社長エッセイ

社長の日曜日 vol.45 三寒四温 2024.02.26 社長エッセイ by 須毛原勲

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 春一番が吹き、都心では20℃を超える日もあったが、ここに来て一転して寒い日が続き真冬に逆戻りしたようだ。もう要らないかなと片付けた手袋をまた引っ張り出してランニングしている。まさに三寒四温。一雨ごとに足元の雑草の青さが増し、春は近づきつつある。

 今週は海外で活躍する日本人スポーツ選手に勇気づけられるニュースが相次いだ。

 松山英樹選手が米男子ゴルフツアーのジェネシス招待で、最終日、9バーディー、ノーボギーで今大会ベストの62をマークし、通算17アンダーの267で逆転優勝した。これによって彼はPGAツアー通算9勝となって、チェ・キョンジュ(韓国)の記録を1勝上回った。凄いとしか言いようがない。

 韓国で開かれている世界卓球選手権団体戦、女子の決勝で日本は大会5連覇中の中国と対戦し、最終第5試合にまでもつれる接戦の末、惜しくも2対3で敗れ5大会連続の準優勝となった。もの凄い試合だった。ついつい引き込まれて最後までTVで観戦してしまった。日本のエースとなった早田ひな選手が、東京オリンピックの金メダリストで世界3位の陳夢選手を相手に逆転勝ちした試合が圧巻だった。もの凄いラリーが何度もあり、久しぶりに卓球を観てドキドキした。パリオリンピックの選手選考で落選した伊藤美誠選手がまるでコーチのように選手を勇気づけている姿も印象的だった。早田選手、平野選手、そして、成長著しい15歳の張本美和選手に大いに期待したい。パリの団体戦で中国の壁をぜひ打ち破ってほしい。

 2月24日、ロシアのウクライナ侵攻開始から2年を迎えた。

 ここ最近、メディアによってウクライナの現況が伝えられることは少なくなっていたが、2年という節目に久しぶりに伝えられた。ロシア軍の支配・侵攻面積は現在、東部・南部を中心にウクライナ全土の18%程度を占めている。直近では、年明けからロシア軍が東部地域で攻勢を強め、ドネツク州要衝のアブデーフカも制圧した。ロシア軍の支配・侵攻面積はこの1年間だけをみると、ほぼ変わっていない。戦況は膠着状態が続いている。誰かがニュース番組で言っていたが、ラグビーのスクラムのような状況で、急にどちらかが一方的にスクラムを押し進めるような状況にはならないだろう。

 人的被害は拡大している。国連は、侵攻開始以来、ウクライナで1万人を超える市民が死亡したと推計する。兵員の死傷者も増え続けている。米紙ニューヨーク・タイムズは23年8月、複数の米当局者の話として、ウクライナとロシアの兵士の死傷者が合わせて50万人近くにのぼっていると報じている。

 あの日から2年。ウクライナは兵器や弾薬の不足が深刻化し、守勢に追い込まれている。西側諸国は支援を拡大することを模索しているようだが、各国の議会の制約等もあり停滞気味である。永遠に続く戦争はないが、この状況がいつどういった形で終結するのだろう。やはり、どんなことがあっても武力衝突の状況になってはいけないのだということを改めて感じている。

 話は変わるが、当社のホームページでは、「社長対談」のコーナーを設け、多彩なゲストと様々なテーマで話をさせていただいている。最新では、元三井物産専務執行役員兼東アジア総代表の小野元生氏との対談を掲載し、お陰様で多くの方に読んでいただいている。

第一弾は「海外で仕事をする楽しさと難しさ」

第二弾は「中国・台湾でのビジネスについて」

第三弾は「グローバル人材に求められるもの」 2月29日アップ予定

 この対談をきっかけに、改めてグローバル化について考えている。

 私が新入社員として入社した当時、国際部は海外事業を急速に拡大している時期だった。事業を拡大するためにはグローバル展開が必須。そのためには、事業部に所属する皆がグローバル人材にならなければならない。20代で海外研修や現地のサポートスタッフとして海外駐在。30代で管理職として海外駐在。40代で現地法人の幹部として海外駐在。そのような経験を積ませてグローバル人材を育てようとしていた。

 現地で現地スタッフと仕事をする中で、生きた言葉も身に付いていき、グローバル人材となることが期待されていた。しかしながら、実際はそのような経験を積んでもなかなかそうはならなかった。海外にいると意外と本社向けの仕事をやらされることが多い。現地スタッフと喧々諤々とコミュニケーションしながら仕事をするよりも、日本人同士で仕事をしたり、本社向けの報告資料を作ったりする時間の方が多くなってしまったりするのだ。

 グローバル展開の先は現地化であり、現地の仕事は現地の人に任すべきという考え方のもと、現地化が進むと日本人駐在員は現地の仕事に入れなくなってしまうといったこともある。現地のスタッフからの報告だけ受けてそれを本社に報告すればいい、逆にそうすべきだと考える駐在員も少なくない。駐在先で現場でのコミュニケーションに積極的に介入しそれを深めていくには、相当の意思と努力が必要となる。

 先日、YouTubeで盛田昭夫氏のスピーチを改めて観てみた。お世辞にもきれいな発音とは言えないかもしれないが、非常に力強い話し方をされる。文法的に多少誤りがあっても、熱を持って話されるその話し方に引き込まれる。1960年代初頭にアメリカに進出、約3年で輸出比率を50%超えとし、SONYの「国際企業」としての地位を固めた。多くの海外の人から尊敬され愛されたと聞いているが、いくつかのスピーチを観ているだけで納得出来てしまう。

 言語能力は必要である。但し、言葉が出来ればグローバル人材かというと必ずしもそうではない。

 

 私が個人的にお目にかかった方々の中で圧倒的な力を感じたのは井村雅代氏(アコースティックスイミング元日本代表コーチ)である。「挑戦がなければ、人生ちゃうやん。」井村氏が多くの批判を浴びながら中国のコーチに就任されたのは有名な話であるが、その中国チームが北京オリンピックの団体で銅メダルを獲得したとき、中国選手達が井村さんに駆け寄ってメダルを首にかけてみんなで写真を撮り喜びを分かち合っていたのは本当に印象的だった。

 その北京オリンピックの前に、井村さんと北京で会食する機会を得た際、「中国語なんて話せまへん。」と井村さんは笑っていた。

 私自身、大学進学を機に東京に出てきてから40年以上が経つが、故郷の訛りは抜けない。悲しいかな、英語を話していても、中国語を話していても、発音は推して知るべしである。

 亡くなった父は生前、俳句を趣味としていた。

  梅咲いて受話器の奥の水戸訛り

 海外駐在が長かった私は、時々実家に電話をして近況を伝え合っていた。その時のことを詠んだ句か今となってはわからないが、私にはそう思えて仕方ない。

2月25日記

by 須毛原勲

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