スタッフエッセイ

私の中国見聞録④ 春節の旅(2) 2021.08.19 スタッフエッセイ by 板橋清

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 綿陽に到着したその晩、友人のお父さんの車で近くのレストランまで連れていかれた。個室に通されると、すでに7人くらいの男女が集合して賑やかに話している。「来た来た、さあ座って」。お父さんと同じ年代の男性に大きく手招きされて、訳も分からずそちらに座った。聞けば皆、お父さんの兄弟たちとその家族だという。友人は親戚のおばさんにハグなどされながら、これまた方言でよく分からないがおそらく「まあ、立派になって」だか「よく帰ってきたねえ」というようなことを言われている。間もなく大きな鴛鴦鍋が運ばれてきて、火鍋パーティが始まった。

 「日本のお客さん、ようこそ綿陽へ」と友人の伯父さんが音頭を取り、まずは乾杯。こんなにたくさんの人に迎えてもらえるとは思わず面食らっていた私たちに、親戚のおばさんが言う。「大丈夫、中国と日本の間にはいろいろな歴史があったけど、友達は友達。ここの人はみんな優しいのよ」。その言葉に、ちょっとハッとした。友人の家族や親戚に日本人の自分が快く迎えてもらえるかどうか、不安ではあったのだ。やはり、この人たちは過去を決して忘れていない。当然だろう、自分たちの父祖が殺された戦争である。しかしその口調は「友達は友達」という言葉通り、いやまるで本当の親戚のおばさんのように親しい。この人は本当に自分を受け入れてくれている、と確信できる言い方だった。この両義性を、そのまま受け止めなければいけない。そのときはっきりとそう思った。親日とか反日とかいう安易な言葉に回収できないものがそこにあるのだ。

この夜出会った親戚たちは皆、ちょっと押しつけがましいくらいに外国の訪問者を歓迎してくれて、恥ずかしいようだったがやはり嬉しかった。

 翌日は、昼間から家族に連れられて近所のレクリエーション施設に行った。到着すると昨夜の親戚たちも何人か来ている。何が始まるかと思ったら、麻雀だった。4人ずつ雀卓を囲んで座ると、お母さんが友人に「お友達にここのルールを教えてあげなさい」という。日本と中国では麻雀のルールが異なるが、どうやら中国の中でもローカルルールがあるらしい。友人が説明してくれたが、私などは中国一般のルールさえ知らなかったから、そう簡単に覚えられなかった。しかしそんな私には構わず、他の人は待ちきれないとばかりに牌を混ぜ始める。手つきからして、みんなかなりやり慣れているらしい。

 ゲームが始まると、特にお母さんが相当な強者だということが分かった。目も止まらぬ速さで牌を弄っていき、見ていて何が起こっているのか理解が追いつかない。こちらの手がちょっと止まると「まだ考えてるの?遅いのね、北京大生なのに」。ごめんなさい……!ますます必死になってやっているうちに場は何回も回り、気づいたらもう日が暮れていた。結局1日中、牌を弄りつづけていたのである。「春節休みは麻雀して過ごすものよ」とお母さんは得意げに言った。

 友人の家についた初めの頃だったと思うが、親戚の伯父さんが「中国人は“団円”が好きなんだ」と言っていたのが、強く印象に残っている。「団円」とは、普段離れて暮らす家族が再集結して一緒に過ごすこと。みんなで円卓を囲んでご飯を食べるのも、麻雀に興じるのも、きっとその欠かせない一部なのだろう。まさしく「団円」の文字通り、まるく向かい合って団欒する時間を、彼らはとても大事にしているようだった。この春節の旅で私たちは、彼らの「団円」に参加させてもらいながら多くの時間を過ごしたのである。

 いよいよ旧正月を迎えた日、私たちはより田舎の農村にある友人の父方の実家に行って新年を祝うことになった。そこで見たのは、びっくりするくらい大規模な「団円」だったが……その話はまた次回、書くことにしよう。

by 板橋清

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