先週、私は横浜を二度訪れた。横浜は私にとっては馴染み深い街である。かつて叔母が横浜で飲食店を経営していたため折に触れて訪ね、学生時代のお金に苦労していた時期にはよく食事をさせてもらっていた。入社後は横浜の寮で5年間生活し、その頃は中型バイクに乗っていたので、週末は本牧や港の見える丘公園、関内、石川町といった周辺を散策していた。
そんな思い出の地、横浜みなとみらいの展示会場であるパシフィコ横浜で、Bio Japan、再生医療JAPAN、そしてhealthTECH JAPANのイベントが開催され、私は二日にわたり訪れた。Bio Japanは、国際的なバイオテクノロジーおよびライフサイエンスのイベントであり、バイオ医薬品の研究、ビジネス関連のプロフェッショナルたちが一堂に会する重要な場となっている。このイベントは、健康ケアや医療分野における革命的な進歩を実現するバイオテクノロジーを中心に、バイオ医薬品の開発から製造、商業化に至るまでの洞察を提供、投資家や企業が新しいビジネスの機会を発掘する場として、バイオテクノロジー関連の専門家や業界関係者には欠かせないイベントとなっている。特に注目すべきは、主催者が提供するパートナリングシステムである。これは「偶然の出会い」ではなく、「ターゲットとなる顧客や潜在的な顧客との確実な出会い」を実現するビジネスプラットフォームとして位置づけられている。昨年のデータによると、参加者は1,500名、参加企業は800社、そして4日間での商談件数は驚異の13,000件に上ったとのことである。
当社は中国を拠点とする臨床段階のバイオ医薬品会社RactigenTherapeutics(https://www.ractigen.com/) の顧問を務めていることもあり、期間中多くの製薬会社や投資会社と面談した。
Bio Japanへの参加は初めてだったが、そのパートナリングシステムの精緻さと規模には驚かされた。医療業界において、創薬の複雑さという課題を前に、オープンイノベーションが業界の発展を支えていることが強く印象的だった。他の展示会にも同じようなパートナリングのプラットフォームが存在することはあるが、これほどまでに体系化されたプラットフォームは他では見かけない。様々な業界でこのような仕組みが取り入れられ、オープンイノベーションが単なるイベントではなくビジネスの基盤として確立されることが望ましいと感じる。
10日、国際通貨基金(IMF)が四半期ごとの経済見通しを公表した。中国やユーロ圏の景気後退を反映して、2024年の世界の実質経済成長率を2.9%と予測した。これは7月の3%という予測から0.1%ポイント下方修正となるものだ。特に目立つのは、中国の2023年の実質経済成長率が5.2%から5.0%へと0.2%ポイント、2024年が4.5%から4.2%へと0.3%ポイント下方修正されたことだ。対照的に、日本の2023年の成長率は1.4%から2.0%へと0.6%ポイント引き上げられ、2024年は1.0%という予測が据え置かれた。日本の経済の好調は、インバウンド(訪日外国人)による消費などが要因とされている。
中国の景気が低迷していることは明らかで、中国の友人たちに聞いても同様の声が多い。企業は支出を抑える動きを見せており、政府関連の案件も予算削減の影響で減少傾向にある。さらに、案件を受注しても売掛金の回収が難しくなるのではないかとの懸念が持たれている。
中国の投資の状況について、当社が戦略的パートナーシップ契約を締結している北京企名片科技有限公司の企名片Proのデータで2023年1月から9月までの投資実績をカテゴリー別に分析してみた。
中国の景気後退を反映して、投資件数も投資金額も大幅に減少している。2023年1月から9月の投資件数は、7,720件。前年同期が10,349件、前年同期比75%。同じく投資金額は2023年1月から9月は日本円に換算して約9兆円。前年同期が13兆円を超えていたので、前年同期比68%。投資環境は相当厳しくなっていると言える。
投資件数のTOP10を見てみると、
1位は製造業で全体の24.3%とほぼ4分の1を占める、2位 以下は下表のとおり。
TOP10の件数は5,957件で全体の77%を占める。
投資金額のTOP10は以下の通り。
1位は件数と同じく製造業、1兆7,104億円。全体の24.1%、2位以下は下表のとおり。
件数で3位の法人向けサービスは投資件数では多いが、金額ではTOP10圏外となる。
投資件数も金額も1位は製造業、2位は自動車産業、4位に半導体等の先進製造業がランクイン。中国がいかにものづくりに資金を投入しているのかが窺える。投資件数で6位の自動車産業が、投資金額では2位にランクイン。これは、世界最大の自動車市場、EV市場にCASEを中心として新たなスタートアップがまだまだ生まれていて、且つ資金も流入していることを意味している。中国版ChatGPTの開発を目指しているとも言われているが、投資件数で5位の人工知能AIが金額では10位と、数は多くても資金の流入はそれほど多くない。とはいえ3,613億円の資金が人工知能AIに投資されている。
医療・ヘルスケア関連のスタートアップへの投資は件数、金額ともに3位である。投資金額TOP5の中で、前年同期比128%の伸長を記録しているのは医療・ヘルスケア関連のみである。
中国の人口は14億を超える。政府が負担する医療関係の費用は年々増加の一途をたどっている。また、高齢化も急速に進行しており、2030年には65歳以上が人口の15%、60歳以上が25%を占めることが予想され、4人に1人が高齢者となると言われている。このため国全体でライフサイエンス系の企業の育成に注力している。中国の医療系スタートアップの創業者の多くは、中国のトップクラスの大学を卒業した後、米国などの医学系大学を出て、米国のファーマ企業での長い経験を持つ人が多い。
人口が多い中国は、その分患者数も多く、臨床データが得やすい環境にある。近年のAI創薬の進化も著しく、投資会社は特定の疾患領域や研究テーマを選定し、その実現が期待できる研究者を米国から中国に呼び戻して資金を提供し、新しい企業を設立するケースが増えている。
私は多くの医療系スタートアップの創業者と接触してきたが、彼らは非常に優秀で、確かにビジネスとしての成功を追求する気持ちは強い。しかし単にそれだけではなく、彼らは自身の研究領域を深め、その結果として人々を救いたいという強い意志を持っていることに気付かされた。
先週、ノーベル生理学・医学賞を受賞したカタリン・カリコさんについてこのブログで触れた。彼女の言葉を思い起こすと、「彼女が初めてペンシルベニア大学に来た時、彼女の研究室の窓から病棟が見えていた。カリコ氏はそこにいる患者たちのことを常に心に留め、『私たちの研究成果をあの患者たちに届けるべきだ』と同僚に話していた」という。
医療における挑戦は、国境を超えつながり、その先には多くの人々の幸福につながるはずだ。
10月15日記