社長エッセイ

社長の日曜日 vol.12 富士山を車窓から眺めながら 2023.06.19 社長エッセイ by 須毛原勲

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 梅雨に入り、ジメジメした蒸し暑い日と真夏のようなカラッと暑い日が交互にやってきている。今週は久しぶりに大阪へ出張した。起業して3年、何度か大阪を訪れているが、今回は約1年ぶりの大阪だ。

 大阪へ向かう際はいつも進行方向右側の窓側の席を予約する。天気が良ければ早朝の美しい富士山を見ることができるからだ。今回も運は味方しており、晴天の下で綺麗な富士山を眺めることができた。車窓から富士山を見つめながら、上海駐在から帰任して北京に再度赴任するまでの間の約1年間、商品開発統括部長の任にあった時期に、静岡県の三島工場に通っていたことを思い出す。新製品の開発が重要なフェーズを迎えていたため、ほぼ毎週三島工場を訪れていた。車窓の富士山に、あの頃の記憶が鮮明によみがえってきた。

 商品企画や商品開発とは一体、どのようなプロセスを経て進められるべきなのだろうか。私の経験をもとに少し振り返ってみたい。既に市場に出ている商品ラインナップの後継機の開発を進める場合、以下のような多様な視点からの課題解決を目指し、開発が進行する。

 まず、顧客の視点から考える。これには、顧客が求める新しい機能の追加や利便性の改善などが含まれる。例えば、最近アップルがMacBook Airの15インチスクリーンの新しいモデルを投入したが、顧客のMacBook ProとMacBook Airの中間的な商品で且つ大きめのディスプレイがほしいという要求を満たすべき商品として導入されている。

 次に競合の視点。これには、競合他社の商品との競争力向上のための対策が必要。競合他社が継続的に新製品を開発し上市してくる。現時点で業界最高の仕様であっても、いずれ競争力は相対的に劣化していく。継続的な新製品の開発と市場への投入が必要となる。さらにコスト構成の視点から見ると、コスト削減のための設計変更や新たな部品の採用、基幹部品の調達先の変更などが求められることがある。部品の調達先への継続的なコスト削減のチャレンジにも限界が来る。コスト削減の実現のための新たな技術開発も必要となる。

 次に安全規格・環境規格の視点を視野に入れる必要がある。商品にもよるが、求められる安全規格や環境規格が変更されることがある。多くの場合、より厳しくなる。品質改善の視点からは、時折生じる品質問題に対して、場当たり的な対応ではなく抜本的商品ラインナップを見なす必要に迫られることもある。

 最後に、営業の視点。定期的に新商品の導入が必要となる場面がある。新しい商品を市場に投入することにより、顧客へのアプローチが可能になる。

 以上の課題は、それぞれが相互に絡み合ったり、時にはひとつの課題の解決が別の課題との矛盾を生み出したり、新たな課題を生み出したりもする。これらの課題を、限られた開発陣リソース、限られた時間、限られた予算という制約の中で、可能な限り多く実現することが、商品開発そのものと言える。機能を増やしたら、販売価格を上げることが可能なのか、仮に販売価格を据え置いたら、販売台数は増えるのか。そもそも、その機能が欠けている状態で現在の販売をなんとか維持しているのであって、機能が増えても台数は増えない、云々という議論が繰り返される。開発納期が少しでも遅れれば、現行製品の生産をどれだけ増やす必要があるかなどという生産管理の議論も必要となる。「商品開発」という一瞬華やかな響きの言葉の実態は、調整、すりあわせという地味な作業の繰り返し、根気と粘り強さが必要な作業である。

 商品企画のプロセスを通じて多くの事を学んだ。

 ひとつ目は部品点数を可能な限り押さえること。ネジの数さえ意識して数を減らす。二つ目は、商品ラインナップの中での共通部品を増やすこと。三つ目は、汎用部品を出来るだけ多く採用し、専用部品の開発は本当に専用部品でなくてはならない基幹部品の開発にとどめる。四つ目は、お金をかける必要があるところにはお金をかけること。顧客がその価値を評価することに対してはきちんとお金をかける必要がある。この塩梅が非常に難しい。デザインがスタイリッシュだからとか、その時の担当者の好みとか、根拠に欠けたある意味恣意的な理由で高い材質の筐体を採用したりすると長期に亘ってコストに多大なネガティブな影響を与えたりもする。

 「パーセプションギャップ」という言葉が広く知られている。パーセプションギャップとは、実現させる機能のコストとお客様が感じる価値の間にギャップがあるということ。主にマーケティングや商品企画のプロセスにおいて使われる用語で、それは「認識のギャップ」を指す。この概念は、製品やサービスの提供者とその消費者との間で、その製品やサービスについての認識や評価に違いが存在する状況を指すことが多い。たとえば、企業が自社の製品を「高品質で価値ある製品」と評価していても、消費者がそれを「価格が高いだけで、他の同等の製品と比べて特別な価値を見出せない」と感じている場合、これはパーセプションギャップの一例と言える。このギャップを理解し、適切に対応することは、商品企画やマーケティング戦略において極めて重要だ。消費者の視点やニーズにより適切に対応することは、製品やサービスを成功させるための鍵となる。

 辛い地味な作業の繰り返しの商品企画のプロセスであるが、その商品が形になった時には達成感を味わえる。モックアップサンプルでさえ愛おしい。その商品が市場に出て、販売代理店やお客様に評価され、実際に販売の数字が上がって来ると、初めて報われたと思うのである。

 毎週水曜日の三島工場での商品開発会議の思い出は、今となっては全て楽しい思い出として車窓に過ぎていった。三島に毎週通っていた時、駅の売店でよく温泉まんじゅうを買って帰ったのを思い出した。

 大阪では温泉まんじゅうは買えないけれど、名物の豚まんとチーズケーキを長蛇の列に並んで買って帰った。

6月18日記

by 須毛原勲

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