社長エッセイ

社長の日曜日 vol.21 海外の国と付き合うということ 2023.08.28 社長エッセイ by 須毛原勲

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 ここ数日、朝の涼しい時間帯を捉えるよう、ランニングを始めるタイミングを30分早めてみた。その甲斐あって心地よい早朝の風の中でいつもの10キロコースを走り終えると、近所の公園のラジオ体操に間に合った。久しぶりのラジオ体操は日頃使わない筋肉を使うからなのか、それなりのいい運動だった。公園に集まる高齢者たちは、見知らぬ者同士でも気軽に挨拶を交わす。その一言から、「今日もこの人は健やかに過ごしているんだな」という安堵と暖かさを感じることができる。ラジオ体操のメロディーに合わせ、40-50人の人たちが一生懸命に動き出す姿は、彼らの生きる力と積極的な姿勢を物語っている。聞けば、ここでのラジオ体操は20年以上も公園の風物詩として続いているとのこと。驚くことに多少の雨でも彼らは欠かさず現れるらしい。そこに混じり、その日常の一部としてラジオ体操に参加することは、私にとっても心豊かな時間となるだろうと感じる。これからも少し早起きしてラジオ体操に参加したいなと思う。

 ハンガリーブタペストで開かれている陸上の世界選手権で女子やり投げの北口(はる)()選手が初優勝した。五輪を含め、陸上のフィールド競技で日本人女子が優勝するのは史上初の快挙だそうだ。今大会のメダル候補としてメディアでも度々取り上げられていた選手で、スポーツ大好きの私もここ数年注目していた。決勝の最後の6投目。圧倒的なプレッシャーの中での大逆転勝利は感動的だった。

 彼女は、チェコの人にコーチになってもらうべく直接アプローチしてチェコへ行き、今やチェコ語も流暢に話すという。凄い行動力である。大きな目標に向けあらゆる努力をし続けてそれに辿り着いた。「今日だけは本当に世界で一番幸せ。」彼女は続けた。「トップで居続けることは簡単ではないが、できる限りトップでいられるように努力したい。」清々しい中に決意のこもった彼女の表情が素敵だった。

 一方、残念なニュースも入ってきた。大谷翔平選手が右肘の側副靱帯損傷で今季は投手としては投げないという。DHとしては出場し続けるというその言葉通りに、米国時間の26日の試合にも出場して2安打を放っている。今後、手術をするのかどうかは現段階では分からないとのことだが、二刀流は諦めないでほしいなと思う。世界中の日本人が彼の前人未到の挑戦に勇気と希望をもらっていることは疑う余地はない。

 さて、日本政府は発表どおり24日、東京電力福島第1原子力発電所で12年間貯蔵されていた処理水の海洋放出を始めた。この放出は国際的な安全基準に合致しているとはいえ、放射能に関する知識や理解に資する情報格差、また、歴史的な背景などが絡むため、様々な立場からの声が挙がっている。福島原子力発電所の敷地内に配備されている1,000基以上のタンクには現在、約134万トンの処理水が蓄えられており、早ければ2024年にはその最大容量に達すると予測されている。今年度はまず3万トンあまりを流し、放出完了までに30年かかるとのこと。(以上、日経新聞等各種報道より)

 これに対し中国は猛反発。中国税関総署は24日、日本産の水産物輸入を同日から全面的に停止すると発表した。中国当局の発表資料では詳細な対象品を示していないが、現地の日系水産会社の幹部は「生鮮品や冷凍品、乾燥品もすべて輸入できない。」と解釈する。缶詰などの加工食品も禁輸対象となった模様だ。中国は原発事故を理由に2011年以降、福島、宮城、東京など10都県産の水産物を含むほぼ全ての食品の輸入を禁止し続けていた。税関総署は今回、中国の消費者保護や輸入食品の安全確保のために全面禁輸に踏み切ったと主張した。中国の国家市場監督管理総局は25日、中国国内の食品業界の経営者に対し日本産水産物の購入や加工、スーパーやレストランでの提供を禁じると発表した。ネットでの販売も禁じる。

 今回放出されたような原発からの処理水をALPS処理水と呼ぶ。ALPS処理水とは、放射性物質が含まれる汚染水を、多核種除去設備(「ALPS」(アルプス)は「Advanced Liquid Processing System」頭字語:ALPS)などを使用し、トリチウムや炭素14を除く62種類の放射性物質を国の規制基準以下まで浄化処理した水のことである。

 経産省はALPS処理水の安全性を伝えるために、特別なホームページを開設している。

「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と題してイラストと図で分かりやすく解説している。https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/no4/

しかしながら、日本語と英語でしかサイトの内容は読めない。安全性を最も伝えるべき中国や韓国の人たちには伝わらないかもしれない。因みに中国ではALPS処理水とは言わず、「核廃水」もしくは「核汚水」と呼んでいる。

 公明党は26日、山口那津男代表が28〜30日に予定していた中国訪問を延期すると発表した。中国側から「当面の日中関係の状況に鑑み、適切なタイミングではない」との意向が伝えられたと説明した。山口氏は習近平国家主席との会談を打診していた。岸田文雄首相から習氏への親書を携え、日中首脳会談の開催に向けて地ならしをする想定だった。訪中延期は今秋に模索している日中首脳会談の実現に影響を与える可能性がある。(各種報道より)

 放出以降、放水とは無関係な日本国内の個人や団体に対し、中国からの抗議の電話が相次いでいるという。SNSで日本の化粧品の不買を呼びかける動きもあるらしい。中国東部の山東省青島市の日本総領事館によると、同市にある日本人学校で24日、中国人が石を投げ込む事件が発生した。既に公安当局に拘束され、学校の施設や生徒、教師らに被害はなかったという。学校は保護者に登下校時などの安全に注意するよう伝えた。(各種報道より)

 私が中国に赴任した2004年。小泉(当時)首相の度重なる靖国神社訪問をきっかけに急速に激化した反日感情の波は各地に広がりをみせていた。忘れもしない2005年4月16日土曜日。上海日本総領事館周辺には1万人以上が集まり、ペンキ、卵、果物などを総領事館に向かって投げつけた。上海市内では、暴徒により日本料理店など10軒以上が壊された。上海日本総領事館の壁に残った暴動の跡はしばらく消されることはなかった。

 当時、私は家族を帯同し上海に駐在していた。家族はタクシーに乗る際、自分たちが日本人だとさとられないように、韓国人のふりをしていたという。子どもが通うスクールバスのボディからは、日本人が多く住むコンドミニアムの名前が安全のために消された。家族に本当に辛い思いをさせてしまったあの頃の記憶が蘇る。

 今年は日中平和条約の発効から45年を迎える節目の年である。

 今こそ、お互いの理解と協力が求められる時だと思う。

8月27日記

by 須毛原勲

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