【特別企画】社長対談

「中国とのつきあい方」
拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授 Vol.3(全3回) 2024.04.23

  • facebook
  • twitter

拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授にお話を伺う第3回。最終回の今回は、とかく厄介と言われがちな中国とのつきあい方について、中国と40年関わって来られた富坂先生にお話を伺います。

【特別企画】社長対談 ゲスト富坂聰(とみさかさとし)

拓殖大学海外事情研究所教授

1964年、愛知県生まれ。
台湾を経て北京に留学。1988年北京大学中文系を中退し帰国。『週刊ポスト』、『週刊文春』の記者を経て独立。
1994年、『龍の伝人たち』(小学館)で第1回国際ノンフィクション対象優秀作を受賞。著書に、『中国という大難』(新潮文庫)、『潜入』(文春文庫)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル』(ウェッジ)、『習近平の闘い』(角川新書)、『反中亡国論』(ビジネス社)などがある。

富坂聰さん
  1. Vol.1「中国との出会いと現在の中国」拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授Vol.1
  2. Vol.2「台湾問題・米中関係の新局面」拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授Vol.2
  3. Vol.3「中国とのつきあい方」拓殖大学海外事情研究所 富坂聰教授Vol.3

今は、中国の安値買いの大チャンス!

ー 須毛原

先回までのお話で、台湾有事の可能性や米中関係について富坂先生のお考えをお聞きしましたが、日本は輸出も輸入も中国に20%程度依存しており、経済的には極めて密接な関係にあると言えます。一方で、昨年は改正反スパイ法の施行や邦人の逮捕など、中国に対する不安や警戒感が増し、中国は怖い国というイメージを持つ日本人も増えているように思います。 今後、日本企業は中国とどのように向き合っていくべきでしょうか。

ー 富坂

日本人の感情とかそういうものを全く無視していいのであれば、今こそ「安値買い」をすべきだと思います。コロナの影響から本気の回復をまだしていない中国のリソースを安く買える大チャンスはこの数年しかないと思います。 けれど、それはなかなか難しいことかと思いますので、そうであれば、少なくとも是々非々で対するべきだと思います。

ー 須毛原

是々非々や現実的に事象を見るということは、私も常に言っていることで、非常に腑に落ちます。ただ、日本人にとってこれはなかなか難しい。どういったことが必要だと思われますか。

ー 富坂

まず、違う人間なのだということを徹底的に考えることだと思います。例えば、スパイ法の関連にしても、同じことをイスラエルでやりますか?鞭打ちの刑があるシンガポールでやりますか?インドではどうですか?といったことです。

日本人からすると隣国で顔も何となく似ている中国ですが、まさに米中摩擦の最前線で日々罠にかける、かけられるという闘いをしている国であるわけで、そういう緊張感は多分我々日本人にはありませんよね。 ですから、親しみを持つことは大切ですが、肌の色や顔が似ているというようなことは一旦忘れて全く違う「外国人」なのだと思うことが肝要かと思います。

ー 須毛原

そうですね。最初から違うと思っている人に違うことを言われても納得できますが、何となく風体も似ているし、そういう人に予想外のことを言われると必要以上に抵抗を感じたり、期待しすぎて裏切られた感じがしたりしますよね。

ー 富坂

そう、裏切られた感がすごく強くなってしまいます。実際のところ、どこの国に行っても儲かる、儲からないはありますし、中国だけ確率が上がるとか下がるとかではないと思います。また、どこの国でも組んでよい人と組んだらまずい人は必ずいるわけで、これも中国に限ったことではありません。 大切なのは、情報収集とか事前の勉強とかをきちんとすることです。これもまた、中国に限ったことではありませんが。

ー 須毛原

どの国に対してでも情報収集とか事前の勉強は非常に大切ですね。これを怠り、わかったつもりで行くと予想外のことが起き、「裏切られた」とか「嘘つきだ」とかいった感情が生まれてしまうのだと私も思います。

中国の魅力は予測不能なところ

ー 須毛原

富坂先生がこれだけ長い間、ずっと中国を見続けてこられたということは、何かひきつけられるものがあるということでしょうか。

ー 富坂

本当に面白くて仕方ないですね。国というのは人の一生と似ているなと思うところがあって、明治維新を見ても「廃仏毀釈」といったことが起きたり、権力の移行後の初期には大きな混乱が起こります。

中国も1960年代、70年代までは混乱期で、ここに来て中年に差し掛かった雰囲気もあったりしますが、ゼロから国を作ったので非常に面白いですね。 混乱の中から自分たちでひとつひとつ手作りで物事を進め、いろいろなことを研究し、自分たちの目指す姿をかたち作ってきました。混乱期ですからいろいろなミスを犯しトライアンドエラーで一歩一歩来たわけです。例えば、習近平氏の10年を見ても、どれだけ変わったか驚くほどだと思います。

ー 須毛原

それでは、今後も見続けられるというお気持ちですね。

ー 富坂

そうですね。私はもう取り憑かれていますね。(笑) 何と言うか、私からすると日本は退屈で様式美の世界のような気がします。コンビニに行って買い物をするにしても、レジでどんな対応をされどう帰って来るのかということまで想像できて、そこにはハプニングが無くて恐らく想像した通りになる。ところが中国では必ずしもそうならない。そういったところが好きなのかもしれません。

ー 須毛原

まさに、富坂先生が16歳で日本を飛び出した頃のお気持ちのままですね。

富坂先生にとって興味尽きない中国ですが、今後もいろいろな場での先生からのご発信を楽しみにしております。 本日は長時間にわたり貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

リージャススクエア代官山にて対談を実施。

日本のメディアは誰の味方?

日本人の多くは中国を訪れたことがなく、仕事で中国人と関わる機会もごく限られているかと思います。そのため、中国を理解する手段としては主にメディアを通じて情報を得ることになりますが、日本のメディアでは総じて中国に対して批判的な論調が見られます。

例えば、インバウンドの中国人観光客がコロナ禍以前の数字に戻っていないということに関して、各紙では「処理水問題」をその原因として大きくとりあげましたが、実は観光ビザが不要な国に中国人観光客が流れているということについて触れるメディアはごく僅かです。

また、「EVはオワコン」といった論調。
世界のEV市場を牽引する中国は、そのサプライヤーを含めて強固な陣営を築いています。現在、このサプライチェーンに日本のメーカーはほとんど参入できていません。
「オワコン」などと言っている場合ではなく、何とかここに食い込む必要があり、メディアはその後押しをできるような有用な情報を提供することにフォーカスすべきではないでしょうか。このままでは日本の基幹産業である自動車産業が世界から締め出されてしまう恐れがあります。

メディアが簡単に「オワコン」などといった扇動的な言葉を使うことによって読者をミスリードする危険性に、もっと敏感になるべきだと思います。

対談を終えて

対談を通じて、富坂先生の文字通り「是々非々」で物事を見る姿勢を強く感じました。日本国内のメディアだけでなく、世界中の情報に目を向け、客観的に分析し発言されているとの印象を受けました。

メディアがしばしば「親中国派」「反中国派」に色分けする中、富坂先生は習近平政権を過度に否定することなく、同時に全面的な支持を示すわけでもなく、中国で起きている出来事を冷静に評価なさっているように感じました。この背景には、中国をどのように捉えるべきかが日本にとって非常に重要であるという視点があります。

多くのメディアは情報を発信する際、先に立ち位置を決めがちで、得てして危機感を煽る傾向があります。これが原因で、多くの日本企業が中国の現状を見誤り、欧米に遅れを取るリスクも生じています。今後も定期的に富坂先生のお話を伺う機会を持ちたいと思っています。

社長対談一覧に戻る

PAGETOP