有限会社エコ・ライス新潟 代表取締役 豊永 有氏にお話を伺う第5回。
最終回は次世代を見据えた太陽光発電の活用と、100年先の農業と食の未来図、豊永さんの座右の銘についてお話いただきます。

豊永 有氏 プロフィール
【現職】
有限会社エコ・ライス新潟 代表取締役
農地所有適格法人株式会社和 取締役
ながおか若者しごと機構 アドバイザー
新形質米利用研究会 会長
長岡機能性食品創造研究会 事務局長
新潟県山田錦協議会 事務局長
【資格】
農産物検査員(農水大臣認定)/防災士/その他、民間資格15
【主な経歴】
IDSデザイン大賞受賞、IDS THE BEST賞受賞
フードアクションニッポンアワード 優秀賞5回
青少年の体験活動推進企業 文部大臣賞受賞、審査委員会奨励賞受賞
輸出事業計画 農林水産大臣認定
地域未来牽引企業選定 経済産業大臣認定
災害食大賞2018 特別賞、復興支援賞受賞
民間放送連盟テレビ報道番組部門優秀賞受賞
フジテレビドキュメンタリー大賞特別賞
他、アルファ化米食品をはじめとする米製品の製造に関する特許、実用新案、商標権を多数取得

太陽光発電が農業にもたらす新たな可能性
ー 須毛原
話は変わりまして、垂直型太陽光パネルの話なのですが。
ー 豊永
太陽光発電ですね、垂直型パネルを駐車場に設置したのは、どうも新潟が世界で初みたいなんです。もともとドイツのものなので、ドイツではそういう使われ方はしてないのに日本では駐車場に使っていると記事になって。
ー 須毛原
事業としてやってくわけではないのですか。

ー 豊永
やります。話すと長くなりますが、営農型の何かをやる時には様々な機関の同意が必要なんですよ。市、農業委員会、土地改良区、農協などです。その中で土地改良区だけはいろいろな背景で、強行に反対されていて。
なんで田んぼでやりたいかっていうと、二つ理由があって、一つは山を切って、送電線を張って作るのに対して、我々が田んぼで作ればコストを大幅に削減できる。我々としても、自分が作ったお米で、自分のつくった電気で、例えばクッキーとかが作れるわけです。もう一つは、私たちのような縦型だと、朝日で発電して、みんなが発電する時間帯にはあまりしなくて、夕方に向かって発電すると。だからラッシュアワーを越すような形でできるから、長時間、太陽が出ている間は再生電力を作れるんですよ。
さらに、田んぼの水の反射でだいたい40%ぐらいとれて、雪の反射でも電気がとれて効率がいいんです。田んぼで太陽光発電をやると何が良いかというと、例えばそれほど大きい金額にならなくても、通年でお金が入ってくるじゃないですか。農家の一番ダメなところ、経営ができないとされる点は、秋にしかお金が入ってこないという点なんです。太陽光発電による収入が毎月入ってくるだけで農家経済は潤うし、何よりも田んぼの価値を上げることになるんです。お米だけじゃなくて電気も作る。地産地消できるんですよ。
ー 須毛原
それは素晴らしいですね。
ー 豊永
素晴らしい、だけど土地改良区では絶対に認められない。それで今年から何をやるかというと、耕作放棄地の畑でやります。
ー 須毛原
それは規制されないんですか。
ー 豊永
規制されません、土地改良区のハンコがいらないから。耕作放棄地が増えると国からペナルティが来るから、農業委員会や市役所もじゃあそこでやってくれよというのでやることになったんですね。とりあえず蕎麦を作ります。とにかく営農をしなくちゃいけない、つまり農作物を作らないと認められないので。
今実際にこの建物の外にあるのを見ていただくと、もう4年目になりますが、冬の風とか強いんですけど、びくともしないんですよね。しかも作るのは、ショベルカーで押していくだけなんですよ。だからやめる時も簡単にできるし。
ー 須毛原
これをどんどん広げていこうと考えておられるわけですね。
100年先を見据えた農業と「食」の可能性
ー 須毛原
ここまでのお話で、豊永さんの農業への思いの強さを非常に感じますが、100年、200年の時間軸で農業を考えるときに、今何をすべきか、何をしたいか、どういう風にお考えですか。
ー 豊永
まず一つに、農水省が中山間地を見るのはやめてほしいですね。環境省と国交省に見て欲しいです。国土保全の観点から、農業をやる人に一反当たり20万とか30万くらいドーンと入れるとか。農業をやらないと山が荒れていくから、雨が降ると川の水が濁る、水が濁ると鮎が食べる苔とかが生えなくなって、というようにどんどん生態系がおかしくなっているんです。国土保全のためにお金を使ってほしいと思います。
もう一つは、お米の粒にこだわらないで、お酒とか、例えば今、食の世界でのトレンドはグルテンフリーとかハラルなんですが、そのための米粉とか。私たちは、米だけの味噌、大豆を使わない味噌や、米粉だけで作った醤油も作っているんです。日本の基礎調味料を全部米由来で作る米酢があって、あと砂糖と塩があるので、そうすると日本の煮物、がめ煮でも何でも、よりグルテンフリーでできるわけじゃないですか。農家もただ単に農業するだけじゃなくて、そういうものをどんどん作っていかなくちゃいけないと思っています。
最近も、アメリカでライスミルクのアイスクリームを売っている会社、今度アメリカで上場するところの社長さんがいらして、今度コラボしようという話になったんですけれど、やはりお米にはそういう見えないバリアを超える力があるので、そういった企業と農家が結びついていくべきだと思います。
ー 須毛原
まだまだ夢は尽きない、という。
ー 豊永
そうですね。その会社が20cmぐらいの苗で、コンテナで何段にもして作ると通年で3回できるというのをテレビを見て馬鹿にしていたんですけれど、よくよく話を聞いてみると、病気とか虫の発生も抑えられるし、夏場は広い面積で農業やって、冬はそれでやればお互いにとってwin-winだし。食料自給に絶対的な差があるわけですよ、日本は作る人がいなくなっているので。
実を言うと私たちもコンテナの中で野菜栽培の試験はやっているんです。自分たちのエネルギーを使って、そこで野菜を作ろうと。それを組み合わせればいいのかなと。農家だから田んぼ、だけでなく、田んぼプラス、そういったコンテナ栽培もいいなと。
ー 須毛原
これだけアイディアが豊富な豊永さんに、農水省からメンバーになってくれという話は来ないんですか。
ー 豊永
農水省の外部委員会などには、既に私どもエコ・ライス新潟のメンバーもいます。私たちのメンバーは農業界では割とスター軍団というか、この間も稲作経営者会議というのがあったのですが、そこに参画したりしています。
ー 須毛原
やはり日本の未来を考えると、少子高齢化による人口減少は大きな問題だと思います。日本のGDP、市場が小さくなりますから、外貨を稼ぐための輸出がますます重要になってくると考えています。
けれども、私がお会いする地場産業の経営者の方々の中には、「海外」というだけで尻込みしてしまう人もいます。「海外なんて」と思っている方に対して、11カ国に進出されている豊永さんから背中を押すようなメッセージをいただけますか。
ー 豊永
そうですね。今はいろいろ便利なツールもできて、言葉はできなくても全然行けるじゃないですか。昔なんてもっと大変だったし、正直、今海外に行かない理由がよくわからないんですよ。私の会社でも行きたがらない社員が結構います。会社が金出すのに。私の子どもたちもそうで、4人いるんですけど、1人だけですよ、喜んで行くのは。

ー 須毛原
私も大学を出て入社した当時は外国人が怖いと思っていたのに、今では何とも思わない自分になってみると、なんとなく行きたくないという人の気持ちがもうわからなくなっちゃったんです。「あなたは海外にたくさん行っていて、言葉も話せるから」と言われますけど、でも私も昔は違ったし、と思いますし、そのギャップがどうしたらいいのか、どうしたら背中を押せるんでしょうか。
ー 豊永
一度、長岡市でも海外とのビジネス交流をしようと企画してやったことはあるんです。そういうファーストステップの分かりやすいところから行くしかないのかなという気がします。
ー 須毛原
そういう意味で言うと、台湾はすごくいいですね。日本の若い人は韓国が大好きですけど。僕も韓国は16回行って今も親友がいますが、ハマる人はハマる。でも台湾はね、広く日本人は好きになると思います。老若男女、若い人も年配の方も。
ー 豊永
大学時代に、留学生たちとソフトボール大会をして、韓国チームと台湾チーム、その他と日本人でやったんですけど、台湾の人たちは試合の前も食べて、もうペチャペチャペチャペチャ喋って、一方韓国は一斉に無言で食べて練習しに行くっていう、国民性が全然違いますよね。韓国は熱いんですよ。台湾はみんなと楽しそうにやっていて。
ー 須毛原
よく言うのは、日本人が一番寡黙でよくわからなくて、韓国人は熱いんですよ。ホットで。で、真ん中が中国人。実は意外と両方のバランスが取れているんです。
中国人は、皆さん普通でいい人です。もちろん人によりますが、一般的には日本人って多分中国人と相性がいいと思います。文化的な背景が近いのと、感情的な波も近いので。
今は、中国への日本の食品の輸入規制があって難しいですが、規制が撤廃されてビジネス交流が全面的に再開できるようになることを願っています。
座右の銘は「負けなければいい。」
ー 須毛原
対談の最後に、豊永さんの座右の銘を教えていただけますか。
ー 豊永
「負けなければいいんだ」ですね。勝つ必要はないので、負けなければいいんだと。農家もそうだと思います。天候とかに勝つ必要はないんで、負けなければいいんで。
ー 須毛原
人生100年時代と言われていますが、豊永さんの今後の夢についてお伺いできますか。
ー 豊永
今やっているJapan Rice Peace Project(※)というのをもっといろいろな国でやりたいですね。それこそ中国でもやってみたいです。
※Japan Rice Peace Project
日本の伝統的な主食である「お米」を通じて、食のバリアフリー化や世界の平和、環境保全、地域文化の継承を目的として展開されているプロジェクト
Japan Rice Peace Project
ー 須毛原
是非、今後もいろいろなところで、ご一緒させていただければと思います。
本日は長時間にわたりありがとうございました。
対談を終えて

豊永さんのお話を伺って、まず胸に残ったのは、湧き出るように尽きないアイデアと、それを形にしていく行動力でした。けれどもう一段深いところで私の心を掴んだのは、その源にあるものが、徹頭徹尾「人」だったということです。出会いと、アイデアと、それを実現する力。この三つが一つに溶け合った生き方そのものに、私は引き込まれていきました。
最初は「よそ者」でしかなかったという長岡で、農協を通さず自ら米を売る――その挑戦は、当時の常識からすれば裏切りにも等しいもので、何をやっても叩かれた、と豊永さんは振り返ります。その逆風の中で会社の姿を決定づけたのが、2004年の中越地震でした。日本一の米の産地で、有機栽培という高みにいるはずだった自分が、「そのお米さえ食べられない人がたくさんいる」という現実の前に立たされる。どんな人でも食べられる米を作る――低タンパク・低グルテンへと舵を切ったその転換は、敗北の経験から生まれた、もっとも力強い再生でした。
だからでしょうか。豊永さんの仕事には、いつも「復活」という言葉が寄り添っています。
糸魚川の大火で全焼した加賀の井酒造の再建。昭和に絶えた幻の酒米・白藤の復活。そして、車いすラグビーの選手たちと醸す、金メダルへの一杯。「復活と復活と復活」と笑いながら語られた言葉に、豊永さんという人の核心が宿っているように感じました。
座右の銘は「負けなければいい」。
勝つ必要はない、負けなければいいのだと豊永さんは言います。天候に勝とうとするのではなく、ただ負けない。よそ者と呼ばれた歳月も、震災も、関税の逆風も、すべてをこの静かな構えで越えてこられたのだと思うと、短い言葉の重みが、じわりと胸に沁みてきます。
エコ・ライス新潟の保存食が、台湾へ向けて横浜港を発ちました。
単なる物販ではなく、お米の背景にある文化と歴史ごと世界へ届けたい――豊永さんのその志は、Japan Rice Peace Projectとして、これからさらに多くの国へと広がっていくことでしょう。
豊永さんはきっと、まだ見ぬ食卓へ向けて、これからも軽やかに種を蒔き続けていかれるのだと思います。
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