社長エッセイ

社長の日曜日 vol.13 11冊目のパスポート 2023.06.26 社長エッセイ by 須毛原勲

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 夏至を迎え、朝の日差しが強くなってきている。日焼け止めを塗ってジョギングに出掛ける日々だ。

 先週、天皇皇后両陛下がインドネシアを国賓として公式訪問された。今年は日本とインドネシアが平和条約を締結して65年、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本の友好協力関係も50年という節目の年である。両陛下のインドネシア訪問のニュースが毎日のように報じられ、天皇陛下がジョグジャカルタにある世界遺産ボロブドゥール寺院遺跡を視察されたことも伝えられた。

 私も6年間のシンガポール駐在時代にインドネシアを何度も訪問した。とは言っても、その訪問はほとんどがビジネスで、大半は首都ジャカルタへのものだった。一方、バリ島には代理店会議を開催するために何度か訪れたし、家族とも行ったことがある。今回、天皇陛下がご訪問になられたボロブドゥール寺院遺跡群があるジョグジャカルタにも、私自身2003年に訪れた。ジョグジャカルタは人口約60万人という規模で、市場としては特に大きいわけではない。しかし、シンガポールを離れる前に一度訪れておくべきだという代理店責任者のアドバイスを受け、共に訪れた。今回の天皇陛下ご訪問のニュースに触れて、不思議なことにずっと忘れていた当時のボロブドゥール寺院遺跡群の風景が鮮烈に蘇ってきた。一緒にジャカルタからジョグジャカルタまで行って案内してくれた代理店のセニワティさんの明るい笑顔まで鮮明に思い出した。懐かしい。

 インドネシアの学生とお会いになった際の天皇陛下のお言葉がユーモアに富んでいた。日本のアニメの「ナルト」が好きだという学生に、天皇陛下は「私は徳仁(なるひと)です。」と返したとのこと。「特に関係はないんですけどね。」と続けたという。微笑ましいエピソードである。

 私がインドネシアとのビジネスに関わっていた当時もインドネシアは親日的な国だったが、今回の天皇皇后両陛下のご訪問をきっかけに両国の関係が更に発展していくことを願い、私もビジネスの世界で微力ながら尽力したいと思っている。

 さて先週に続いて、商品開発の話を。

 前回、商品の全ての部品を自社で開発・製造することは殆ど無いと書いた。商品開発には、OEM(Original Equipment Manufacturing)やODM(Original Design Manufacturing)という開発手法もある。OEMは委託者のブランドで製品を生産することであり、ODMは委託者のブランドで製品を設計、生産すること。

 OEM生産では、委託者が製品の詳細設計から製作や組立図面に至るまで受託者へ支給し、場合によっては技術指導も行うような場合もあれば、単に受託者が自社ブランドで開発製造している商品を多少のカスタマイズを加えて、委託者のブランドをつけて製造してもらう場合もある。いろいろな商品で広く行われているが、ブランドは違うが実は中身は殆ど同じ商品ということである。

 ODMは、台湾や中国の企業が受託者としては多く、製造する製品の設計から製品開発まで受託者が行う。パソコンや携帯電話等において幅広く採用されている方式である。台湾のFOXCONN(鸿海精密工業、現シャープの親会社)が有名である。私自身は、他社から商品をOEM調達することに関わったこともあるし、自社製品を他社ブランドでOEM提供することに関わったこともある。

 顧客の視点や販売代理店の視点から、ラインナップ上どうしても必要な製品ではあるが自社開発するほどのリソースをかけたくない場合に他社からOEM調達するという判断をする場合がある。俗に”OEMで引いてくる”という言い方もする。逆に競合他社から他社のブランドで売らせてくれという話が来ることもある。それぞれの市場でのブランドのポジショニングや力関係のバランスもあり、OEMで他社ブランドで売りたい場合もあれば、売られたくない場合もある。規模としてメリットが出る場合もあれば、市場で摩擦が起きる可能性もあり、結果的に市場での販売価格に影響したり、ブランドが毀損したりしてしまう可能性もなくはない。勝手なもので、自分が担当している市場で販売戦略上OEMでさえも製品を引きたい場合は、「オリジナルブランドと自社ブランドの市場での摩擦はない」と主張し、逆に他社ブランドでOEM供給する場合は、摩擦があるから売りたくないといったりもする。ODMについては、自分は直接関わった経験はないが、例えばPCであれば、FOXCONNの上海の工場では殆どのPCメーカーの商品をODMで開発・製造していた時期もあったようだ。

 一方、OEMやODMの手法を活用した場合でも、ブランドを守るためには全てのプロセスを把握しコントロールしていかなければならない、”はず”ではある。商品開発とは、究極、ブランド戦略である。そのブランドでそのカテゴリーで顧客に提供したい価値は何なのかを見極めることである。その価値の提供のために、自社の開発・製造が優位であれば自社を活用するだけの話であり、先に自社を使うという選択肢があるわけではない。どの商品を自社で開発するのか、自社で開発するとしてもどの基幹部品を自社開発するのか、調達するのか、もしくはOEM調達やODM調達するのか、選択、判断することが商品開発戦略そのものである。

 ブランド戦略と継続的な競争優位性を維持するために、戦略はどんどん変わって行くし、むしろ変わらなければならない。アップルがインテル製CPUから自社開発したチップM1に切り替えたのは大きな開発戦略変更の決断の一例である。

 今週、パスポート更新の手続きをした。11冊目のパスポートとなる。毎回更新時には増補(ページ数を増やすこと)をして発行してもらっていたにもかかわらず、最初にパスポートを作った85年から38年間で11冊目となった。13年間の中国駐在中は基本的には中国国内出張が殆どだったので、パスポートを一番使ったのはシンガポール駐在時代の1998年から2003年までの6年間。増補したパスポートが一年ちょっとでページが無くなり更新せざるを得ないくらい出張していた。

 今回、パスポートを更新するにあたって、今までのパスポートナンバーを思い出せなかった。海外駐在が長くて日本の自宅の郵便番号を思い出せないことはあっても、パスポートナンバーを忘れたことはなかったのに・・・。コロナ禍でパスポートはずっと引き出しに眠って出番を待っていた。更新が済んで、出張の予定を組む日々の再開だ。

 11冊目のパスポート、自分の人生であと何冊のパスポートを手にするのだろう。

6月25日記

by 須毛原勲

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