朝の公園は、新緑の匂いに満ちている。香りではなく匂いだ。生命の息吹そのものの、強烈な匂い。
平日は、近くの公園、土日は遠くの公園まで足を伸ばしてラジオ体操に参加している。毎日同じような顔が集まっているようでいて、日によって少しずつ入れ替わっている。近くの公園でのラジオ体操はとても人気で、少しずつ集まる人数が増えている気がする。数日行かないと、私の定位置に新顔が立っていて、私はじりじりと脇へと押しやられていく。まあ、別に気にしないけど。手を伸ばして、隣にぶつからない距離が保てれば、それでいい。
■ 4月X日
下北沢で、大学時代の同期と飲んだ。
一昨年、40年ぶりに再会したのも下北沢だった。現れた彼は、年相応に歳を重ねていた。だが、声と話し方は、あの頃のままだった。
「変わってないな…」
「お前もだよ。相変わらず、訛り抜けないな。」
40年。長いようで、酒が一杯入れば一瞬で埋まる距離だった。LINEで繋がり、以来ちょくちょく連絡を取るようになった。
そんな旧友と、何か一緒にやれないか、話をしている。
■ 5月X日
上海駐在から帰任されたお客様S様の、お帰りなさい会。
当社のお客様で、上海赴任中はずっと窓口を担ってくださった方だ。コロナが始まった頃に赴任され、駐在は丸6年に及んだ。一時帰国のたびに、東京で会食の席を共に囲んできた間柄である。
その夜は、一緒に参加した友人の交通の便から、東京駅近くの「銀平」という店を選んだ。席に着いてしばらくして、S様が口を開いた。
「ここ、上海の銀平の親会社なんですよ」
──そうだったのか。
上海の銀平。虹橋の日本領事館近くにあったあの店。私も上海駐在中、足繁く通った場所だ。
話をするうちに、刺身が運ばれてきた。異様に太い。上海でもこれだった。同じ太さ、同じ厚み。一切れを口に運んだ瞬間、虹橋のあの店の景色が、一気に蘇った。ぶっとい刺身が乗った海鮮丼。中国では衛生上ご法度とされる生卵をぽとりと割り入れ、「サルモネラ菌恐るるに足らず」とばかりにかき込んだあの日々。
お客様の帰国を祝う夜のはずが、気がつけば私自身が上海に引き戻されていた。
■ 5月X日
GW、ひとりの時間を作った。観たかった配信ドラマと、積みっぱなしだった本を一気に片付けることにする。
まずはNetflixの「イクサガミ」。岡田准一主演、原作は今村翔吾。明治11年、京都。292人の志士が、東京までの命を懸けたゲームに挑む。岡田准一は主演にしてプロデューサー、アクション・プランナーでもある。渾身のアクションだ。途中で姿を消していく豪華キャスト陣の最期のシーン ── 玉木宏、伊藤英明 ── にも、しばし見入った。
そして、清原果耶。彼女の演技をきちんと観たのは今回が初めてだったが、こんなにいい役者だったのか、と素直に驚いた。
続けて「九条の大罪」。全10話を一気に。
裏社会の依頼ばかりを引き受ける弁護士・九条間人と、彼のもとに送り込まれたエリート弁護士・烏丸真司のバディものだ。柳楽優弥がいい。淡々と、しかし腹の底に火を抱えたような芝居。SixTONESの松村北斗もいい役者だ。彼のことは「秒速5センチメートル」でもいいと思ったけれど。
社会の暗部を容赦なく描く重い作品だ。気持ちが沈んでいるときに観ると、さらに沈むかもしれない。観るタイミングは選んだ方がいい。
「プラダを着た悪魔2」が公開されているので、20年前の本編をもう一度観なおした。アン・ハサウェイのみずみずしさと、メリル・ストリープの貫禄。「時代を席巻した働く女性のバイブル」と呼ばれた所以がよく分かる。
ドラマの後は、本棚へ。
最近は「読む時間がない」と、買うのを控えてはいる。それでも、時間が出来たら読もうと積まれたままの本がずらりと並んでいる。
その中の1冊を抜き出した。村山由佳著『PRIZE』。直木賞が欲しくてたまらないある作家の話だ。ネタバレになるからあまり書けない。ただ、最後にどんでん返しがある。読み終えて、しばらく本を閉じたまま考え込んだ。作家が守るべきもの、執着すべきものは、何なのか。うーん。
そもそも、何故、この本を読みたいと思ったのか。実は私自身、小説を書きたいという気持ちがずっとある。学生時代、映画研究会に籍をおきシナリオを書いていた。先日下北沢で飲んだ彼も、実は同じ会の仲間。
あの頃、二つの夢があった。映画か、海外か。私は後者を選んだ。それから40年余り、海外で働く夢は、まあ叶った。それでも、最近無性に思う。「何かを表現したい」と。毎週このブログを書いているのも、思えばその気持ちの発露なのかもしれない。
小説を書くなら、エンターテインメント。読んでスカッとするやつだ。決して格好は良くないけど、それでも、諦めない親父が出てくる物語。
まあ、仕事を辞めたら。──いつのことになるやら。
■ 5月X日
アウトドアには絶好の日和。ひとりでゴルフに出かけた。
神奈川にあるホームコースは、ひとりで申し込んでもグループに組み込んでもらえる。それが気に入って通っているのだが、メンバー枠ゆえ、組まされる方々のレベルが総じて高い。
今回は、運悪く私以外の3人がシングルプレイヤーだった。私はレギュラーティーから、3人は遥か後ろのチャンピオンティーから打つ。皆が打ち終わるのを待ってから、私の番が来る。
──これが、いけなかった。
第1打、いきなり左に大きく曲げた。2打目、木越えでグリーンを狙いたい誘惑に駆られたが、ぐっと抑えた。フェアウェイに低く、刻んで戻す。
“Take your medicine.”
南アフリカの親友、ニールに教わった言葉だ。無理に攻めず、傷を浅く済ませる。こういう時こそ、一息入れろ、と。
結局、スコアは散々だった。ドライバーは最後まで言うことを聞かなかったが、パッティングだけはその日誰よりも冴えていて、下り10メートルのパットを一発で沈めた瞬間だけは溜飲が下がった。
空は抜けるように青く、爽快な五月晴れ。気分だけは最高だった。まあ、こういう日もある。
私のゴールデンウィークは、こうして過ぎていった。
【お知らせ】中国フィジカル AI 産業 最前線レポート 2026 公開!
人型ロボット、犬型ロボット、自律走行ロボット ──「フィジカル AI」と呼ばれる新産業で、いま、世界出荷台数の84.7%が中国製です。
EV が世界に一気に広がったとき、私たちは同じ景色を見ました。技術、サプライチェーン、国家政策、すべてが中国に揃っています。
宇树科技(Unitree)が世界シェア32.4%でトップ。同社の人型ロボット R1 は、約88万円。日本の製造業が「まず試す」入口商材として、もう手の届く価格に近づいています。
電力インフラ巡検は、すでに商業実装の段階です。云深処科技(Deep Robotics)は国家電網・宝鋼・シンガポール電力網などで600件超の納入実績を持っています。「危険」「人手不足」「コスト増」── この三重苦を抱える日本の様々な作業現場にとって、参照すべきモデルが既に実在しています。
SUGENA は、長年中国ビジネスの最前線に立ち会ってきた立場から、この産業の「現在地」と「日本企業が今、何をすべきか」を、1冊のレポートにまとめました。
中国主要メーカーの最新動向、2030年までの価格ロードマップ、応用シーン別の成熟度マップ、そして筑波大学附属病院で行われた日中協業による国内実証事例まで、現場の数字から語っています。
「中国製のボディに、日本製のブレインを載せる」── レポートで提示する第三の道については、フィジカルAI導入を検討している全ての皆様へのヒントとなるでしょう。
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《今週の写真》カピバラ、うとうとの図

井の頭動物園にて。
五月晴れの日差しの下、カピバラが目を細めて寛いでいた。
網越しに、こちらまで眠くなる。
帰り道、小さなぬいぐるみを妻へのお土産に買った。この切れ長の目つきが良く再現されていて愛嬌がある。
今、それは彼女の携帯に揺れている。
2026年5月10日
