ |
10 | Chehaoduo | 北京 | 10.0 | E-Commerce | https://www.guazi.com/ |
第1位は断トツでバイトダンス。バイトダンスは、テクノロジー企業で、2012年に設立された。TikTokの親会社であり、世界中で最も人気のあるショートビデオアプリを提供している。最近、ヤクルトの村上選手を起用してTVCM等で大々的なキャンペーンを展開しているLARKという統合型ビジネスプラットフォームは実はバイトダンスのソリューションである。
第2位のSHEINはオンラインファストファッション小売業者で、2012年に設立された。世界150カ国・地域でECサイトやアプリを展開しており、日本にも2021年に本格進出し、現在では広く若い世代に受け入れられている。
第3位のXiaohongshuは、ソーシャルメディアプラットフォームで、主にファッション、美容、ライフスタイルに関するコンテンツを提供している。また、小売業者が製品を販売することが可能である。2013年に設立され、現在は中国で最も人気のあるアプリのひとつである。
第4位のYuanfudaoは、小中学生にサービスを提供する最大のオンライン学習プラットフォームで、2012年に設立された。現在100万人を超える有料ユーザーがおり、幼稚園から高校までの義務教育をカバーしている。中国で最も評価額の高いEdTech企業のひとつである。
第5位のDJI Innovationsは、ドローンメーカーで、2006年に設立された。世界で最もよく知られたドローンメーカーのひとつであり、市場シェアは約70%。消費者向けのドローンから、プロフェッショナル向けのドローンまで、幅広い製品を提供している。
第6位のYuanqi Senlinは、健康食品メーカーで、2016年に設立された。健康食品、スポーツ栄養補助食品、および健康飲料を提供している。中国で最も急成長している健康食品ブランドのひとつである。
第7位のBitmain Technologiesは、ASICチップメーカーで、2013年に設立された。仮想通貨マイニング用のASICチップを製造しており、世界中の仮想通貨マイニング市場で最も有名な企業のひとつであり、世界中で最も急成長しているテクノロジースタートアップのひとつでもある。
第8位のXingsheng Selectedは、eコマース企業で、2014年に設立された。主に家庭用品、美容用品、および健康食品を販売。中国で最も急成長しているeコマース企業のひとつである。
第9位のZongMu Technologyは、AIスタートアップで、2016年に設立された。自動運転車のためのAIソリューションを提供しており、自動運転車の開発において世界的に有名な企業のひとつである。
第10位のChehaoduoは、中古車販売プラットフォームで、2015年に設立された。中古車の販売、交換、買取、保険などのサービスを提供している。
TOP10のユニコーン企業は多様な分野から成り立っている。DJIを除けば、創業から約10年という比較的若い存在でありながら、短期間で急速に成長を遂げている。共通していえるのは、中国という広大な市場で競争に勝ち抜く一方で、早い段階でグローバル展開を行っている点。更に、TOP10のうち6社は米国の投資会社セコイアキャピタルチャイナから出資を受けていることも注目点。
セコイアキャピタルチャイナだけでなく、KKRやIDGなど他の米国の投資ファンドからも出資を受けており、米国の投資資金が中国のイノベーションを後押ししていると言える。特筆すべきは、バイトダンスにはソフトバンクグループからも出資があったという点。
TikTokやSHEINなど、たった10年前に設立された企業が短期間でこれほどまでに成長し、世界的な脅威にさえなっているという事実に驚愕する。
次に、中国の省別・直轄都市のユニコーン企業の数は以下の通り。(注: 中国の政府直轄都市は、北京市、上海市、重慶市、天津市の4つ。)
省・直轄都市 | 企業数 | |
1 | 北京市 | 61 |
2 | 上海市 | 39 |
3 | 広東省 | 26 |
4 | 浙江省 | 16 |
5 | 江蘇省 | 10 |
6 | 四川省 | 5 |
7 | 安徽省 | 3 |
8 | 重慶市 | 2 |
9 | 湖南省 | 2 |
10 | その他 | 5 |
北京について見てみると、e-Commerce系の企業が11社、AI関連企業が10社、モバイル・通信系が8社、インターネット関連が6社と多様な分野に広がっている。
上海では、自動車と交通関連の企業が7社、e-Commerceが5社、ハードウェア関連が4社という構成となっている。
深圳には20社のユニコーン企業が存在し、その中でハードウェア関連企業が7社を占めている。一般的には、北京はインターネットやソフトウェア系の企業が集まる一方、深圳は製造業系の企業が多いと言われている。
中国では”北上広深”という表現をよく使われる。これは北京、上海、広州、深圳の四つの都市を指す言葉である。しかし、ユニコーン企業の数で見ると、広州市には5社しか存在せず、深圳の20社と比較すると大きく差がある。深圳が「イノベーション都市」と呼ばれる理由のひとつである。
北京、上海、深圳のTOP3以外では、アリババの本拠地の杭州が省都である浙江省が16社、そのうち杭州に15社、紹興市に1社。次に江蘇省が10社、その内、省都の南京市に5社、蘇州市に2社、常州市に2社、無錫市に1社。四川省には5社、安徽省には3社、重慶市には2社、湖南省にも2社。これまでは北京、上海、深圳などの都市からユニコーン企業が多く生まれてきたが、今ではそれが多くの都市に広がっていることも見受けられる。
私が初めて深圳を訪れたのは1995年、今から28年前。当時、中国国内での複写機の直接販売の仕組み作りに取り組み、深圳の工場に約1ヵ月間滞在した。その頃の深圳は劣悪な環境で、二度と訪れたくないと思うほどだった。実はその最悪な印象のため、その後何度か中国への駐在を断ったことがある。しかし、現在の深圳はグレーターベイエリア構想(注、下記参照)の中心地となり、イノベーションの聖地とも称され、まさに別世界となっている。
中国の現状を理解するためには、実際に中国を訪れて見るのが最良の方法だと思う。
街を自分の目で見て、人々と交流する。五感を使って中国を体感する。何かを必ず感じると思う。
いつか皆さんにそのような機会を提供したいと思っている。
注「グレーターベイエリア構想」
2017年にスタートした、中国による、香港・マカオ・広東省の3地域を統合して世界有数のベイエリアとして発展させる構想。面積約56,100㎢、人口約6,900万人、GDP規模約1.5兆米ドルの地域を、国際金融・運送・貿易の三大センターとし、2030年までにGDP規模で東京・ニューヨークを追い越そうとするもの。
5月28日記