社長エッセイ

社長の日曜日 vol.20 酷暑の夏休み 2023.08.21 社長エッセイ by 須毛原勲

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 学生の頃から週刊文春を愛読している。何気なく居間に置きっぱなしにしていた表紙を見て、「あっ、この花、ノウゼンカズラね。今ちょうど神田川沿いに咲いているのに気が付いた?」と妻。週刊文春の表紙は、和田誠さんが亡くなった現在もそのイラストが表紙を飾っていて『表紙はうたう』という短い和田さんのコメントが添えられている。「この花は中国から渡来した植物だそうです。名前はノウゼンカズラ。つる草の一種で、他の木にからみついて育ち、夏、高いところに花を咲かせる。ある植木屋さんが脳天に花が咲くからノウテンカズラだと言ったことがあって、ぼくは長いこと脳天カズラだという名だと思いこんでいました。」と書かれていた。

 妻と私は毎朝同じジョギングコースを走っているが、その道すがら気付くものが微妙に違って面白い。季節毎に咲き誇る花には私も気づく方だが、ノウゼンカズラには気づかなかった。そもそも、私はノウゼンカズラという花を知らなかった。妻も以前は知らなかったらしいが、中国のドラマ『如懿伝~紫禁城に散る宿命の王妃』(乾隆帝の寵愛を受けた如懿の物語)の中で、乾隆帝が冷宮にて冷遇されている如懿を慰めるために、薬草にもなるノウゼンカズラを贈った際、「お前はノウゼンカズラのような、どこででも花を咲かせられるような(逞しい)女だ。」というメッセージが込められていたとのこと。そのエピソードのとおりで、気付けば神田川沿いの遊歩道の所どころに、この炎天にもかかわらず道を塞ぐほど蔓を伸ばして咲いている。逞しい花だ。

 お盆休みに合わせて短い夏休みを取った。

 大安且つ一粒万倍日の8月10日に鹿島神宮を参拝した。「一粒万倍日」とは、特に吉日とされ、この日に行われる行事や始める事業、植物の種をまくことなどが、一粒の種から万倍の実りが得られるとされている。特定の行事を行ったり、新しいことを始めたりするには吉日と、多くの人に信じられている。

 鹿島神宮は茨城県鹿嶋市に鎮座する歴史ある神社で、日本の神々の中でも武の神、タケミカヅチを主祭神として祀る。古事記や日本書紀といった古典文献に名が記されるほど、日本神話に深く関わる神社の一つである。鹿島神宮が「パワースポット」として称される所以は、古来、武芸や武士の信仰の対象として特に武運や厄除けの神としての側面が際立っているからであり、その歴史は古く、約2600年前の創建とされる。古代からの熱い信仰を受け、多数の武士や武芸者が祈願のために足を運んできた。このような背景から幾多の人々に親しまれている神社にもかかわらず、茨城県出身であることを誇りに思う自分が、今まで一度も参拝したことがなかった。

 起業4年目を迎え、「株式会社SUGENA」へ社名変更をした。これを機に、事業のさらなる発展や社員の安全、そして心願成就を祈願した。その日は36℃を超える酷暑だったが、裏参道を通り奥宮、要石、芭蕉句牌、そして御手洗池へと続く道は、美しい森林に囲まれており、木漏れ日とともに時折吹き抜ける涼しい風によって、厳かな気持ちになった。御手洗池から湧き出る清水で調理された蕎麦を味わいながら、思索にふけった。東京駅からバスで2時間半。丸一日がかりの小旅行だったが、今後毎年参拝に行こうと心に決めた。

 夏休みに読んだ本の中から1冊。

「半導体戦争(世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防)クリス・ミラー著」は、現代における半導体というモノの重要性を改めて認識させるために書かれた本であるが、一方で、日本企業の衰退の歴史でもある。

 半導体の世界で日本企業が世界のトップに君臨していた時代は確実に存在していた。DRAMの世界シェアをほぼ日本企業が独占していた時期もあった。現在携帯電話等で無くてはならない存在のNAND型フラッシュメモリを発明したのは、東芝の技術者だった舛岡 富士雄氏。NAND型フラッシュメモリが無ければ、今のようなスマホの世界は誕生していなかっただろう。NAND型フラッシュメモリーの発明は単なる半導体の発明にとどまらず、モノ、生活スタイル、生き方を大きく変革し、革命に近かった。(東芝のNAND型フラッシュメモリ事業は、東芝本体の原子力事業に起因する大幅な債務超過問題により、2017年分社化。2019年、東芝メモリホールディングス株式会社からキオクシアホールディングス株式会社となっている。)

 1992年に東芝が技術提供したサムソン電子は、その後巨額投資を重ねて東芝を追い抜いて、世界のフラッシュメモリーのシェアで首位に立っている。半導体市場は莫大な投資が必要でありながら、市場の浮き沈みが非常に大きく、大きな利益を生み出す時もあれば、逆に大きな損失をも生み出す。その振り幅の大きさ故に、不況時に投資を継続できずに撤退を余儀なくされてしまう。サムソンはフラッシュメモリーで世界シェアナンバー1だけでなく、DRAMでも世界シェアナンバー1を維持している。DRAMといえば、昔は日本企業の独壇場だったが、その後日本企業は悉くDRAMの開発・製造から撤退を余儀なくされた。日本政府が今になって懸命に日本の半導体産業を支援しようとしているが、あの頃そういう動きがあれば、と忸怩たる想いを抱く人は少なくないだろう。一方で未だにDRAMを開発・製造しているサムソンは、DRAMとNANDフラッシュメモリーを顧客により売り分けることが可能となっている。

 北京駐在時代に、東芝の元社長(半導体事業部出身)が北京出張に来られた時にひとり言のようにおっしゃった言葉が忘れられない。「自分がそのディシジョンに関わっていたら、DRAM事業からは絶対撤退しなかった。」

 この凋落の歴史をまさに目の前で見てきた自分にとって、この本は重く、読み終わった後、言葉にできない感情が湧き上がった。

 さて、夏休みが終わって通常の仕事モードに戻り、渋谷に行った。

 猛暑の中で渋谷のスクランブル交差点を行き交う人の多さには辟易としたが、外国人の多さにも驚いた。交差点を渡りながら、自撮り棒で写真(動画?)を撮って歩いている外国人が多かった。公園通りで2階建ての観光バスにすれ違うと、アッパーデッキに座っている人はほぼ全員が外国人だった。

 日本政府観光局の8月16日の発表によると「7 月の訪⽇外客数は、2019 年同月比 77.6%の 2,320,600 人となり、200 万人を突破した前月から約 12%増と大幅な増加を⾒せた。なお、⽇本⾏きの海外旅⾏制限措置が続いていた中国を除く総数では 2019 年同月比 103.4%と、新型コロナウイルス感染症拡大前の実績を上回っている。」「地域別では、韓国等をはじめとした東アジア地域において訪⽇外客数が増加したこと、また、特に米国やカナダにおいて 2019 年同月比を超える実績となったことが今月の押し上げ要因となった。」とのこと。

 日経新聞によると「中国政府は10日、日本や米欧、韓国を含む世界78カ国・地域への団体旅行を新たに解禁したと発表した。新型コロナウイルスの影響で2020年1月に禁止して以来、約3年半ぶりの再開だ。」

 今でも十分に外国人のインバウンドが多い中で、中国人の団体旅行が解禁されたら大挙して押し寄せてくるだろう。日本経済にとってはいいことなのだろうが、各地で既に問題になっているようにオーバーツーリズムの問題もある。以前は、「爆買いをしてくれるがお作法がよくない中国人」というイメージがあった。コロナ禍の3年間を経て、どのように変わったのか、変わってないのか。変わっていてほしいなと願う。

 多くの中国人が日本を訪れ、日本の文化に触れ、日本人と交流する機会が増え、お互いにいい印象を持てるようになればと切に願う。

8月20日記

by 須毛原勲

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