【特別企画】社長対談

「台湾問題・米中関係の新局面」
拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授 Vol.2(全3回) 2024.04.16

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拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授にお話を伺う第2回。
今回は、台湾問題・米中関係についてお話を進めていきます

【特別企画】社長対談 ゲスト富坂聰(とみさかさとし)

拓殖大学海外事情研究所教授

1964年、愛知県生まれ。
台湾を経て北京に留学。1988年北京大学中文系を中退し帰国。『週刊ポスト』、『週刊文春』の記者を経て独立。
1994年、『龍の伝人たち』(小学館)で第1回国際ノンフィクション対象優秀作を受賞。著書に、『中国という大難』(新潮文庫)、『潜入』(文春文庫)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル』(ウェッジ)、『習近平の闘い』(角川新書)、『反中亡国論』(ビジネス社)などがある。

富坂聰さん
  1. Vol.1「中国との出会いと現在の中国」拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授Vol.1
  2. Vol.2「台湾問題・米中関係の新局面」拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授Vol.2
  3. Vol.3「中国とのつきあい方」拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授Vol.3

台湾有事の危険度は?

ー 須毛原

台湾総統選挙は2024年1月13日に投開票され、与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳氏が当選し、蔡英文前総統の対中強硬路線の継承と言われています。 メディアは何かにつけて、すわ「台湾有事」勃発かと煽りますが、今の状況をどのようにお考えでしょうか。

ー 富坂

台湾有事はもちろん中国が否定していない以上可能性はあるわけですが、極めて極めて少ない可能性の一つだと私は考えています。

実は中国から見た可能性よりも、台湾とアメリカの動きが最もその変数を確定していくのではないかと思います。

私は1996年の台湾初の総統選挙を取材しましたが。その時中国が台湾上空を通過するミサイル演習を大々的に行ったのを見た際に思ったのは、台湾という政治実体を潰すのに軍事力の使い方として大規模侵攻はいらないということです。

なぜならば、簡単な話で、ニュー台湾ドルと台湾の株価が暴落したら台湾は終わります。ですから大規模侵攻という手段を使うまでもないですし、さらに中国は台湾の人たちの心の底からの恨みを買ってまで台湾統一をする、ということはあまり考えていないような気がします。 習近平氏も先般訪米時にバイデン大統領に「台湾統一のタイムスケジュールはない」と言っていました。性急な独立の動き、それを支援する米国の動きが中国を追い込むことをしなければ中国の方から何かをする、ということは無いと思っています。

米国大統領選挙後の米中関係について

ー 須毛原

今年11月には米国の大統領選挙が実施されます。民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ元大統領の対決になることが早々と決定しました。 バイデン政権かトランプ政権か、によって米中関係は大きく変わる可能性があるでしょうか。

ー 富坂

まず、第一の影響として、決着がつくまでの影響がものすごく大きいと思います。両陣営とも中国叩きのスタンスを取るでしょう。票につながりますので。前トランプ政権の発足前を思い出していただければわかりますが、台湾の蔡英文総統との会談をやりかねないような動きさえありました。票につながるのであれば中国に対するどんな嫌がらせでもやるようにエスカレートしていくといった危険性があります。

バイデン氏、トランプ氏のどちらが中国にとってはよいのか、ということに関しては、変数の違いであって双方共にリスクを抱えていると思います。

その上で両者を比較した場合、バイデン氏は昨年の米中首脳会談で、ある意味歯止めが出来たと思いますし、安全保障担当の大統領補佐官であるサリバン氏が「中国が一定の大きな存在であるということは認めていかざるを得ない」というような発言をしたこともありますので、ヒートアップした中国叩きをノーマライズしていく力はバイデン政権の方は持っているのではないでしょうか。対してトランプ氏は、中国ともディールできるという能力は持っているので、ある意味中国側も安心というところもありますが、一方で予想不可能な逸脱ぶりを見せてきた過去もありますので、そういった意味で心配な面もあるわけです。

両者に共通しているのは、米国のどこかの利益団体の代理人であるということ。それぞれ重要なものがはっきりしていますので、いずれにせよ利害は中国とぶつかります。 忘れてはならないのは、アメリカ国内への影響で、どちらが勝っても共和党内の分裂も深刻になると思いますし、民主党との折り合いもつきませんし、それぞれの支持者が受け入れられないものを持つことになると思います。

ー 須毛原

分断ということですね。まさに4年前、アメリカ国内で分断という言葉が繰り返し取り上げられましたが、そういったことが今回の大統領選挙でも再現されてしまう恐れがありますね。

米中摩擦の本質と相互のデリスキング

ー 須毛原

昨年11月、アジア太平洋経済協力会議(APEC)がサンフランシスコで開催された際、習近平国家主席が6年半ぶりに米国を訪問しバイデン大統領と対談しました。これを機に米中の対話が再開したわけですが、まだまだ課題は大きいかと思います。

そもそも、米中関係が悪化した根本的な原因とは何なのでしょうか。 また、現在の米中関係対立の本質はどういったものなのでしょうか。

ー 富坂

ワシントンが感じている中国の台頭に対する警戒心と、政治家が抱いている中国に対する思いというのは全く違うと私は思っています。政治家は短期的に中国を敵として扱うということが自分の仕事だと思っているように感じます。

ー 須毛原

それが、国や国民を守ることであり、国家の利益を守ることに繋がるということでしょうか。

ー 富坂

そうですね。ですから、最近驚いたのは、中国からニンニクを輸入するのは安全保障上の問題であると公然と発言した政治家がいました。理由を聞くと不衛生であるからと。また、港で使っているクレーンも中国にコントロールされる恐れがあるといった発言もありました。

ー 須毛原

TikTokに関する動きなどもありますね。

ー 富坂

TikTokのようなアプリに関して言えば、洗脳がどうとかいった話ではなく、青少年があまりにも依存して影響を受けてしまうということには間違いはないので、そういう意味である程度の規制といったものの必要性はあるのかもしれませんが、外国製のものを敵視することで国益を守り、自分の政治家としての仕事を果たす、といったことに繋げすぎているような気がします。

ー 須毛原

そうですね。TikTokは一つの象徴で、共通の敵のようなものかと思います。

ー 富坂

ある意味政治的な動き方ですよね。でも、私はそれが必ずしも成功しているとは思えません。ワシントンの頭の良い人たちが考えることには限界があり、本当の闘いはやはりもっと現場で起きているわけです。アメリカがよくやる経済制裁にしても、例えば北朝鮮に対するものでも根本的な何かの解決に繋がっているわけではなく、イラクやロシアにしても然りです。 無差別に勢いで何かをするのではなく、何を守って何には条件をつけるとか、状況を見極めてやっていかないと、無駄な球をものすごく消費して、アメリカも中国も傷ついて何も変わらない、といったことになる。そういう米中対立が続いていくというのは、たぶんワシントンの頭の良い人たち主導の戦いになっているからだと感じます。

ー 須毛原

中国としてはこういった西側の動きに対してどのように対抗しようとしているのでしょうか。

ー 富坂

中国の本音を言えば、「脱先進国」ではないかと思います。現実的には不可能な話だと思いますが、ものすごく頼っていたという部分をいかに減らしていくか。先進国を選択肢の一つにするということです。

そして、中国としても安定剤的なものは大切ですので、1に東南アジア、2に中東、3にロシア、ということになると思います。

ですからこういった国・地域によってアメリカに代わる部分を補填していければよいと考えていると思います。 中国が自分の方からアメリカとの関係を抜けるという選択はなく、抜けさせられる、例えばトランプ氏がメキシコ産の自動車に100%関税をかける、と発言したように中国との蓋を閉めてくるようなことも予測されています。そういった、自分からは抜けたくないが抜けさせられた場合のリスクヘッジを考えた上で、自分たち独自のサプライチェーンや市場としてのアメリカも考えていくのではないでしょうか。

中台関係、米中関係、いずれも不確定要素を抱えているのは事実です。しかし、表面に出てくる事象とそれぞれの国同士の実際の関係は、微妙に違うのかもしれません。多角的視点で状況を見たいものです。

最終回の次回は、とかく厄介と言われがちな中国とのつきあい方について、中国と40年関わって来られた富坂先生にお話を伺います。

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