スタッフエッセイ

中国語の小窓 ④ 2021.08.30 スタッフエッセイ by 板橋清

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ウィズ・コロナ時代の中国語

 中国語を学んでいて常々思うのは、この言語の造語能力や翻訳能力が極めて高いということだ。世の中は常に変わっていき、必要とする語彙もまたどんどん変化するが、日本語と中国語とではその対応の仕方が全然違う。大まかにいえば、日本語は外来語をそのままカタカナにして取り入れることが多いのに対し、中国語は既存の語彙を組み合わせて新たな言葉を創造することが多いようである。こういうところにも、それぞれの言語の性格が現れていて面白い。

 コロナの時代になって、2年前には聞いたこともなかった言葉がたくさん巷に溢れるようになった。今回はそんなコロナ関連の中国語を紹介し、日本語と比較してみたい。

 まずは、「新冠肺炎xīnguān fèiyán」。新型コロナ肺炎、という意味。新冠とは何かといえば、「新型冠状病毒xīnxíng guānzhuàng bìngdú」、すなわち「新型コロナウイルス」の略である。そもそも「コロナ」とは、ラテン語で「王冠」「花輪」を意味する言葉。そこから、太陽の周りの高温のガス層のことを「コロナ」と呼ぶようになった。コロナウイルスの表面には突起が出ており、太陽のコロナに似た形をしていて、それが名前の由来になったと言われている(wikipedia情報)。だから、中国語は「コロナ」を意訳して「冠状」になった。

 ……などということは、普段当然のように「コロナ」というカタカナ語を使っていると、考えることもないだろう。筆者も中国語を見て「新『冠』ってなんだ?」と思わなければ、調べさえしなかったと思う。訳語の違いを知るだけでも、様々な発見があるものだ。

 似たような例が「核酸检测hésuān jiǎncè」かもしれない。これ、コロナの文脈では一般に、PCR検査のことを指す。PCRがウイルスの遺伝子(核酸)を増幅させて検出する検査法だからだそうである。「做核酸检测zuò hésuān jiǎncè」(「做」=動詞「する」)などと使うが、「测核酸cè hésuān」(「测」=動詞「測る」)などとも略される。「您吃了吗?Nín chīle ma」(直訳「ご飯食べましたか?」)という言葉はもともと、北京人がよく「こんにちは」と同じような調子で使う挨拶語として知られていたけれど(これが挨拶になるということ自体面白いが)、最近ではそれに取って代わって「您核酸了吗?Nín hésuān le ma」(PCRしましたか?)が新たな北京の挨拶語になっている、という笑えない小咄が流行ったこともあった。

 他にもいろいろな例が挙げられる。例えばオンライン授業のことは「网课wǎng kè」(「网」=ネット、「课」=授業)などという。テレワークなら「远程办公yuǎnchéng bàngōng」(「远程」=リモート、「办公」=仕事)。ロックダウンは「封城fēngchéng」(「封」=封鎖、「城」=都市)。「デルタ株」はさすがに「Delta变异毒株biànyì dúzhū」「Delta变种biànzhǒng」などと表記してあるものが散見されるが、それでも「德尔塔déěrtǎ」と漢字で頑張っているものも多い。

 

 東京では第5波が猛威を奮っており、中国でも再び感染者が増加傾向にある。「疫苗 yìmiáo」(ワクチン)も徐々に広まり、「抗疫kàngyì」(疫病との戦い)のゴールもようやく見えてきたように思われるが、現状は深刻だ。とにかく早くこの状況がよくなって、またお互いの国を気軽に行き来できる時代が戻ってきてほしい。

「愿疫情早日结束 Yuàn yìqíng zǎorì jiéshù」

(「愿」=願う、「疫情」=エピデミック、「早日」=一日も早く、「结束」=終わる)

コロナが早く終わりますように。

by 板橋清

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