社長エッセイ

社長の日曜日 vol.52 長江 2024.04.22 社長エッセイ by 須毛原勲

  • facebook
  • twitter

 2月から悩まされていた花粉症もようやく治まり、気温が上昇し、走るには最適な季節となった。先日、桜を求めて訪れた公園は、入り口を登ったところに大きな楠が生えており、青々とした緑が生命の息吹を感じさせ清々しい。公園の中央の小高い丘には、多くの犬を連れた人々が集まり、犬たちが走り回っていた。ざっと見ただけでも30匹近くの犬がいるように見えた。遠目からしか観察できなかったが、1匹の非常に大きな茶色の犬が目立っていた。ピレネー犬(グレートピレニーズ)に似ていたが、あのような茶色のピレネー犬は私は見たことがない。ネットで調べたところ、茶色のピレネー犬も存在することがわかった。あの犬が本当にピレネー犬かどうか、再会できたら聞いてみたいと思った。

 中東の状況が緊張している。

 4月1日、イスラエルがシリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の領事部を攻撃したことが緊張の発端となった。それに対抗して14日、イランはドローンやミサイルを使用してイスラエルに報復攻撃を行った。中東の地域大国であるイスラエルとイランは約45年にわたり対立を続けてきたが、これまで直接攻撃し合うことはなかったため、関係は「冷戦」と表現されていた。今回、イランによるイスラエル本土への攻撃は史上初の事態である。その後、19日にはイスラエルがドローンを使用してイラン本土を攻撃した。この攻撃は各施設への被害を避ける抑制されたものと報じられており、現時点でイランからの更なる報復攻撃は報告されていないが、状況は依然として予断を許さないものである。

 また、同じ19日にイタリアで開催された主要7カ国(G7)の外相会合が共同声明を発表して閉幕した。この中で、イスラエルによるイラン攻撃を受けた緊張が高まる中東情勢について、自制を求める内容が明記された。「すべての当事者にさらなるエスカレーションを防ぐために努力するよう強く求める」とされている。日本はイランとも友好関係にあるため、出席していた上川陽子外相はイランだけを一方的に非難することを避けていた。

 外務省はXにて、G7外相会合の際の上川外相の情報を頻繁にアップしていた。上川外相の立ち振る舞いからは、錚々たる各国首脳と堂々と渡り合っている様子が伝わっており、上川氏が各国の外相からどれだけリスペクトされているかは写真からも明らかである。外務省の発表では、制裁に関する具体的な発言は明らかにされていないが、「必要なあらゆる外交努力をしている」と述べ、イランおよびイスラエルの両外相と電話で協議を行ったと説明している。上川外相には、欧米諸国に追従するだけでなく、日本の独自の立場でイスラエルとイランの報復攻撃がこれ以上進展することがないように尽力してほしいと願っている。

 さて、米テスラが15日、世界で従業員の10%以上を削減すると発表した。EV先駆者であったテスラのレイオフ(一時解雇)は、中国の低価格EVの攻勢によりEV市場が変化していることを示している。中国EVに対抗するために、今後の主戦場となる低価格EVの開発を断念したとの報道もある。

 「格安中国EV、市場を揺るがす」という見出しで、日経新聞が17日に報じた。世界のEV市場を中国の低価格車が揺るがしており、中国EVに対する警戒感が強まっている。現時点では、テスラの本拠地である米国には中国のEVが1台も入っていないが、いずれは高関税や補助金を受けられないなど米政府の政策を乗り越え、中国EVが米国市場に進出するのは時間の問題である。

 EV後進国である日本では、2023年に国内で販売されたEVは85,862台にとどまる。その中で最も売れた日産のSAKURAは37,140台で、全体の43.2%を占める。トヨタが鳴り物入りで販売を開始したEV、bZ4Xはわずか923台のみであった。2023年から日本市場に新規参入したBYDの販売台数は1,445台と、既にトヨタを越えている。

 先週、このブログで触れた長澤まさみさんを起用したBYDのCMをテレビで初めて見た。私があまりテレビを見ないにも関わらず目にするということは、相当な放映回数であるだろう。そのTVCMでフィーチャリングされているセダンタイプのATTO3の販売価格は450万円(航続距離400キロ)、もうすぐ発売されるというDOLPHINは363万円(航続距離476キロ)である。日本で最も売れている日産のSAKURAは255万円(航続距離180キロ)である。BYDが日本で拡販を仕掛けているのは、まさに低価格EVである。性能と価格設定だけを見れば、SAKURAの半分以上がBYDに置き換わってもおかしくない。ちなみに、米国の自動車関税率は27.5%であるのに対し、日本は中国からの自動車輸入に関税を課していない。米国テスラの危機を大きく報じる前に、日本でのBYDの展開と、日本のEV市場がBYDに総取りされてしまう可能性のある日本の自動車メーカーの「今そこにある危機」を知るべきであろう。

 先週、ドキュメンタリー監督竹内亮氏の映画「再会長江」を鑑賞した。竹内氏はインフルエンサーとしても有名で、フォローワー数1千万人を誇り、中国で最も有名な日本人として広く認識されている。映画は長江の源流を目指し、6300キロにわたる旅を通じて出会った人々の生活を描いている。「再会長江」という言葉は、「長江に再び会う」という意味。13年前の作品「長江 天と地の大紀行」で出会った人々を再訪し、その時と現在を比較する形で物語が進行し、悠久の時を経ても流れ続ける長江のように、時代を超えても変わらない価値感が描かれている。

 私にとっても長江は思い出深い大河である。中国駐在時代、三峡下りを重慶の販売代理店の幹部たちと共に経験した。この下りは、重慶市の奉節から湖北省の宜昌までの約200キロメートルにわたる区間を遊覧するもので、その間には瞿塘峡、巫峡、西陵峡という三つの峡谷が含まれている。約20年前のことであるが、壮大な景観に圧倒された記憶は今でも鮮明だ。

 映画では、重慶より上流の未知の長江を探訪し、10年前には撮影不可能だったドローンで捉えた景観が印象的だった。また、重慶で棒棒(バンバン)と呼ばれる荷物運びを生業とする老人や、ダム建設で移住した母子の話、少数民族の娘さんの通い婚といった人々の生活が描かれている。

 特に印象的だったのは、雲南省シャングリラのチベット族少女、茨姆(ツームー)の10年前と現在の姿である。竹内亮氏は直接中国語で人々に語りかけ、彼らの内面を引き出している。竹内亮氏の自然な中国語も素晴らしいが、何より、彼の人柄が登場人物たちの心を開かせている。通常テレビなどで見る過剰に演出された中国人とは異なり、この映画に登場する中国人の日常や表情は観客に新たな発見をもたらすかもしれない。

 竹内亮氏自身も彼女に会いたくてこの映画を撮ったと、どこかのインタビューで答えていたが、茨姆(ツームー)は、まさに、この物語の主人公である。カメラが捉える茨姆(ツームー)の表情がいい。彼女のその顔を観るだけでもこの映画を観る価値があるかもしれない。

 いろいろなことを感じさせてくれるいい映画だった。

4月21日

by 須毛原勲

ブログ一覧に戻る

PAGETOP