スタッフエッセイ

壊れてもよい製品の拡大ーecoに反していませんか? 2021.12.16 スタッフエッセイ by 沖虎令

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 携帯電話がスマートフォンとなり、今ではほぼすべての人が手にしている。使い慣れてしまったのでさほど気にしていないが、この製品は買換え期間が短い。新機能に惹かれて買い替えるだけでなく、落下や水濡れで破損・故障したり、電池の有効時間が短くなったりして買い替える。アップルが毎年新モデルを出し、日本でもこの機会に買い替える人が多い。1年1回という周期はアップルが周到に計算して決めたものだろうが、このマーケティングは実にうまく機能している

 スマートフォンは基本的に壊れても良い商品で、壊れたら買い替えることが当然視されている。iPhoneは修理が難しく、電池の交換も一般人にはできないし、メモリーカードスロットが無いからメモリ容量を増やすこともできない。

  日本企業がこの商品からほとんど撤退したことは日本の電子産業の特性を反映していると思う。壊れてもよい、短期間で買い替える前提の製品を造る、という発想は「まっとうな」日本のメーカーにはなかったものだし、頑丈な製品、修理できる製品が良い、という思想が「まっとう」だからだ。日本製品の品質に対する信頼は、電子製品だけでなくほとんどの日本の企業が製品に対して抱いている「日本製」としてのアイデンティティではなかろうか。

  これに対して、パソコンや携帯電話は、米国向きであり、中国向きであるといえよう。自動車を例に誰もが知るように、米国製・中国製の製品はよく壊れる。製造に対する意識の違いで、これは中国大陸だけでなく台湾企業が作る製品も同じである。もっといえば韓国もそうだ。

  これらの国は耐久性が求められたり、長時間使用を前提としたり、振動・回転のある製品の製造が苦手である。代表的な製品は複写機で、この分野は韓国からも台湾からも日本企業の競合が生まれなかった。自動車もこの部類に入る。世界中に自動車会社があるが、最高レベルのレーシングカーを造っているのは日本と欧州のメーカーしかない。これは、製品としての完成度を追求する気質に乏しいからだと思う。

  ところで、スマートフォンには規格が無い。充電ソケットが各社違う冷蔵庫やテレビなどありえないだろう。PCのアダプターの口も各社違う。極論を言えば規格が無いということは、不合格品が生まれないということになる。合格・不合格を判定する基準が無いからだ。もちろんこれには、例えば携帯電話は環境により電波の受信度合いが異なり、一律に決められない、などという事情もある。

  こういう製品を日本企業が作れないわけではない。しかし、まだ熟していない技術や部品を使い、試作品のような製品を大量に新製品として売出し、時代に乗り遅れたくない人達が買う、というビジネスモデルに太刀打ちできなくなったことがこの分野で日本企業が敗退した理由の一つだと考えている。

  さて、似たような現象が電気自動車(EV)で起きつつある。

  テスラの「オートパイロット」という自動運転レベル2相当のシステムを搭載したモデルで、2016年以降米国で少なくとも10人がオートパイロット走行中に死亡しているという。だが、テスラはこれでオートパイロットや搭載車の販売を取りやめる考えは全くないという。

  理由は、要は上記のゼロリスクは無理、という考えからきている。人為的ミスや不可抗力でも事故は起き、10人程度ならば少ない。そもそもレベル2は運転の補助機能にすぎない、という主張である。

  今後EVが普及すると、熟していない技術を採用した自動車が増える可能性がある。と、日本でいえば誰もがそんな怖い車には乗れない、と否定するだろう。しかし、道路事情が悪い国ではもともと故障や事故が多いだろうから、気にしないかもしれない。中国では、安全性が叩かれているもののブランドイメージのためテスラの売れ行きは好調だし、事実、中国国産ブランドのEVよりは安全かもしれない。

  今後、EVは使い捨て商品になるとみられる。

  中国では今年、半導体不足などにより自動車生産が減り新車が手に入らないため、中古自動車の販売が好調だ。その中で、EVの中古車価格は発売価格に対して非常に安いという。テスラ車も例外ではない。低価格の要因は、EVの信頼性・安全性、と並んで中古になると「ハイテク感」が薄れることが理由だという。この「ハイテク感」は、テスラ車が典型で、自動車が、iPhoneのように中古品が売れない、常に新型モデルを皆が買う商品となる可能性が高い。

  EVに関しては、ビンテージカー趣味が生まれそうにない。

  そうなった時、大量の廃棄中古EV車をどう処理するのだろうか。EVの環境負荷は大きな問題になるのではなかろうか。

by 沖虎令

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