【特別企画】社長対談

「海外で仕事をする楽しさと難しさ」
元 三井物産株式会社専務執行役員東アジア総代表 小野元生氏 Vol.1(全3回) 2024.02.15

  • facebook
  • twitter

株式会社SUGENA代表須毛原 勲が多彩なゲストと様々なテーマで語りあう、対談企画第4回のゲストには、元 三井物産株式会社専務執行役員東アジア総代表 小野元生氏をお招きしてお話をうかがいます。

【特別企画】社長対談 ゲスト小野元生(おのもとお)

華新麗華ウォルシンジャパン代表
元 三井物産株式会社専務執行役員東アジア総代表

1982年、三井物産に入社、鉄鋼製品本部配属。

1984年、台湾師範大学で1年半の語学研修後、鉄鋼製品本部に帰任。その後、中国及び台湾での駐在を含め、合計で19年以上の海外勤務経験を積む。米国ペンシルベニア大学ウォートン校での留学を経て、経営企画部業務室長やエネルギー鋼材事業部長などを歴任。常務執行役員人事総務部長を務めた後、専務執行役員として東アジア総代表に就任。北京駐在中には中国日本商会の会長も務める。

三井物産顧問を経て、2023年から華新麗華ウォルシンの日本代表などを務めている。

小野元生さん
  1. Vol.1「海外で仕事をする楽しさと難しさ」元 三井物産株式会社専務執行役員東アジア総代表 小野元生氏Vol.1
  2. Vol.2「中国・台湾でのビジネスについて」元 三井物産株式会社専務執行役員東アジア総代表 小野元生氏Vol.2
  3. Vol.3「グローバル人材に求められるもの」元 三井物産株式会社専務執行役員東アジア総代表 小野元生氏Vol.3

ー 須毛原

『社長対談』今回のゲストは、元 三井物産株式会社専務執行役員東アジア総代表の小野元生さんをお迎えしました。

小野さんは、三井物産において鉄鋼製品畑を中心に長年にわたり中国、香港、台湾といった大中華圏での事業開拓に従事され、海外駐在経験は19年に及びました。さらに、常務執行役員人事総務部長として、同社の人材戦略に長期にわたり深く関わってこられました。

事業経験と人材戦略という、一見異なる2つのキャリアを積まれた小野さんの視点から、「海外事業の楽しさと難しさ」「中国、台湾でのビジネスについて」「企業のグローバル化と人材戦略」の3つのテーマを中心にお話を伺わせていただきます。

大切なのは異質な価値観を柔軟に受け入れる意識

ー 須毛原

私の方から簡単に小野さんのご経歴をご紹介させていただきましたが、改めて自己紹介をお願いできますでしょうか。

ー 小野

私は1982年に三井物産に入社し、以来昨年の退任まで41年の長きに亘り商社マン人生、今はマンでななくて商社パーソンと呼んでいますが、その道を歩んでまいりました。

石油やガスを掘削、輸送する鋼管貿易を中心に鉄鋼製品本部に長く携わる一方で、1984年から語学研修員として台湾師範大学に1年半語学研修をした経緯もあり、中国語圏での勤務が長くなりました。

また、2007年の米国ペンシルベニア大学ウォートン校留学を経て、経営企画部や人事総務部等コーポレートでの経験も長くなり、鉄鋼(商品)、中国(地域)、コーポレート(職掌)の3領域が、私の商社でのキャリアの3本の柱となりました。

その後顧問時代には経団連の各種委員会委員や日中投資促進機構の副会長を務めました。

昨年6月からは、台湾のコングロマリットの華新麗華Walsinの日本代表の他、イタリアCogne社の非常勤director、官民ファンドであるクールジャパンファンド社外取締役等を務めています。

ー 須毛原

非常に多岐にわたるご経験をお積みでいらっしゃいますが、その中で19年間海外駐在をされたということで、まず、海外で仕事をするということの難しさ、逆に楽しさというのはどのあたりにお感じになられたかお聞かせください。

ー 小野

話は少し遡りますが、自分は日本という小さな島国に生まれたとの意識から、広く海外で仕事をしたいという漠然とした、且つ、強い思いが中学校後半から高校時代にはありました。日本を出て仕事をすることを、憧憬に近い自己実現の道と思い込んでいた節があります。外交官になりたいと思った時期もありましたが、やはりビジネスの最前線に携わりたいとの思いが上回り、これが商社で仕事を始めた原点と言って良いと思います。

海外に住まうこと、駐在をすること自体が目的ではありませんでしたが、やりたい仕事があれば何処にでも行く、何処にでも居留する、そこに居る人々と直接話をする、交渉するというスタンスを持ち続けました。そして、双方WinWinの価値を創り出すためには、その国に住まう人達と同じ環境に身を置いて文化を直接理解すること。同じものを食べて、同じ空気を吸い、同じ風景を見て、同じ音楽を聴くこと、要は、異質なモノや価値観を好奇心を持って柔軟に受け入れる意識が大切だと思います。その地に根を下ろす意識を高めて仕事を創る事が、異文化に身を置き海外で仕事をする難しさであり、同時に喜びでもあろうと思います。

「駐在員」という、期間限定でのお客様のような立場を超えて、地場に根を張る事から仕事を始めることの大切さを、日本人駐在員と現地スタッフとが共有しながら、それをもっと広いところに展開して行こうという想いを、私が三井物産の東アジア総代表をしていた時に「深耕本土、広拓全球」というスローガンにしました。まさにこれがご質問の「海外で仕事をする難しさと楽しさ」ではないかと思います。加えて、その時代や場所を共有した、内外の友人との出会い、その後のお付き合いも、一生の貴重な財産になると思います。

言葉は大切。わかったふりや憶測は禁物。

ー 須毛原

そうですね。私にとっても海外での仕事や生活の中で得た友人はとても大切な財産になっています。

先ほど小野さんが、「そこに居る人々と直接話をする、交渉するというスタンスを持ち続けて双方WinWinの価値を創り出す」とおっしゃいましたが、日本の中小企業の方が初めて海外進出する際には英語や現地語を流暢に操れる人材が組織にいるということは稀だと思います。そういった場合、例えば通訳を介してでも関係を築くということは可能だと思われますか。

ー 小野

もちろん英語や現地語を使える人がいる方が直接的でよいとは思います。ただ、ビジネスの交渉となるとかなりのレベルに達していないと逆にその言葉がマイナスに働くこともあります。そういった場合、中途半端な言語力で直接交渉するよりむしろ思い切って通訳を立てた方が誤解がなくイーブンな戦いができるかもしれません。

ー 須毛原

言葉の問題は、当社が海外進出のサポートをさせていただいている企業様が必ずといっていいほど抱えている課題です。それを乗り越えるにはどのような方法があると思われますか。

ー 小野

例えば中国の人と中国語で会話できない場合は何とか英語でやる努力をするということ。その場合にも、きれいな英語をしゃべる必要は全くなくて、片言でもいいと思います。ただ大切なのは、わからないものはわからない、素晴らしいものは素晴らしい、これは自社の売りです、といったところは曖昧さを残さないということだと思います。わかったふりをしないということ。交渉の中でわかったふりとか勝手な憶測とかを残しておくと後で大きな問題になったりすることがあるので、そういう中途半端なわかったふりはせず、誤解のないようなコミュニケーションをとることが大切だと思います。誠意をもってしっかりと交渉すればおのずとよいものは通じますし、遠慮せずに堂々とストレートに話をする方がよいと思います。

ー 須毛原

先ほど小野さんがおっしゃられた、海外で仕事をする上では、「異質なモノや価値観を好奇心を持って柔軟に受け入れる意識が大切」ということについてですが、小野さんの今までのご経験で特に大きな価値観の違いを感じられたことはございますか。

ー 小野

そうですね、例えば中国のビジネスでいうと、中国の人は大きいことや方向性を決めて動き出してから現実に従って細かい部分を決めていく、という感じに対して、日本人は全ての状況を大中小の事象を全部並べてそれを徹底的に出し切った上で話をして物事を進めていく、といった手順についてずいぶん違うなと思ったことはあります。

それから、先ほどの話に近いかもしれませんが、イエス・ノーをはっきり言ってくるということですね。これは中国に限らず欧米の方もそうだと思います。日本人ははっきり言わないところがある意味美徳のようなところもあるのですが、中国や欧米ではそれを美徳とは受け取られません。ただ、だからといってストレートに言いすぎるばかりだと、例えば意外に余韻を残すイギリス人やはっきりとものを言わないヨーロッパの年配の方のような場合もありますので、そのあたりはいろいろと話をする中で相手の価値観を探ってキャッチしながらコミュニケーションをしていくことが大事かなと思います。

ー 須毛原

なるほど。では、「駐在員」という期間限定でのお客様のような立場を超えて、地場に根を張る事から仕事を始める、ということについてですが、この点について具体的にはどのようなことがありますか。

ー 小野

フラットに言うと、現地で日本人の友達や知り合いと交流を持つのは悪いことではありませんが、そればかりではダメだということです。意識して現地の人と食事をしたりする。それから、ゴルフや会食などはお互いの家族ぐるみで行うと交流が一層深まりますね。

また、例えば事業所のカレンダーを現地のカレンダーで運営するといったこと。日本の休みに合わせて休むのではなく現地の暦で動くといったこともあると思います。

普段の生活では、例えば事務所で現地のものを食べたり、現地の音楽や映画を楽しんでいる姿を見せたりすることによって、自分が現地のことを理解しようとしているという姿勢が周りの人に伝わりますよね。

ー 須毛原

そうですね。そういった何気ないことも非常に大切ですね。

海外で仕事をする場合、文化・習慣・言語・食などの様々な違いを日々目の当たりにします。大切なのは、その異質な価値観を柔軟に受け入れようという意識。

その中でも言語の壁は公私ともの生活のクオリティに大きく関わってきます。周囲の人の助けも得て、前向きに過ごすことで少しずつ乗り越えていけるのではないでしょうか。

次回は中国・台湾でのビジネスについてお話を伺います。

社長対談一覧に戻る

PAGETOP